ヒーローショーと恋のアクション

ねむたん

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舞台裏の出会い

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眩しい照明の下、観客席からは子どもたちの歓声が響き渡っていた。ヒーローショー「光の戦士ブライトセイバー」。その主役、晴翔こと「ブライトセイバー」が悪役を華麗に退治し、マントを翻して決めポーズを取ると、子どもたちから「セイバー!」という熱い声援が飛ぶ。

舞台袖では、乃々花がマイクを片手に待機していた。今日が司会者「のの姉さん」としてのデビュー日。笑顔で進行することを練習してきたはずだったが、想像以上の熱気に頭が真っ白になりそうだ。

「さあみんな!ブライトセイバーがやってきたよ!今日はどんな悪者が現れるのかな?」

意気込んで出て行ったまでは良かった。しかし、乃々花の頭には台本の内容が飛んでいた。「台本通りやれば大丈夫」と自分に言い聞かせながらも、勢いのままアドリブで話し始めたのが悲劇の始まりだった。

「セイバーさん!今日は何を食べてきましたか?」

観客の子どもたちは笑いながら盛り上がる。だが、晴翔は舞台の上で一瞬固まった。打ち合わせにない質問だったからだ。

「……いや、そんなこと聞くなよ。誰得だよ、その質問。」小声で呟きつつ、晴翔はさっと対応を切り替えた。「もちろん、正義のエネルギーさ!それより、悪の幹部ダークロードが現れるらしいぞ!」

晴翔の機転で場は盛り上がりを見せたが、司会者が完全に台本を無視していることに悪役も戸惑いを隠せない。結果、セリフのタイミングがずれたり、アクションが噛み合わなかったりと、ショー全体が混乱し始めた。

「さぁ、みんな!悪い人たちには大きな声で応援して、ブライトセイバーを助けよう!」

乃々花の無邪気な呼びかけに、子どもたちが一斉に「がんばれー!」と声を上げる。それが功を奏したのか、晴翔は最後までアクシデントをものともせず、ヒーローらしくショーを締めくくった。

ショーが終わり、舞台裏に戻った晴翔は息をつく間もなく乃々花に詰め寄った。「お前、台本見てたか?」

乃々花は、ニコニコしながら「もちろん!でも、アドリブのほうが盛り上がるかなって思って!」と悪びれた様子もなく答える。

「盛り上がるかなって……」晴翔は額に手を当てた。「あれはヒーローショーだぞ。子どもたちの夢を壊さないように綿密に計算された台本があるんだよ。それを無視してどうするんだよ!」

「でも、子どもたち笑ってたでしょ?」乃々花は満足そうに胸を張る。「私も一緒に盛り上がりたかっただけだよ。それに晴翔くんが全部フォローしてくれたから大成功だったじゃない!」

その言葉に、晴翔はため息をついた。「確かにフォローしたけどさ…。俺がいなかったらどうなってたと思う?」

「えー、大丈夫だったよ!だって、晴翔くんがいるって分かってたから、思い切ってやれたんだもん!」乃々花は屈託のない笑顔で言う。その無邪気な言葉に晴翔は思わず言葉を失った。

「……なんでそんなに人を信用できるんだよ…」と呟くと、乃々花は「だって、晴翔くんはヒーローでしょ?」と笑いながら答えた。その一言に、晴翔は反論する気力を完全に失ってしまった。

その日から、二人は職場で「最強コンビ」と呼ばれるようになり、ヒーローショーの顔としてさまざまな現場に駆り出されることになる。しかし、晴翔の心の中には一つの不安が生まれていた。それは、この暴走司会者を一生フォローし続ける未来が見えた気がしたことだった。





ヒーローショー「ブライトセイバー」の人気は右肩上がりだった。特に晴翔と乃々花の掛け合いは「アクシデント込みで面白い」と評判になり、ファンからのリクエストで二人が揃うショーが増えていく。晴翔はそのたびに「あの暴走司会者をなぜセットで呼ぶんだ」と思いながらも、仕事に対する責任感から黙々と対応を続けていた。

そんなある日、会社の打ち合わせ室で晴翔と乃々花は次のショーの台本を渡されていた。晴翔は台本に目を通しながら、ふと横の乃々花を見ると、彼女が黙り込んでいるのに気づいた。

「どうした?」

「…これ、台本ほとんどないんだけど?」乃々花がそう言いながら台本をペラペラとめくる。確かに、彼女が話すはずのセリフや進行の指示はほとんど書かれておらず、要点だけが箇条書きになっていた。

「え、これ、私に全部アドリブでやれってこと?」乃々花が驚いた声を上げる。

上司が苦笑しながら答える。「まあ、君の即興力が観客に受けてるからね。お客さんもアクシデント込みで楽しみにしてるし、自由にやってくれて構わないよ」

「いやいや、自由にって…そんなの無理ですよ!」乃々花が慌てる横で、晴翔は台本をテーブルに置いた。「観客の期待に応えるのは分かりますけど、あんまり無茶な要求しないでくださいよ。こっちが振り回されるんで」

「君たちなら大丈夫だろう?晴翔君のフォローがあるんだし」上司は笑いながら場を締めようとする。

晴翔は内心で「またか…」と呟きながら、ふと隣を見ると乃々花が目を伏せて黙っているのに気づいた。

帰り道、晴翔と乃々花は並んで歩いていた。乃々花は手に持った薄い台本を何度も眺めながら、ぽつりと呟いた。「私、やっと台本通りにできるようになってきたのに。なのに、それを取り上げられるなんて…」

その声にはいつもの元気が感じられず、晴翔は少し驚いた。

「お前、そんなに台本守るのに必死だったのか?」

「当たり前でしょ。私、もともと人前で話すのとか苦手だったし、失敗するのが怖いから頑張ってたんだよ。でも、なんかそれって意味なかったのかな…」乃々花は歩きながら小さく溜息をついた。

晴翔はいつもの乃々花らしくない弱気な言葉に戸惑いながらも、「そんなの気にすることないだろ」と言った。「お前のやり方がウケてるってことじゃん。それに、俺がちゃんとフォローしてやるんだから心配すんな」

乃々花は晴翔の顔をじっと見つめた。「…晴翔くんって、なんだかんだ言って頼りになるよね。ヒーローっぽい!」

「ヒーローっぽいってなんだよ」晴翔は苦笑しながら肩をすくめた。「でも、俺だってお前みたいな司会者をフォローするのは一苦労なんだぞ。もっと俺の負担を減らしてくれよ」

「ふふっ、悪いね。これからもよろしく!」乃々花が笑顔で言うと、晴翔は頭を掻きながら「はぁ…なんで俺がこんな奴とコンビ組んでんだろうな」と呟いた。

次回のショー当日。乃々花は覚悟を決め、観客の前に立った。晴翔も舞台裏で「今回はどんな暴走が起きるのか…」と不安になりながら準備を整える。

だがこの日、乃々花が思い切って台本を外して挑むショーは、また新たな波乱と笑いを巻き起こすことになるのだった。
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