冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん

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その後、カスパルは以前にも増してミーシャを訪れるようになった。表向きは「退屈だから」と言い訳していたが、内心では彼女への奇妙な感情に突き動かされていることを自覚していた。彼女の冷静で感情の読めない態度、そして鋭い言葉――それらすべてが彼にとって毒でありながら、抗いがたい魅力でもあった。

一方でミーシャは、彼の訪問を特に拒絶することも歓迎することもなく、淡々と日々を過ごしていた。彼がどれだけ話しかけても、彼女の反応は薄く、必要最低限の言葉で応じるだけだった。その無関心さが、かえってカスパルの興味を掻き立てていく。

ある日、カスパルはついに苛立ちを隠せなくなった。エステラ家の庭園で、またしても無言で刺繍を続けるミーシャを見て、彼は不満げにため息をついた。

「ねえ、ミーシャ嬢。僕は君と話をしたいんだよ。それなのに、君はいつもそうやって黙っている。何か感じてるなら言えばいいだろう?」

ミーシャは刺繍の手を止め、少しだけ彼に目を向けた。「話をする必要があるとは思いません。それだけです」

その冷たい返答に、カスパルの胸に小さな苛立ちが生まれた。

「必要があるかどうかじゃないだろう?君は自分の殻に閉じこもって、周りを全部遮断してる。それで本当に満足なのか?」

「満足という感情自体、今の私にはありません」

ミーシャの言葉には一片の感情もなく、その無感情さがカスパルをさらに苛立たせた。彼は勢いよく椅子から立ち上がり、彼女の前に立ち塞がった。

「君、本気でそう思ってるのか?本当は何かを感じてるはずだ。それを隠してるだけだろう?」

ミーシャは静かに針を置き、彼を見上げた。その目は相変わらず冷たく、まるで彼を見透かしているようだった。

「なぜ、そんなことを知りたがるのですか?」

その問いかけに、カスパルは言葉を失った。一瞬だけ彼女の瞳に映る自分の姿を見て、なぜこんなにも彼女に執着しているのかを自問した。そして、その答えに気づいてしまった。




「君に惹かれているからだ」

カスパルは、思わず口から出たその言葉に驚いた。それは自分自身でも初めて認める感情だった。彼がミーシャに惹かれている理由が、単なる興味ではないことをようやく理解したのだ。

だが、その恋心は純粋なものではなかった。彼女の冷たさに抗いたいという欲望、自分の手で彼女を揺さぶりたいという支配欲――それらが混ざり合い、彼の感情を歪めていた。

「君が僕の興味を引くのは、その冷たさのせいだ。でも、それだけじゃない。君がどうしてこんなにも無感情を装っているのか、その理由を知りたいんだ」

ミーシャは彼の言葉を聞いても、特に驚く様子を見せなかった。ただ、短く答えた。「興味を持つ必要はありません。私の心は、もう何も感じないから」

その答えに、カスパルは苦笑した。「本当にそうなら、僕は君に惹かれたりしないさ。君の中に何かがあるから、僕はこうして君の前にいるんだ」

ミーシャは少しの間、彼を見つめた後、再び刺繍を始めた。その態度に、カスパルはさらに苛立ちながらも、同時に自分が彼女から離れられないことを感じていた。

カスパルがミーシャに惹かれていることは、エステラ家の家族や使用人たちにも次第に知られるようになった。妹のリナは、その状況を面白がっていた。

「カスパル様、本当にお姉さまに夢中みたいね」リナは皮肉っぽく笑いながらミーシャに言った。「お姉さまはどう思ってるの?」

「何も思っていません」ミーシャは淡々と答えた。

「でも、カスパル様って意外と真剣に見えるのよね。お姉さまも、ちょっとくらい応えてあげたらどう?」

「必要ないわ」

その冷たい返答に、リナは肩をすくめて笑った。「本当にお姉さまって変わってるわよね。あのカスパル様がここまで追いかけてくるのに、それでも興味を持たないなんて」

だが、リナのその言葉に対しても、ミーシャは何も言わなかった。ただ静かにその場を立ち去るだけだった。

それからもカスパルはミーシャのそばに居続けた。彼女の無関心に苛立ちながらも、彼女から目を離すことができなかった。その歪んだ恋心は、次第に彼の中で形を成し、彼女の冷たい殻を壊すことが彼の唯一の目的となっていった。

「君が本当に何も感じないなら、それを証明してみせてくれ。僕が君を揺さぶることができないなら、それで終わりにするさ」

カスパルのその言葉に、ミーシャは一瞬だけ視線を向けた。だが、何も答えなかった。その沈黙が、彼の心にさらに深い執着を刻みつけていった。
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