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茶会の日、王宮の中庭は穏やかな午後の日差しに包まれていた。庭園の片隅に設えられたティーテーブルには、上質な茶器と美しく盛られた菓子が並ぶ。風に乗って花の香りが漂い、まさに優雅なひとときを過ごすのにふさわしい場所だった。
セレスティーナは、王宮の格式張った社交とは違い、リラックスした雰囲気のこの茶会をそれなりに楽しんでいた。というのも、集まっているのは幼馴染たち——
「ふはは! これはうまいな!」
赤茶の髪を揺らしながら、カイルが遠慮なく菓子を頬張る。
「お前はもう少し上品に食べろ。」
銀髪のヴィンセントは、呆れたようにカップを持ち上げた。その動作一つ取っても洗練されており、優雅な佇まいを崩さない。
「そんなことを言うがな、これはうまいぞ、ヴィンセント。」
「味の話ではない。」
「細かいことを気にしすぎだぞ?」
「お前が気にしなさすぎなのだ。」
互いに剣と策略を磨き合ってきた二人のやりとりは、茶会でも変わらず絶妙な掛け合いを見せている。
「まぁまぁ、堅いことは言うなよ。」
ゆるく笑いながら、ユリウスがワインを片手にくつろいでいる。彼は今日も飄々としており、弟であるレオナルトと違い、王宮のしがらみとは無縁の自由人だった。
そのレオナルトはというと、珍しく寛いだ表情でセレスティーナの隣に座っていた。
「こうして集まるのも、久しぶりだな。」
「ええ、そうね。」
セレスティーナは微笑みながら、ティーカップを傾ける。
まさか、こうして幼馴染たちとの気楽な茶会が実現するとは思わなかったが、実際に開かれてみると悪くない。宮廷の格式ばった夜会とは違い、幼い頃からの気の置けない相手ばかりで、何より、誰も彼もが程よく気遣いなく振る舞える空間だった。
(まぁ、私は本来、ここにいるべきじゃないんだけどね。)
なんてことを思いながら、何気なく視線を横に向ける。
すると——
「失礼いたします!」
突然の声に、場が凍った。
見ると、そこにいたのはアリシア・ローゼンベルクだった。
聖女の力を持つ、男爵令嬢。
本来ならば、こんな茶会に乱入してくる立場ではない。だが、彼女は王宮に出入りする特権を持っている。そして、レオナルトに近づく機会を常に狙っていることも、セレスティーナには分かっていた。
「まぁ、アリシア。」
セレスティーナは、にこりと微笑む。
「ようこそ。まさかあなたがいらっしゃるとは思いませんでした。」
「そ、そうなんです! 王子さまが茶会を開かれると聞いて……ぜひ、ご一緒したいと思いまして!」
息を切らせながら、アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
その言葉に、ヴィンセントが眉をひそめる。
「ずいぶんと耳がいいな。」
「それとも、誰かが教えたのか?」
カイルも、怪訝そうな顔をする。
一方、ユリウスはというと、面白がるようにワインを回していた。
「まぁまぁ、せっかくだし座れば?」
セレスティーナは穏やかに席を勧める。
(歓迎しているわけじゃないけど……彼女がここでレオナルトの気を引けるなら、それはそれで良いことだし。)
そう思ったのだが——
アリシアは、ここが王宮の格式ある茶会であることを理解していなかった。
「わぁ、お菓子、美味しそうですね! いただきます!」
そう言うが早いか、彼女は菓子を手づかみで口に運び、嬉しそうに頬を膨らませた。
……沈黙が流れる。
カイルがわずかに目をそらし、ヴィンセントは言葉を失った。
「……これは、驚いたな。」
ユリウスが小さく笑う。
セレスティーナも、思わず表情を引き締める。
(ちょっと待って……まさか、ここでこういう振る舞いをするとは。)
アリシアは、王宮の茶会においては完全に浮いていた。
「ん? これ、すごく甘くて美味しいですね! 王子さまも召し上がりますか?」
そう言いながら、彼女はレオナルトの皿に無遠慮に菓子を載せた。
その場の空気が微妙に張り詰める。
「……いや、私は結構だ。」
レオナルトは静かに断ったが、アリシアは気にする様子もなく、嬉しそうに頷いた。
「そっかぁ、じゃあ私がいただいちゃいますね!」
本当に無邪気に菓子を頬張る彼女を見ながら、セレスティーナは心の中でそっと目を伏せた。
(……これは、ダメかもしれない。)
男爵令嬢とはいえ、王宮に出入りする身ならば、最低限の礼儀は学ぶべきだった。だが、彼女の振る舞いは、ここにいる誰の好感度も上げるものではなかった。
むしろ、確実に下げていた。
沈黙の中、カイルがぼそりと呟く。
「……これ、俺が言うのもなんだが……」
「なんだ?」
ヴィンセントが問い返すと、カイルはため息混じりに答えた。
「……正直、王宮に迷い込んだ犬みたいだな。」
その言葉に、ユリウスがくつくつと笑う。
「ふふ、言い得て妙だね。」
一方、レオナルトは、無言のままティーカップを持ち上げた。
何も言わない。何も言わないが、その表情には完全に関心を失っていることが見て取れた。
