ヒーローショーと恋のアクション

祝福と冷やかし

それから数日後、颯真と美月はいつものカフェで顔を合わせていた。お揃いのコーヒーカップを手にしながら、窓の外をちらりと見た颯真がニヤリと笑う。

「来たぞ、噂のカップルが」

美月も顔を上げると、店の扉を開けて入ってくる乃々花と晴翔の姿を確認した。「ふふ、なんだか新鮮ね。あの晴翔くんがこんなに穏やかな顔してるなんて」

颯真が身を乗り出し、小声で囁いた。「だろ？あいつ、こんな顔できるんだって俺も初めて知ったよ」

二人が席に近づくと、颯真が待ちきれない様子で口を開いた。「おいおい、二人とも随分仲良さそうじゃねえか！」

乃々花は少し赤くなりながら「仲良しだったら悪い？」と軽く言い返すが、その声にはどこか照れくささが滲んでいる。

晴翔はそんな乃々花を横目に見つつ、「うるせえな、颯真。お前が騒ぐとコーヒーまで冷めるだろ」とそっけなく応じたが、どこか口元が緩んでいる。

美月がクスクスと笑いながら言った。「晴翔くん、まさかちゃんと告白したの？その、ヒーローらしく？」

「まあな」と晴翔は軽く肩をすくめた。「俺は遠回しとか小細工とか苦手だから、ちゃんと正面から言っただけだ」

颯真がテーブルを叩いて大笑いする。「お前、らしいな！でも、おい乃々花、そんな直球でよく落ちたな？」

乃々花は少しむっとした表情で言い返す。「直球で言われたからこそ、ちゃんと伝わったんだよ。颯真くんには一生わからない感覚だろうけどね」

「ぐっ…！」颯真は胸を押さえる真似をして、「それはひどい」とわざとらしく嘆く。美月が笑いながらその肩を叩き、「颯真くんもいつか誰かに直球でぶつかってみたら？」とからかった。

乃々花と晴翔は互いに目を合わせて小さく笑う。二人にとって、この騒がしい友人たちとの時間が、何よりも心地よかった。

颯真が急に真剣な顔をして晴翔に向き直る。「でもよ、お前、本気で乃々花を守るつもりだろうな？」

晴翔はその言葉に驚くことなく、真っ直ぐな目で答えた。「当たり前だ。俺はヒーローだからな。どんなピンチだって、この手でこいつを守る」

乃々花がその言葉に驚いたように顔を赤らめ、「な、なんで今そんなこと言うの！」と声を上げると、颯真が大笑いしながら立ち上がる。「ほらほら、また真っ赤だ！晴翔、お前、たまには空気読めよ！」

美月も微笑みながら呟いた。「でも、いいコンビよね。私たちにはちょっと眩しいくらい」

そう言ってカフェの一角で笑い合う四人。賑やかな日常の中に、新しい二人の関係が溶け込んでいた。ヒーローとその相棒、そして周りを囲む仲間たち。その光景は、これからもずっと変わらない絆の形を示していた。






新しいショーの打ち合わせのため、晴翔と乃々花はいつものスタジオに向かっていた。そこでは企画チームが忙しく準備を進めており、新しい舞台の図面や衣装のデザインが次々と並べられている。

「これ、すごい派手だね。マントにまでラメ入れるんだ？」乃々花が興味津々にデザイン画を覗き込むと、隣で晴翔が軽く肩をすくめた。「まあな。俺がキラキラしすぎて目がやられないように気をつけろよ」

乃々花はくすっと笑った。「大丈夫。晴翔くんが眩しいのはマントじゃなくて、中身だから」

「お、おい…何だそのセリフ」突然の褒め言葉に動揺した晴翔は、耳元まで赤くなりながら目をそらした。

そんな二人のやり取りを見ていた企画担当がにやりと笑った。「さすがだね、晴翔くんと乃々花ちゃん。二人の掛け合いがそのままショーの台本にできそうだよ」

晴翔は照れ隠しに喉を鳴らし、「余計なこと言うな」とつぶやくが、乃々花は「面白そう！私たちで即興台本とか作ってみる？」とノリノリで応じる。

ショー当日。新しい舞台は、街の平和を守るヒーローと、謎めいた助っ人が共闘するという設定だ。観客は満員で、子どもたちの期待に満ちた目が舞台を見つめていた。

晴翔はキラキラと輝く新衣装を身にまとい、颯爽と登場した。乃々花は助っ人役として、少し大胆な衣装で舞台に飛び出す。晴翔と乃々花のコンビネーションは完璧で、アドリブのやり取りに観客は大爆笑。

「乃々花、お前まで悪役の味方するのか！」晴翔が剣を振りながら叫ぶと、乃々花は小さく肩をすくめた。「だって、敵でもお腹が空いてたら戦えないでしょ？とりあえずおにぎり渡しといた！」

「いや、おにぎり渡すなよ！」

そのやり取りに観客は大盛り上がり。二人の息の合った演技に、子どもたちは歓声を上げ、大人たちも拍手を送った。

ショーが終わり、舞台裏でひと息ついた二人。乃々花はヘルメットを外しながら「今日もすっごく楽しかったね！」と笑顔で言った。晴翔も疲れた顔を見せず、「お前が暴走しなきゃ、もっと楽だったんだけどな」と軽口を叩くが、その声はどこか満足げだ。

そこに颯真と美月がやってきた。颯真は晴翔の肩を叩きながら「お前ら、また観客のハート鷲掴みだな。最強コンビって評判だぞ」とからかう。美月も「本当に素敵だったよ。二人でいると、どんなハプニングも楽しく見える」と微笑んだ。

晴翔は照れ臭そうに鼻をこすりながら、「まあ、俺のフォローがあればどんな舞台でも問題ないからな」と言ったが、乃々花が即座に突っ込む。「はいはい、私のおかげでもあるんだからね！」

颯真が大笑いしながら「やっぱりお前ら最高だわ」と言い、美月も「これからも頑張ってね」と応援の言葉を送る。

帰り道、公園を歩きながら乃々花がふと呟いた。「私たち、本当にいいコンビになったね」

晴翔は少し笑って「そうだな」と頷いた。そして少し間を置いて、「でも、俺にとってお前はただの相棒じゃなくて…」と言いかけたところで乃々花が振り返る。

「ただの相棒じゃなくて？」

「いや、なんでもない！」晴翔がそっぽを向いて早足で歩き出すと、乃々花は不思議そうに首を傾げつつも彼を追いかけた。

そんな二人の後ろ姿を見守る月明かりは、これからも続く二人の物語を祝福しているようだった。