ヒーローショーと恋のアクション

「会いたくなったらすぐ行くから震えたりしねぇ！」

「会いたくて震えるってどういうこと？」

カフェの窓際、柔らかな陽射しが差し込む席で、乃々花はカフェラテのスプーンをくるくる回しながら、美月に唐突な質問を投げかけた。
「ねえ、美月。『会いたくて会いたくて震える』ってどういうこと？」

対面で抹茶ラテを飲んでいた美月は一瞬手を止め、眉をひそめた。「また少女マンガの話？」

「違うの！昨日たまたまテレビで聞いたの。でもさ、私、そんなふうに人に会いたいって思ったことないなーって」
乃々花はスプーンを置き、テーブルに肘をついて首をかしげる。その顔は本気でわからないと訴えているようだった。

「うーん、まあ、それくらい好きな人がいればそうなるんじゃない？けど、あんた今、彼氏いるでしょ？真木くんに会いたくて震えたりは…しないわけ？」美月がニヤリと笑うと、乃々花はすかさず手を振った。

「震えるどころか、あの人ってばいつも急に現れるし！むしろびっくりして震えることはあるかも。あ、そういえばこの前、唐突に手料理作るって言い出して――」

その話が始まると同時に、ガラッとカフェの扉が開いた。入ってきたのは颯真と晴翔だった。颯真がすぐにこちらに気づき、片手を上げる。「おっ、こんなとこにいたのか。お邪魔していい？」

晴翔は颯真の後ろから肩をすくめる。「お邪魔っていうか、あいつが勝手に来たんだよ」

「勝手にじゃないだろ。晴翔、お前も『乃々花ちゃんに会いたくて震える』とか言ってたじゃん」颯真が口角を上げながら言うと、晴翔は大きな声で「言ってねえ！」と反論した。

乃々花は目をぱちくりさせ、「え、晴翔くんが震えるほど私に会いたいの？」と純粋に問いかけた。その無邪気な一言が致命傷だと気づかないまま。

「っ…誰が震えるって言ったよ！颯真、余計なこと言うな！」晴翔は顔を赤くしてそっぽを向く。その反応を見て、美月は小さく吹き出した。「晴翔くん、意外とわかりやすいね」

颯真は楽しそうに笑いながら席に座り、肩を竦める。「まあまあ、照れるなって。乃々花ちゃん、晴翔もなかなか大変なんだぞ。お前に会いたいって思っても、素直に言えなくて」

「颯真、今すぐ黙れ！」晴翔が拳を握りしめる中、乃々花は「うーん、じゃあ晴翔くんは、震えるほどじゃなくても私に会いたいことはあるの？」と真剣な顔で聞いた。その真っ直ぐな視線に、晴翔は言葉に詰まり、ついに「あーもう知らねえ！」と声を上げた。

美月と颯真は顔を見合わせて笑い合い、乃々花は「ねえ、教えてよ」と追い打ちをかける。晴翔の耳まで真っ赤になったその様子に、颯真は「これが『会いたくて震える』ってやつだろ」と呟き、また笑い声を響かせた。



「俺はな、会いたくなったらすぐに行くから、震えたりはしねぇ！」

晴翔が不機嫌そうに腕を組みながら言い切った瞬間、その場の空気が一瞬止まった。颯真がコーヒーを飲みかけたまま吹き出しそうになり、美月が「それ、すごい墓穴よ？」と小声で指摘する。

一方の乃々花は目を丸くし、感動したように両手を胸の前で組んだ。「えっ、それってすごくロマンチックじゃない！？晴翔くん、そんなに私に会いたいって思うことがあるんだ！」

「おい、待て！そういう意味じゃねえ！」晴翔は慌てて否定しようとするが、乃々花は全く気にしていない様子で身を乗り出す。「でも、震えるほど会いたいってよりも、すぐ来てくれる方が嬉しいかも！晴翔くんって、そういうところ優しいよね！」

その言葉に晴翔は一瞬口を開きかけたが、どう返していいかわからず目を泳がせる。「べ、別に優しいとかじゃねえし…お前が何かやらかしそうだから、見張ってるだけだっつの！」

「ああ、そういうことなのか？」颯真が茶化すようにニヤつき、さらに晴翔を追い詰める。「なら、昨日も『夜遅いのに乃々花ちゃん一人で帰らせるの危ねぇだろ』って言いながら、走って迎えに行ったのも、見張りか？」

「颯真、お前、黙れって言ってんだろ！！」晴翔の声がカフェに響き渡り、店員が一瞬こちらをちらりと見る。

その間も乃々花は「えっ、そんなことがあったの！？全然気づかなかった！晴翔くん、やっぱりすごいね！私、こんなに守られてるなんて幸せ者だなぁ！」と感動の極みのように言う。

晴翔は思わず頭を抱えた。「お前な…頼むからもう少し静かにしてくれよ…」

美月は笑いを堪えきれず、「晴翔くん、もう諦めなよ。乃々花に論破されるの、見てて楽しいわ」と肩をすくめる。颯真も「晴翔、お前本当は乃々花ちゃんに振り回されるの好きなんだろ？」と追い打ちをかけた。

「なんで俺がこんな目に…！」とうめき声を上げる晴翔を横目に、乃々花は嬉しそうにカフェラテを一口飲む。彼女の頭の中ではもう、「会いたくて震えない代わりにすぐ駆けつけてくれる彼氏」という晴翔像が完璧に出来上がっていたのだった。