左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

文字の大きさ
10 / 42

左遷太守と不遜補佐・10

しおりを挟む
「お似合いですよ」
「嘘つき」
「とんでもございません」

数日前まではぼろ布をまとって野山を駆け回っていた訓練兵が、今や磨きあげた鏡の中で、太守という身分に着られている。

太守になる。
そのことに抵抗は一切なかったが、この姿はなんとも惨めだと赤伯は思わざるを得なかった。

「しっかし……青明もよくそんなずるずると着込んでられるな」
「わたしですか?」

太守の官服よりも、よほど補佐の衣装は凝っている。長衣を重ねているだけでなく、掛け布や簪など装飾品も多い。

「補佐は官服がないようなものでこざいますからね」

本来は文官と揃いのものを着用するのが好ましいとはされているが、一見でその身分を明かす必要もないため、どこの都市でも太守補佐は私服を纏っていることが多い。拠って、太守の側近くに控える私服の者が補佐だと認識すれば間違いはない。

「袂も太守に比べれば重そうだし、簪もぶらぶら邪魔じゃないか?」
「……こちらでございますか?」

装飾の着いた簪をするりと結い目から抜き出すと、括られた髪束は少しだけ形を崩した。

「よく、ご覧くださいませ」

青明は唐突に、赤伯の胸元に手を這わせるように置き、その身を近付ける。物理的にだが彼らの距離が縮んだ。意識すれば吐息のかかりそうな近さだ。

「……上物でしょう?」

何を言っているのか。至近に寄った青明の顔は確かに妖艶とも呼べて、そういった店にでもいれば相当な額を必要としそうだ。

むろん赤伯自身が訪れたことがある訳ではなく、訓練兵時代に周りから聞いた話ではあるが。仲間内には、女だけでなく男を買う者もいた。
赤伯はいつも、そんな仲間の猥談を適当に聞き流していた。

「いかがです……?」

細く瞳を覆う瞼さえ、よくよく見れば流し目のようだ。赤伯は後退りたくて仕方なかったが、その青い瞳からどうしても視線を離せなかった。
それだけでなく、青明の玉虫織のような陰影の黒髪は、ほのかに果実のような甘美な香りを漂わせる。

「う…………」
「太守さま?」

言葉に詰まっていると、視界の端が光った。簪の軸の部分だと気が付くまで、さほど時間は必要なかった。

「か、簪……?」
「ええ。こちらは希少な白金で拵えております。しかしそれだけではございません。先端の輝きがご覧になれますか?」

微かに揺らされた軸の先が、確かに光の加減でちらちらと輝くのが見える。かなり鋭利に磨きあげられているのだろうか。まるで刃物の輝きをしている。

「石をも砕く『石』を埋め込んであるのです。ただ身を飾っているのではありません。装飾の中にも護身を……と、心がけております」
「は、はあ……なるほど……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...