4 / 6
晴翔の相談
しおりを挟む晴翔と乃々花は昼休みのオフィスで、上司から呼び出されていた。渡されたのは、小道具の買い出しリストとスイーツブッフェのペアチケット。
「このリストのものを買ってきてくれ。お前たち、外回りついでに少し息抜きしてこいよ」
上司の軽い口調に、晴翔は少し眉をひそめた。「え、買い出しはわかりますけど、このスイーツブッフェの券って…?」
乃々花が興味津々にチケットを覗き込む。「えっ、これ行っていいんですか?めっちゃ豪華そう!ケーキとかタルトとか食べ放題!」
「お前ら、最近のショーで頑張ってるからな。たまにはご褒美だ。ほら、颯真、お前もこの二人が息抜きできるように応援してやれよ」
名前を呼ばれた颯真が、デスクから顔を上げてニヤリと笑った。晴翔の同期であり、悪役役者として一緒にショーを盛り上げる相棒のような存在だ。
「へえ、スイーツブッフェか。晴翔、お前、甘いものとか全然興味なさそうだけど、乃々花さんの前で甘党デビューでもしてくるのか?」
「は?なんでそうなるんだよ」晴翔は呆れたようにため息をついた。
颯真は肩をすくめながら、「いやいや、最近お前ら仲良すぎるからさ。そろそろデート気分でも味わってくる頃合いなんじゃねえの?」とからかうように言う。
「バカ言うな。俺たちは仕事で行くんだよ」晴翔は面倒くさそうに答えるが、横で乃々花が「デート気分!いいね!晴翔くん、スイーツたくさん食べられるように胃袋鍛えてきた?」と乗っかるように笑いながら言った。
「いや、お前まで乗るなって!」晴翔は慌てたが、颯真はさらに楽しそうに追い打ちをかける。「おいおい、晴翔。乃々花さん、期待してるみたいじゃん。頑張れよ、相棒」
晴翔は「ほんと余計なことばっか言いやがって…」と小さく毒づきながら、チケットをポケットにしまい込んだ。乃々花はニコニコと嬉しそうにしている。
その日の午後、買い出しに出かけた二人は、リストを手に雑貨屋や専門店を巡った。途中、乃々花が「あ、これ可愛い!」とアドリブで使えそうな小道具を見つけるたびに、晴翔が「それリストにないだろ」と突っ込むのを繰り返していた。
「でもこれ、絶対ショーで役立つと思うんだよね」
「いや、それフォローする俺がまた大変になるやつだろ」
言いながらも晴翔は結局、彼女が選んだものをカゴに入れてしまう。
買い物を終え、二人はスイーツブッフェの会場へ向かった。晴翔は少し気乗りしない様子だったが、乃々花が「晴翔くん、ケーキどれがいい?」と笑顔でリードしてくれるおかげで、次第にその雰囲気に馴染んでいった。
颯真の「がんばれよ」という言葉がふと脳裏をよぎるたび、晴翔は小さくため息をつきながらも、なんだかんだで楽しんでいる自分に気づいていた。
ヒーローショーの舞台裏で、晴翔は一人考え込んでいた。打ち上げの帰り道、乃々花に「お前は大事な相棒だ」と告げたものの、彼女はそれをただの仲間としての言葉だと思ったようだった。
「全然伝わってねぇ…」
晴翔はぼそりと呟き、頭を掻いた。だが、どうしたら彼女に気持ちを伝えられるのか皆目見当がつかない。そんな時、彼女の友人であり、ヒーローショーの常連観客でもある美月の顔が浮かんだ。
彼女なら乃々花の考えを理解しているかもしれない。晴翔は意を決して美月に連絡を取った。
休日の昼下がり、カフェのテラス席に晴翔と美月、そして颯真の姿があった。颯真は、晴翔が「相談に乗ってほしい」と頼んだ手前、面白がってついてきたのだ。
「なるほど、乃々花ちゃんに告白したけど、全然伝わってない、と」美月が紅茶を飲みながら言う。
「まあ、伝え方が悪いんじゃねえの?」と颯真が横から茶化した。「お前のあの不器用な口調じゃ、相棒って言われたら普通に仲間扱いされるだろ」
「だとしても、俺なりに真剣だったんだよ!」晴翔はやや声を荒げたが、颯真に「だから、その真剣さが空回りしてんだって」と軽くいなされた。
美月は笑いをこらえながら、「でも、晴翔くんって乃々花ちゃんのこと、本当に好きなんだね」と真面目な顔になった。
「当たり前だろ」晴翔は少し頬を赤らめながら答えた。「俺にとってあいつは、ただの相棒じゃない。振り回されるのも面倒だと思ってたけど、今はそれも全部含めて好きなんだよ」
その言葉を聞いた美月はしばらく考え込むように目を閉じた。そして顔を上げて言った。「乃々花ちゃんって、確かに少し鈍感なところがあるけど、感情には素直な子だよね。だから、もっとストレートに気持ちを伝えたらどうかな?」
「ストレートに?」晴翔は首を傾げた。
「うん、例えばショーの中で、それっぽい演出をしてみるとか。乃々花ちゃんって、意外とヒーローショーの中でのアドリブが響くこと多いじゃない?」
颯真がそれに乗っかり、「おっ、それいいじゃん。次のショーでプロポーズ紛いのことでもしてみたらどうだ?客も盛り上がるし、乃々花さんに直球でぶつけられるだろ」
「いや、そんな恥ずかしいことできるかよ…」晴翔は顔をしかめたが、美月は微笑んだ。「恥ずかしいかもしれないけど、それくらい大胆なほうが乃々花ちゃんには伝わると思うな」
颯真が笑いながら肩を叩いた。「晴翔、お前がヒーローのくせにヘタレだと、乃々花さんも困るだろ。ここは思い切ってカッコいいところ見せとけよ」
晴翔は二人の言葉に押され、しばらく逡巡していたが、意を決したように頷いた。「…わかった。やるよ。俺がヒーローなら、ここで逃げるわけにはいかねぇからな」
颯真が「その意気だ」と笑い、美月も「応援してるからね」と頷く。
晴翔の胸には、不安と期待が入り混じる新たな決意が芽生えていた。そして次のヒーローショーは、いつも以上に特別なものになりそうだった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる