左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

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左遷太守と不遜補佐・6

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表面になんの凹凸も施されていない二枚の木戸を見て赤伯は唖然としたが、確かに高貴な身分の館はどこでもこうだったなと思い起こした。外部からの侵入を防ぐための対策なのだろう。

「太守さまと民草は異なる存在です。自ら戸を開けるなど、なさらないのですよ」

そう告げてから、補佐は、ぱんぱんと二回ほど手を叩いた。

「新しい太守さまのご到着です。開けなさい」

すると、青明の護衛とは比べ物にならない、防具に着られているようなひょろひょろの門兵がのっそり、内側から門を引き開いた。

「へえ。二回、手を叩くのか?」
「…………お忘れですか? 自ら戸を開けるなど、太守さまという方はなさらないものなのです」
「はあ……じゃあ、腹が減って饅頭でも買いに行って、帰って来た時はどうすれば――」
「もうよろしいでしょうか。お入りください」

しびれを切らしたように、青明の声が赤伯の言を遮った。青い瞳は、……見たことはないが、王の有する氷室よりも低温だろう。

「さて、お疲れでしょう。ひとまず、太守さまがお過ごしになられるお部屋へご案内いたします」

門をくぐると四角く区切られた殺風景な庭が目に入った。庭と言っても特に木や花が植えられているわけでもなく、無機質な石畳が寂しく広がっているだけだ。せめて山桜桃梅の木でも植えてあれば『色々な意味』で気分が変わるのに……と内心で赤伯が思ったところであった。

「あ……」
「今度は、どうされました?」

飽き飽きとした青明が振り返ると、赤伯の目が石畳の一部に縫い付けられていた。それだけでなく、新太守はその場にしゃがみこんでしまった。どうしてこんなにも円滑に進められないのか。青明はとことん溜息を吐いてやった。

「すごいな、こいつ」
「こいつ……?」
「ほら、蒲公英だよ。石畳の隙間から、うまいぐあいに芽を出してる。根性あると思わないか?」
「ざ……雑草……」
「ええ?」

赤伯が指でつつく緑色の葉。それを視界に入れた青明の冷たい顔色は、みるみるうちに紅潮した。恥じらいなんてそんな可愛らしいものではないことは、次の発声で分かった。

「誰ですか! 庭を整えた者は!」

ぴしゃりとその場に響く声に、恐る恐る、背後の女官の片割れが前へ飛び出し座り込んだ。

「も、申し訳ございません……! 私でございます!」
「新任の太守さまが就くと再三申し渡したでしょう! にも関わらずこのような雑草を太守館に蔓延らせるとはどういう整え方をしているのですかっ!」

目の色がすっかり変わり、一息に怒鳴る青明。冷静沈着(むしろ冷酷か)という印象を植え付けていた彼だったが、すっかりその姿を欠いている。

赤伯は一瞬の戸惑いののち、彼の腕を長い袖ごと掴んだ。

「なんですか、太守さまの住まわれる場なのですよ?」
「もういいから。その娘のこと責めるのも、その蒲公英を雑草扱いするのも禁止……ついでに言うと、俺、民草って言葉も嫌いだから」

そう言ってのけると、青明は唇を噛みしめ、鼻孔から息を吸い込みそしてゆっくり声と共に吐き出した。

「……出過ぎた真似をいたしたようで。わたしは余計な草を好まないのです」
「そーか。とことん合わないな」

赤伯が腕を解放するのと、青明が腕を引く瞬間だけは、空しいことに揃っていた。
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