左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

文字の大きさ
7 / 42

左遷太守と不遜補佐・7

しおりを挟む
「先ほどは、お見苦しい姿を失礼いたしました」
「ははっ、いいって。とりあえずさ、あの庭さびしいし、手入れもほどほどにしてくれよな」
「……承知いたしました」

雑草騒ぎを終えて、太守が使用する私室へと彼らは落ち着いていた。青明が淹れた花茶の温かな香りが室内の空気をまろやかにしている。

太守館にはこの私室のほかに、太守の執務室、従える官吏たちの仕事場が併設されており、この敷地内ですべての公務が行える作りだ。
あの無機質な庭では本来、民の要求を聞いたり裁きを行ったりもする。

「お前、あんなに大きい声出せたんだな。驚いたよ。……落ち込んでるのか?」
「わたしとしては大変な汚点です。あなたに醜態を見せたことよりも、雑草が残っていることが、ですが。太守館の管理はわたしがしているようなものですし、管理不行き届きなんて、いままで……一度も……」
「あーっ! うまい茶だな。俺、まだなんにも分かってねえけど、この茶がうまいことだけは、分かる」
「……はあ」

弱弱とした青明の気配を吹き飛ばすかのように、赤伯は茶を飲み干して、その椀を机上へがさつに置いた。
所作一つとっても、さすが元訓練兵らしき無骨さが見てとれる。しかし青明は何も言わずに、その椀に残る一滴のしずくが光るのを見ていた。

「姉さんの結婚相手がさ……ようはもうすぐ俺の義兄さんになる人が、茶の商売人なんだけど」
「……お兄さま、で……ございますか」

兄という言葉に、青明は冷静に口を動かした。

「そ。黙ってるとすっげえ強面で、商人なんて言われても近寄るのすら恐いんだけどさ。話すといい人だっていうのが伝わってくるんだ。そんな兄さんが淹れる茶は絶品でさぁ……姉さんが同じ茶葉で淹れても敵わないんだぜ?」

なぜか自慢げに語られて、青明は眉一つ動かさずに、視線だけを赤伯へ向ける。

「それが、なにか」
「だから、顔とか態度とかって関係ないんだよな。この茶がうまいってことは、お前が心の底から酷い奴じゃないってことなんだと思う」

うまいもん、この茶。そう付け足しながら、赤伯はおかわりをねだって椀を突き出した。幼くもしっかりと芯の通る純粋な金瞳から目を反らし、青明は椀をさげた。

彼が椀を置いた所作を、内心で軽蔑した自分こそ浅ましいのだろうか、と不意に案じながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

処理中です...