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一,歌声
しおりを挟む歌だ。
歌声が、聞こえる。
いや、歌声のようで……けれど声ではない。
鼓膜ではなく、胸に降り注ぐような、そんな歌が。
――大地の子らよ
母なる海に抱かれて
尊い命を手に入れなさい
やはらかな波に撫ぜられて――
瞼を、ゆっくりと持ち上げる。
きらきらと輝くプリズムの光が、マテウスの碧い瞳を照らした。
重い瞼の視界を縁取る、金色の睫毛をゆっくりと上下させる。
そうしているうちに、ようやく目の焦点が合いつつあった。
仰向けに横たわるマテウスの見上げる先には――顔がある。
見たこともないその顔に、マテウスの意識は徐々に鮮明にならざるを得ない。
透き通る肌……それは朝靄のように白いとか、美しい女神が光るような肌を持っているとか、そういうことではなく。
……事実、透明なのだ。
高くのぼる太陽の光を遮ることなく透き通らせ、マテウスの顔面に降り注ぐ。
しかし透明であれど、顔の作りはなんとなくわかるものだった。
狭く整った鼻筋、長い睫毛に覆われた上瞼、歌のような音にあわせて柔らかに動く唇……。
頭部から流れる髪は湿った風にさらさらとなびくが――やはり透明だ。
「あ……」
思わず声をこぼすと、子守歌のような声がやんだ。
やはり、この透明な何者かが唄っていたのだろう。
透明な人の視線が、するりとマテウスの顔におりる。
マテウスは逆にその顔を見上げる。
顎先から首筋、鎖骨、胸を眺めると、透けた肌のなかに、赤い心臓だけが見えた。
それはゆっくりとだが、生きていることを示すように律動している。
「き、君は……」
ようやくこの異常な人物に脳が危険を察知し、起き上がろうとしたが動けない。
左肩に激痛が走る。これは、骨が折れている痛みか。
(そうだ。舟が高波に襲われて、それで……)
マテウスは少しずつ、記憶の糸を辿り始めた。
耳元では、いまやすっかり穏やかな波の音が、ただ流れている。
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