——これでは、婚約破棄どころの話ではない。
セレスティーナは、そっとため息をついた。
セレスティーナは、王宮の格式張った社交とは違い、リラックスした雰囲気のこの茶会をそれなりに楽しんでいた。というのも、集まっているのは幼馴染たち——
「ふはは! これはうまいな!」
赤茶の髪を揺らしながら、カイルが遠慮なく菓子を頬張る。
「お前はもう少し上品に食べろ。」
銀髪のヴィンセントは、呆れたようにカップを持ち上げた。その動作一つ取っても洗練されており、優雅な佇まいを崩さない。
「そんなことを言うがな、これはうまいぞ、ヴィンセント。」
「味の話ではない。」
「細かいことを気にしすぎだぞ?」
「お前が気にしなさすぎなのだ。」
互いに剣と策略を磨き合ってきた二人のやりとりは、茶会でも変わらず絶妙な掛け合いを見せている。
「まぁまぁ、堅いことは言うなよ。」
ゆるく笑いながら、ユリウスがワインを片手にくつろいでいる。彼は今日も飄々としており、弟であるレオナルトと違い、王宮のしがらみとは無縁の自由人だった。
そのレオナルトはというと、珍しく寛いだ表情でセレスティーナの隣に座っていた。
「こうして集まるのも、久しぶりだな。」
「ええ、そうね。」
セレスティーナは微笑みながら、ティーカップを傾ける。
まさか、こうして幼馴染たちとの気楽な茶会が実現するとは思わなかったが、実際に開かれてみると悪くない。宮廷の格式ばった夜会とは違い、幼い頃からの気の置けない相手ばかりで、何より、誰も彼もが程よく気遣いなく振る舞える空間だった。
(まぁ、私は本来、ここにいるべきじゃないんだけどね。)
なんてことを思いながら、何気なく視線を横に向ける。
すると——
「失礼いたします!」
突然の声に、場が凍った。
見ると、そこにいたのはアリシア・ローゼンベルクだった。
聖女の力を持つ、男爵令嬢。
本来ならば、こんな茶会に乱入してくる立場ではない。だが、彼女は王宮に出入りする特権を持っている。そして、レオナルトに近づく機会を常に狙っていることも、セレスティーナには分かっていた。
「まぁ、アリシア。」
セレスティーナは、にこりと微笑む。
「ようこそ。まさかあなたがいらっしゃるとは思いませんでした。」
「そ、そうなんです! 王子さまが茶会を開かれると聞いて……ぜひ、ご一緒したいと思いまして!」
息を切らせながら、アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
その言葉に、ヴィンセントが眉をひそめる。
「ずいぶんと耳がいいな。」
「それとも、誰かが教えたのか?」
カイルも、怪訝そうな顔をする。
一方、ユリウスはというと、面白がるようにワインを回していた。
「まぁまぁ、せっかくだし座れば?」
セレスティーナは穏やかに席を勧める。
(歓迎しているわけじゃないけど……彼女がここでレオナルトの気を引けるなら、それはそれで良いことだし。)
そう思ったのだが——
アリシアは、ここが王宮の格式ある茶会であることを理解していなかった。
「わぁ、お菓子、美味しそうですね! いただきます!」
そう言うが早いか、彼女は菓子を手づかみで口に運び、嬉しそうに頬を膨らませた。
……沈黙が流れる。
カイルがわずかに目をそらし、ヴィンセントは言葉を失った。
「……これは、驚いたな。」
ユリウスが小さく笑う。
セレスティーナも、思わず表情を引き締める。
(ちょっと待って……まさか、ここでこういう振る舞いをするとは。)
アリシアは、王宮の茶会においては完全に浮いていた。
「ん? これ、すごく甘くて美味しいですね! 王子さまも召し上がりますか?」
そう言いながら、彼女はレオナルトの皿に無遠慮に菓子を載せた。
その場の空気が微妙に張り詰める。
「……いや、私は結構だ。」
レオナルトは静かに断ったが、アリシアは気にする様子もなく、嬉しそうに頷いた。
「そっかぁ、じゃあ私がいただいちゃいますね!」
本当に無邪気に菓子を頬張る彼女を見ながら、セレスティーナは心の中でそっと目を伏せた。
(……これは、ダメかもしれない。)
男爵令嬢とはいえ、王宮に出入りする身ならば、最低限の礼儀は学ぶべきだった。だが、彼女の振る舞いは、ここにいる誰の好感度も上げるものではなかった。
むしろ、確実に下げていた。
沈黙の中、カイルがぼそりと呟く。
「……これ、俺が言うのもなんだが……」
「なんだ?」
ヴィンセントが問い返すと、カイルはため息混じりに答えた。
「……正直、王宮に迷い込んだ犬みたいだな。」
その言葉に、ユリウスがくつくつと笑う。
「ふふ、言い得て妙だね。」
一方、レオナルトは、無言のままティーカップを持ち上げた。
何も言わない。何も言わないが、その表情には完全に関心を失っていることが見て取れた。
——これでは、婚約破棄どころの話ではない。
セレスティーナは、そっとため息をついた。
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