ヒーローショーと恋のアクション

ねむたん

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ハプニングの救世主

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ショーは佳境を迎えていた。ブライトセイバーこと晴翔が悪の幹部ダークロードと激しい戦いを繰り広げる中、子どもたちの「頑張れ!」という声援が場をさらに盛り上げていた。乃々花もマイクを握り、テンポよく応援を煽る。

「みんな、もっと大きな声でブライトセイバーを応援しよう!悪のダークロードを倒すのは君たちの声だ!」

晴翔が必殺技を繰り出し、ダークロードの剣を弾き飛ばした瞬間、会場は拍手と歓声に包まれた。しかし、その時だった。ダークロードの仮面がするりと顔から外れ、観客席の視線が一斉に悪役の素顔に注がれた。

「お、おい!」舞台裏からスタッフの動揺する声が聞こえる中、悪役役の男性は中腰になり、素顔を隠そうと慌てていた。つぶらな瞳と控えめな顔立ちが、彼の悪役らしさを一瞬で吹き飛ばしてしまう。

静まりかけた会場に、乃々花がとっさにマイクで声を張り上げた。

「おーっと!意外とつぶらな瞳が出てきちゃいましたね!ダークロードさん、実は可愛い顔してるんですねー!」

その言葉に、観客席から笑い声が漏れる。乃々花は続けて、「みんな、どう思う?この顔、実は優しそうかも!」と冗談交じりに観客に投げかけると、子どもたちから「ほんとだー!」「優しそう!」と声が返ってきた。

ダークロード役の男性は焦りながら顔を隠し続けていたが、そこに晴翔が間に入った。

「皆さん!敵とはいえ、これは彼にとって一大事だ!」晴翔は悪役を覆うように自分のマントを広げ、彼を隠した。毅然とした態度で観客を見回しながら、「悪を演じる者にもプライドがある!今はそっとしておいてくれ!」と胸を張る。

その台詞に、観客席は一瞬の静寂の後、爆笑と拍手に包まれた。子どもたちから「優しい!」「さすがブライトセイバー!」という声が上がる中、晴翔はダークロードをそっと支えながら舞台袖に引き上げた。

舞台袖に戻ると、仮面を外したダークロード役の男性が深く頭を下げた。「すみません、仮面の留め具が壊れてしまって…」

晴翔は肩をすくめて「まあ、ハプニングは付き物だしな」と笑った。「ただ、もう少ししっかり仮面をつけといてくれよ。こっちはフォローでヒヤヒヤするんだから」

乃々花も微笑みながら「でも、結果オーライじゃない?お客さん、すごく喜んでたよ!」と肩を叩く。

「いや、それお前が変なこと言うからだろ」晴翔が苦笑いを浮かべると、乃々花は悪びれることなく胸を張った。「私のアドリブ力も成長してるってことでしょ!」

晴翔はその言葉に小さくため息をつきながらも、どこか楽しげな表情を浮かべていた。「お前が暴走しても、なんだかんだで場が盛り上がるのが悔しいけどな」

「まあ、これからも頼りにしてるよ!ブライトセイバーさん!」乃々花が茶化すように言うと、晴翔は「頼るなっての!」と返した。

その日のショーの評判は大盛況だった。「ヒーローが悪役を守るなんて新しい!」「本物の正義の味方だ!」と観客から称賛の声が上がり、二人のコンビはますます人気を集めることになる。しかし、晴翔は心の中で思うのだった。「俺の胃が持つのか、これからも…」




ショーの成功を祝う打ち上げは、大いに盛り上がった。スタッフや共演者たちの笑い声が響き、テーブルには色とりどりの料理やドリンクが並ぶ。中心には乃々花がいて、「いやー!今日の私、なかなかよかったんじゃない?」と明るく話していた。周囲も「さすが乃々花さん!」「晴翔くんとの掛け合い最高でしたよ!」と持ち上げる。

晴翔は端で苦笑しながら飲み物を口に運んでいたが、何度か目が合った乃々花がニッと笑いかけてくるたび、なんとも言えない気持ちになっていた。「あいつ、本当に疲れ知らずだな」と心の中で呟く。

打ち上げが終わり、スタッフたちがそれぞれ帰路につく中、晴翔と乃々花は偶然にも同じ方向だったため、二人で歩くことになった。

夜の街は静かで、にぎやかな打ち上げの余韻が薄れるにつれて、二人の間にも自然と穏やかな空気が流れていた。

「いやー、今日は本当に疲れたなあ」乃々花が頭の後ろで手を組みながら言った。「でも、ショーは大成功だったし、よかったよね?」

晴翔はポケットに手を突っ込みながら「まあな。お前が変なことしなかったら、もっと楽だったけど」と肩をすくめた。

乃々花はそれに「変なことしてる自覚はあるよ!」と笑いながら応じたが、ふと歩みを止めた。そして、夜道の街灯の下で振り返り、少しだけ真剣な表情を浮かべた。

「ねえ、晴翔くん」

「ん?」

「私、本当にダメダメだったと思うんだよね。最初は台本どおりにやるだけで精一杯で、晴翔くんがフォローしてくれなかったら、きっとここまでやれなかった」

彼女の声は普段の元気さとは違い、どこか控えめだった。その視線がまっすぐ向けられた先で、晴翔は少しだけ目を見開いた。

「だから、本当に感謝してるんだ。晴翔くんのおかげで、ここまでやってこれたよ」

晴翔は数秒、彼女の言葉を飲み込むように黙った後、苦笑しながら顔を少し横に向けた。「感謝なんていらねえよ。俺だって、あの頃はお前の暴走に振り回されるのが嫌で仕方なかったしな」

乃々花は「それ、今もじゃない?」と軽く突っ込むが、晴翔はふと表情を和らげた。「いや、今は違う。お前の暴走も悪くないって思えるようになったんだ」

「え?」乃々花が目を瞬かせる。

「たぶん、俺もお前に振り回されてるうちに、そういうのが嫌いじゃなくなったんだと思う」

彼の声は静かで、普段のぶっきらぼうな口調の中にどこか誠実さがあった。その言葉の意味を乃々花は一瞬考え込む。

「俺にとって、お前は誰よりも大事な相棒なんだ」

真剣な表情でそう告げる晴翔の目は、曇りなくまっすぐだった。乃々花は胸が少しだけざわつくのを感じながら、彼を見つめ返した。

「…そっか、私、相棒としては合格なんだね」

少し照れ隠しのように微笑みながら乃々花が答えると、晴翔も少し笑みを浮かべた。「まあな。でも、もっと俺の負担を減らしてくれよ」

「うん、努力する!…たぶん」

二人は軽口を叩き合いながら歩き出す。その夜、静かな街を歩く二人の間には、いつもとは少しだけ違う距離感が生まれていた。
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