ヒーローショーと恋のアクション

ねむたん

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ヒーローの告白作戦

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次のショーの台本が晴翔の手に渡されたとき、彼はすぐに確認した。いつもと変わらない正義と悪の戦いが描かれていたが、今回は晴翔自身がアドリブで特別なシーンを作り上げるつもりだ。

舞台裏でリハーサルの準備をしていると、颯真がニヤニヤしながら近づいてきた。「どうだ?覚悟は決まったか?」

「うるせえな」晴翔はそっけなく答えたが、顔が少し引きつっている。「俺だって怖いもんくらいあるんだよ」

颯真は肩をすくめて笑い、「お前が怖いって言うなんて珍しいな。まあ、失敗したら俺が全部笑いに変えてやるから安心しろ」と言って立ち去った。

晴翔はため息をつきつつも、自分の役割を心に刻んだ。ヒーローとして、人々の前で堂々と立ち、正義を貫く。それが自分の仕事だ。そして今日は、その正義に自分の本音を込めるつもりだった。

ショーが始まり、会場は子どもたちの声援と拍手で包まれた。晴翔は颯爽と登場し、颯真演じる悪役と戦いを繰り広げた。

途中、颯真が予定外に晴翔に向かって挑発する。「ヒーロー、お前には守りたい誰かがいるのか?正義なんて叫んでるが、所詮一人じゃ何もできないんだろう?」

観客が息を飲む中、晴翔は一瞬動きを止めた。しかし、その次の瞬間、剣を構え直して毅然と答えた。「俺には守りたい相棒がいる。その人が俺をヒーローにしてくれるんだ」

颯真が「ほう、そいつはどんな奴だ?」と悪役らしい声色で尋ねると、晴翔は客席を一瞥した。そして、舞台袖で司会進行をしている乃々花のほうをチラリと見た後、力強く続けた。「いつも暴走して俺を困らせるけど、その笑顔を見るとどんな困難だって乗り越えられる気がする奴だよ!」

会場からは歓声が上がり、子どもたちが「ヒーローがんばれー!」と応援する。颯真はそれに応えるように悪役として攻撃を仕掛けたが、晴翔はそれを一撃で受け止め、「お前の悪事を許すわけにはいかない。俺には守るべき人がいるからな!」と締めくくった。

ショーの幕が下り、舞台裏に戻った晴翔は全身に汗をかいていた。乃々花が駆け寄り、「晴翔くん、すごかったよ!今日のお客さん、すっごく盛り上がってたね!」と笑顔で話しかけてきた。

「…ありがとな」晴翔は少し照れくさそうに答えた。だが、乃々花は晴翔の目をじっと見つめてきた。

「でもさ、あの台詞って…」乃々花が何か言いかけたところで、颯真が割って入った。「おーい、二人とも!さっさと片付けないと上司に怒られるぞ!」

晴翔は助け舟に感謝しながらも、心のどこかで言葉を遮られたことに少し残念な気持ちを抱いていた。

だが、乃々花の顔にはいつも以上に何か考えているような表情が浮かんでいる。それに気づいた晴翔は、再び自分の気持ちをどう伝えればいいのか、考え始めていた。





ショーの片付けを終えた帰り道、晴翔と乃々花は並んで歩いていた。夜風が心地よく、二人の足音だけが静かな公園に響いていた。花壇の花々がライトに照らされ、淡い色彩を浮かび上がらせている。

乃々花は、ショーでの晴翔の言葉を思い返していた。「守るべき相棒」──それは誰のことだったのだろう。彼女の胸には小さな引っかかりが残っていたが、尋ねる勇気が出ないまま歩を進めていた。

そんな彼女の横顔をちらりと見た晴翔は、一つ深呼吸をした。颯真や美月に言われた言葉が頭をよぎる。まどろっこしい遠回しはもうやめだ。俺はヒーローだろ?正々堂々、直球勝負で行くべきだ。

晴翔は足を止めた。「乃々花」

呼ばれた彼女も立ち止まり、顔を向ける。「どうしたの?」

彼は少し照れくさそうに口を開いた。「俺、ずっと伝えたかったことがある」

乃々花の瞳が驚きに揺れる。晴翔は視線をそらさず、そのまま真っ直ぐに続けた。

「俺、お前が好きだ」

その言葉は、夜の静寂を切り裂くように、けれど穏やかに響いた。

乃々花の目が大きく見開かれる。彼女は何か言おうとしたが、言葉が出てこない。

晴翔はポケットに手を突っ込み、少し恥ずかしそうに目を伏せた。「最初はお前の暴走に振り回されてばっかりで、正直めんどくせえなって思ってた。でも、一緒にいるうちに、それが俺にとって大事なもんだって気づいたんだ」

乃々花はその言葉を、ただじっと聞いていた。晴翔の不器用な告白に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

「だから、俺の相棒でいてほしい…いや、それ以上に、お前のことをもっと知りたいし、一緒に笑っていたい」晴翔は強い口調で言い切った。

一瞬の沈黙が二人を包む。だがその静寂は、どこか心地よい緊張感を孕んでいた。

乃々花は、ようやく口を開いた。「…晴翔くん」

彼女の声は、少し震えていたが、それは冷たい風のせいではなかった。

「私、晴翔くんに支えられてばかりで、ちゃんとお礼も言えなかったよね。私がここまでやってこれたのは、晴翔くんのおかげだった」

彼女は小さく息を吐き出し、笑顔を浮かべた。「そんな晴翔くんの気持ちを、私がちゃんと返せるかはわからないけど…私も晴翔くんと一緒にいたいって思ってる」

晴翔の目が驚きと喜びで見開かれる。「本当か?」

「うん。本当だよ」乃々花は少し照れたように頷いた。「こんな風に真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるなんて、ちょっとびっくりだけど…嬉しい」

晴翔は思わず笑みを漏らし、夜空を見上げた。星空が二人を優しく見守っているかのようだった。

「じゃあ、これからも俺についてこいよ。どんなアクシデントでも、俺が全部フォローしてやるから」

乃々花はクスリと笑った。「それ、逆に私が晴翔くんをフォローすることになりそうだけどね」

二人の笑い声が、公園の静けさの中で響いた。これまで以上に強く繋がった二人の関係は、新しい一歩を踏み出そうとしていた。
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