左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

文字の大きさ
33 / 42

赤髪の花婿・7

しおりを挟む
「……だけど、俺に商いができるかなー。効率のいい特産品の洗い出しとか、結構苦手なんだよなあ」
「え? ですが前の都市ではうまくなさっていたと、うかがっておりますが」
「いやぁ、それはさ、青明がいたから」

赤伯は気まずそうに苦笑しながら、頭をかいた。適当に切られた前髪が揺れる。

「……青明様、ですか」
「そうそう。青明はそういうの得意だったから。まあそれだけじゃなくて、茶を淹れるのもうまいし、着替えも……って、あ、着替えは、出来てるけど!」

それを主張するように、赤伯はわざと衿元をぎゅっと直した。ここでこれ以上、翠佳に手伝う隙を与えるわけにはいかない。

「ふふ、太守様って本当に面白い方ですわね。ふふふっ」
「ええ? そうか? 面白いって……」

翠佳が笑えば、通りすがりの妙齢の男たちは釘付けだ。
しかし赤伯は特に気にも留めず――彼自身も妙齢の男ではあるが――店先に並んだ商品を指さした。

「おっ。なあ翠佳、これはなんだ?」
「はい。こちらは、この辺りでよく作られる組紐細工です。良質の絹を染めて――」

美しく編まれた飾り紐は、この都市では若者に人気らしい。やはり心芹に比べて、栄えている。
若者が装飾品に気を回せるということなのだから。
そのすばらしさを噛みしめながら、着任一日目は、こうしてあっという間に過ぎていったのだった。

 ◆ ◆ ◆

「なあ青明、あのさ……あ」

いないんだった。――と赤伯は寝台の上で寝返りを打つ。

新たな寝床は広々としていて、天蓋の幕までついている。
なんだか仰々しくて赤伯の趣味ではないが、派手好みの青明が気に入りそうな雰囲気だ。

「これなら余裕あるし、青明も寝られそうなのになー……って言っても、来ないか」

青明が言う通り、この都市の官吏ではない彼を、ここに迎えるのが不自然だということは理解できる。とはいっても、だ。

「立場って……こんなに私生活にまで関わってくるのか……」

地位と気持ちがうまく噛み合わない。彼らが本当の主従であったころ、寝食を共にすることは少なくなかった。

青明の住む鈴氏の邸宅は太守館の隣に並べられていたが、執務の詰まっていたときなどは、よく共寝をしたものだ。

『太守さま! 私の体に足を乗せないでください!』

寝相が悪くて、そんな風に怒られることもしばしば。
けれど寝相が悪いだけではなかった気がする。青明にくっついているとどこか安心して、よく眠れるのだ。

『なんだよ~、もうちょっとこっち寄れって』
『もう! あなたには節度というものはないん……うぐ』

わめき始めたら、益々腕と足を絡め引き寄せる。すると不思議と青明は静かになるのだ。

『おやすみ、青明』

そして穏やかな眠りへと、互いに落ちていくのだった。

「青明が……こんなに遠く感じるなんて」

もっと青明と一緒にいられると思ったのに。
新しい地で、珍しい食べ物を食べたり、きれいな物を見たり――笑って、怒って……人としての喜びも悲しみも、ともに分かち合えると信じていた。

「俺の考えが甘かったのかな。一緒にいる道って、本当に残されてないのか……?」

明日、朝いちばんに青明と話がしたい。そう願って、大きな寝返りを再び打つと、夜具に深々と包まり瞼を落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...