ノクティルカの深淵 ーThe Abyss of Noctilucaー

ねむたん

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ふたりにとってのしあわせな日常

もういちどダンスを

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セラフィーナがふらつきながら歩く姿を見て、ヴァレリオは再び心配そうに近づいてきた。彼女の身体がまだ完全に回復していないことを、彼はすぐに感じ取った。

「セラフィーナ、無理をしているようだね。」

彼は少し考え込み、そして決断したかのように言った。

「よし、君を抱えて移動しよう。」

セラフィーナは驚いたように目を見開いた。

「え? だ、だめだよ! そんなこと…!」

「君が痛そうにしているのを見るのが辛いんだ。」ヴァレリオは真剣な表情で続けた。「少しでも楽にさせたい。ほら、怖がらないで。」

そう言うと、彼は素早くセラフィーナを腕の中に抱き上げた。その瞬間、セラフィーナは驚きと共に思わず小さな声を上げた。

「ヴァレリオ、ちょ、ちょっと!」

ヴァレリオはセラフィーナを抱き上げたまま、彼女の顔を覗き込んだ。彼の顔は冷静で落ち着いていたが、目の奥には少しばかりの優しさが隠れている。

「君を休ませるのが一番だ。今日は何もさせないよ。」

セラフィーナはそれでも抵抗しようとしたが、すでにヴァレリオの腕の中だった。彼の手がしっかりと背中を支え、セラフィーナはその温かさに少しだけ安心感を覚えた。

「でも、こんなに抱っこされて、ちょっと恥ずかしいよ…」

セラフィーナが小さく呟くと、ヴァレリオは微笑みながら答えた。

「恥ずかしがる必要はない。君を大切にすることが、僕にとって何よりも大事なんだから。」

その言葉に、セラフィーナは少しだけ心が温かくなり、照れくさそうに顔を赤くした。

「ありがとう、ヴァレリオ…でも、ほんとうに大丈夫だから。」

「今日は休ませて。君が無理をしてはいけない。」

そう言いながら、ヴァレリオはセラフィーナを抱えたまま、静かに歩き出した。彼女の表情が穏やかになったのを見て、ヴァレリオは少しだけ安心した。

そして、静かな館の中、二人は心地よい時間を共有していった。

ヴァレリオは、セラフィーナが少しでも楽になるようにと尽力したことに満足しつつも、どこかで寂しさを感じていた。セラフィーナを世話していた時、彼女との距離がより近く感じられたからだ。心配し、彼女を支え、手を差し伸べることで、確かに彼女の笑顔を引き出し、深い絆を感じていた。




セラフィーナが少し元気を取り戻したころ、ヴァレリオは再びそわそわとした様子で彼女の側に現れた。

「セラフィーナ、少しだけでもまた踊ってみないか?」

その言葉に、セラフィーナは顔をしかめて答えた。

「ううん、もう懲り懲りよ。あんなに筋肉痛になったら、また動けなくなっちゃうわ。」

ヴァレリオは少し驚いた顔をしてから、すぐに思い直したように微笑んだ。

「そ、そうだね。でもね、君がダンスをしてくれることが、実は僕にとってすごく楽しかったんだ。」

セラフィーナは思わずきょとんとした顔をしてヴァレリオを見つめる。

「楽しかったって…?」

「うん。」ヴァレリオは素直に答えた。「君を支えて、君に教えるのが楽しかったんだ。君が少しでもできるようになって、喜んでくれる姿を見ているのが本当に嬉しかった。」

セラフィーナは少し照れたように口元を緩めたが、すぐに彼が話を続けるのを感じて、また顔を上げた。

「それにね、お姫様抱っこをしたとき、君を抱えている感触が、僕にはとても特別だった。」ヴァレリオの声は少しだけ真剣に、そして優しく響いた。「君の大切な命を改めて実感したんだ。君の存在が、僕にとってどれだけ大きいものか、あのとき改めて感じてね。」

セラフィーナはその言葉に胸が温かくなり、少しだけ目を伏せた。

「そんなこと…言わないでよ。」

でも、ヴァレリオは真摯な眼差しで彼女を見つめ続けた。

「君が無事でいてくれることが、僕にとってどれだけ幸せなことか、君に伝えたくてたまらないんだ。」

セラフィーナは息を呑んだ。彼の目に浮かぶ真剣な思いを、ただ静かに受け止めることしかできなかった。

「それだけ大切に思ってくれているなんて、私も幸せだよ。」セラフィーナはほんの少し照れくさそうに微笑んだ。「でも、やっぱりダンスは無理だわ。もう少し休みたいな。」

ヴァレリオは少し肩をすくめ、けれどその顔には優しさが満ちていた。

「わかった。無理に踊らせるつもりはないよ。君が笑顔でいてくれるだけで僕は幸せだから。」

セラフィーナはその言葉を聞いて、心が温かくなった。そして、少しだけ不意に言葉を漏らす。

「ありがとう、ヴァレリオ。」

その一言が、何よりも彼の心を温かくした。
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