左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

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左遷太守と不遜補佐・18

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「覚えてるよ。でも仕える身だろ? お前の家に叛意があるなら別だけど」
「…………」 

この太守にしては、よく言葉を知っている、と別の方向から感心してしまった。いや、いまはそうではない。そうではなくて。

「……太守さま、お戯れが過ぎます。どうか下ろしてください。わたしは元より乗馬が得手ではありませんし、おっしゃる通りに……その、重い……のでしょう」
「ほいっ」

これまた安易に地へおろされる。
二本の足がしっかりと地を踏んでいることの、なんともいえない安堵感。

「よし、今晩は野宿にするか」
「はあ?」

またも突拍子もない言をする赤伯に、青明は心底からの疑問を声に乗せた。もう何度目だろうか。 

「どっちみち馬はもう少し休ませてやらないとお前が乗れないし、この辺りの夜間の様子を知るにもいい機会だろ」

赤伯が作りたいのは人も住める農場である。そのために、近辺で野性動物などがどのように活動するのか見ておきたかったのもまた本意だ。ただ戯れに野宿がしたいと言っている訳ではなかった。

青明にとってこれが初めての野宿だった。言ってみれば名家のお坊っちゃんである青明だ。
右も左も分からず、ほとんどの支度を赤伯がしたが、今ばかりは青明も素直に薪拾いを手伝った。

「あっという間に暗くなったなー」

ぱちぱちと、焚き火が鳴いている。その火に炙られているのは、赤伯が捕ってきたうさぎだった。
器に盛り付けられたものではなく、骨を持ってかぶりつくことに抵抗はあったが、さすがに空腹には耐えられず、お坊っちゃんは歯を立てた。

「お前さ、言ってたよな」

食事と、周辺の見回りを終えた赤伯は、狭い敷き布の上にごろりと横になり、口を開いた。
布が敷かれているとはいえ、やはり青明にとっては地面へ横になることは相当の抵抗があるのか、膝を抱えた姿勢のまま赤伯を見やる。

「太守に夢見てる、って」

ああ、なんだかもう遠い記憶のようだが確かに、就任当日の会った直後にそんなことを言った。
膝頭に顎を乗せて、青明は静かに耳を傾けた。

「……お前の言うとおりだよ。俺は守備隊希望だったけど、心から憧れてるのは『太守』だ」
「楽な任でもないでしょうに……」
「へへ、ああ本当に……本当に大変なんだな」

ここにきて初めて、赤伯が弱弱しい声を出した。

同時に青明は、一切そちらを向かないと決める。

「俺が育った都市の太守サマは本当にすごい人だった」

ま、太守サマって言うか太守のおじさんって感じだったんだけどさ。と笑っているが、覇気がないのが痛いほど伝わった。

「もともと俺のうちは穀物農をしてたんだ。だけど父さんが事故にあって、脚を悪くした……母さんと姉さんとまだ小さい俺の三人で家を支えられるのか、すげえ不安だったし、父さんは自分のことを責めて笑わなくなった」
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