ヒーローショーと恋のアクション

ねむたん

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晴翔の相談

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晴翔と乃々花は昼休みのオフィスで、上司から呼び出されていた。渡されたのは、小道具の買い出しリストとスイーツブッフェのペアチケット。

「このリストのものを買ってきてくれ。お前たち、外回りついでに少し息抜きしてこいよ」

上司の軽い口調に、晴翔は少し眉をひそめた。「え、買い出しはわかりますけど、このスイーツブッフェの券って…?」

乃々花が興味津々にチケットを覗き込む。「えっ、これ行っていいんですか?めっちゃ豪華そう!ケーキとかタルトとか食べ放題!」

「お前ら、最近のショーで頑張ってるからな。たまにはご褒美だ。ほら、颯真、お前もこの二人が息抜きできるように応援してやれよ」

名前を呼ばれた颯真が、デスクから顔を上げてニヤリと笑った。晴翔の同期であり、悪役役者として一緒にショーを盛り上げる相棒のような存在だ。

「へえ、スイーツブッフェか。晴翔、お前、甘いものとか全然興味なさそうだけど、乃々花さんの前で甘党デビューでもしてくるのか?」

「は?なんでそうなるんだよ」晴翔は呆れたようにため息をついた。

颯真は肩をすくめながら、「いやいや、最近お前ら仲良すぎるからさ。そろそろデート気分でも味わってくる頃合いなんじゃねえの?」とからかうように言う。

「バカ言うな。俺たちは仕事で行くんだよ」晴翔は面倒くさそうに答えるが、横で乃々花が「デート気分!いいね!晴翔くん、スイーツたくさん食べられるように胃袋鍛えてきた?」と乗っかるように笑いながら言った。

「いや、お前まで乗るなって!」晴翔は慌てたが、颯真はさらに楽しそうに追い打ちをかける。「おいおい、晴翔。乃々花さん、期待してるみたいじゃん。頑張れよ、相棒」

晴翔は「ほんと余計なことばっか言いやがって…」と小さく毒づきながら、チケットをポケットにしまい込んだ。乃々花はニコニコと嬉しそうにしている。

その日の午後、買い出しに出かけた二人は、リストを手に雑貨屋や専門店を巡った。途中、乃々花が「あ、これ可愛い!」とアドリブで使えそうな小道具を見つけるたびに、晴翔が「それリストにないだろ」と突っ込むのを繰り返していた。

「でもこれ、絶対ショーで役立つと思うんだよね」

「いや、それフォローする俺がまた大変になるやつだろ」

言いながらも晴翔は結局、彼女が選んだものをカゴに入れてしまう。

買い物を終え、二人はスイーツブッフェの会場へ向かった。晴翔は少し気乗りしない様子だったが、乃々花が「晴翔くん、ケーキどれがいい?」と笑顔でリードしてくれるおかげで、次第にその雰囲気に馴染んでいった。

颯真の「がんばれよ」という言葉がふと脳裏をよぎるたび、晴翔は小さくため息をつきながらも、なんだかんだで楽しんでいる自分に気づいていた。





ヒーローショーの舞台裏で、晴翔は一人考え込んでいた。打ち上げの帰り道、乃々花に「お前は大事な相棒だ」と告げたものの、彼女はそれをただの仲間としての言葉だと思ったようだった。

「全然伝わってねぇ…」

晴翔はぼそりと呟き、頭を掻いた。だが、どうしたら彼女に気持ちを伝えられるのか皆目見当がつかない。そんな時、彼女の友人であり、ヒーローショーの常連観客でもある美月の顔が浮かんだ。

彼女なら乃々花の考えを理解しているかもしれない。晴翔は意を決して美月に連絡を取った。

休日の昼下がり、カフェのテラス席に晴翔と美月、そして颯真の姿があった。颯真は、晴翔が「相談に乗ってほしい」と頼んだ手前、面白がってついてきたのだ。

「なるほど、乃々花ちゃんに告白したけど、全然伝わってない、と」美月が紅茶を飲みながら言う。

「まあ、伝え方が悪いんじゃねえの?」と颯真が横から茶化した。「お前のあの不器用な口調じゃ、相棒って言われたら普通に仲間扱いされるだろ」

「だとしても、俺なりに真剣だったんだよ!」晴翔はやや声を荒げたが、颯真に「だから、その真剣さが空回りしてんだって」と軽くいなされた。

美月は笑いをこらえながら、「でも、晴翔くんって乃々花ちゃんのこと、本当に好きなんだね」と真面目な顔になった。

「当たり前だろ」晴翔は少し頬を赤らめながら答えた。「俺にとってあいつは、ただの相棒じゃない。振り回されるのも面倒だと思ってたけど、今はそれも全部含めて好きなんだよ」

その言葉を聞いた美月はしばらく考え込むように目を閉じた。そして顔を上げて言った。「乃々花ちゃんって、確かに少し鈍感なところがあるけど、感情には素直な子だよね。だから、もっとストレートに気持ちを伝えたらどうかな?」

「ストレートに?」晴翔は首を傾げた。

「うん、例えばショーの中で、それっぽい演出をしてみるとか。乃々花ちゃんって、意外とヒーローショーの中でのアドリブが響くこと多いじゃない?」

颯真がそれに乗っかり、「おっ、それいいじゃん。次のショーでプロポーズ紛いのことでもしてみたらどうだ?客も盛り上がるし、乃々花さんに直球でぶつけられるだろ」

「いや、そんな恥ずかしいことできるかよ…」晴翔は顔をしかめたが、美月は微笑んだ。「恥ずかしいかもしれないけど、それくらい大胆なほうが乃々花ちゃんには伝わると思うな」

颯真が笑いながら肩を叩いた。「晴翔、お前がヒーローのくせにヘタレだと、乃々花さんも困るだろ。ここは思い切ってカッコいいところ見せとけよ」

晴翔は二人の言葉に押され、しばらく逡巡していたが、意を決したように頷いた。「…わかった。やるよ。俺がヒーローなら、ここで逃げるわけにはいかねぇからな」

颯真が「その意気だ」と笑い、美月も「応援してるからね」と頷く。

晴翔の胸には、不安と期待が入り混じる新たな決意が芽生えていた。そして次のヒーローショーは、いつも以上に特別なものになりそうだった。

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