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第十ニ章 陰謀
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翌朝。
フルートの放送部員だったハンスは、朝のミーティングで部員達に出す紅茶に睡眠薬を混ぜました。
混ぜる手は震えました。
部員達を眠らせて放送室を占拠し、ミクの奏でる旋律を全校に流す……。
小心者のハンスは、今までそれほど大きな事件を起こしたことはありませんでした。
でも……ミクの言ったとおり、ウィリアムとリクは早朝、早くも先生達に呼び出されたというのです。
このままだと、最愛の女性、ミクの裸体が汚い男達の慰みものになってしまう……。
それは、一途なハンスにとっては堪えられないことでした。
「おぅ、ハンス。ありがとな!」
部員達に、睡眠薬を混ぜた紅茶を配ります。
何も知らない部員達は、その紅茶を飲み……皆、眠りに吸い込まれてゆきました。
「ミクさん…みんな、眠ったよ」
ハンスは、放送室の隣の教室で息を潜めていたミクを呼びました。
「ありがとう、ハンス」
吸い込まれそうなほどの蒼い瞳をそっと細めた、ミクの微笑み……
(誰にもミクさんを汚させるわけにはいかない)
ハンスはそう、固く決意したのでした。
「全校放送のスイッチは、これかしら?」
「そう……
教室一室だけでは、いけないの?」
「ええ。きっともう、あいつらと先生達の取引が終わるころよ。あいつらも先生達もバラバラになって、どこに散らばっているのか分からないわ」
「そっか……」
ハンスは、自分達が起こそうとしていることの大きさに、まだ躊躇を隠せません。
そんな彼を尻目に、ミクは笛を握りしめます。
(まだ一度もやったことはないけれど……私ならできる!
『喪失』の旋律)
『喪失』の旋律……
それは、その名の通り、聞いた者の一部の記憶を失わせる旋律です。
『追想』と対をなす旋律……
しかし、極めて認知度が低い旋律であるため、先生達でさえ、その音色を知っている者はほとんどいないと思われました。
そして、そのことは、先生達に伝えられたであろう『あの記憶』を消去しようとしているミクには都合のよいことなのです。
ミクは全校放送のスイッチを押しました。
そして、すっと目を瞑って笛に口を付け、『あの日』……
ウィリアムが家に来た日に父と交わった、あの記憶を想起して、それを消去する音色を奏でたのでした。
フルートの放送部員だったハンスは、朝のミーティングで部員達に出す紅茶に睡眠薬を混ぜました。
混ぜる手は震えました。
部員達を眠らせて放送室を占拠し、ミクの奏でる旋律を全校に流す……。
小心者のハンスは、今までそれほど大きな事件を起こしたことはありませんでした。
でも……ミクの言ったとおり、ウィリアムとリクは早朝、早くも先生達に呼び出されたというのです。
このままだと、最愛の女性、ミクの裸体が汚い男達の慰みものになってしまう……。
それは、一途なハンスにとっては堪えられないことでした。
「おぅ、ハンス。ありがとな!」
部員達に、睡眠薬を混ぜた紅茶を配ります。
何も知らない部員達は、その紅茶を飲み……皆、眠りに吸い込まれてゆきました。
「ミクさん…みんな、眠ったよ」
ハンスは、放送室の隣の教室で息を潜めていたミクを呼びました。
「ありがとう、ハンス」
吸い込まれそうなほどの蒼い瞳をそっと細めた、ミクの微笑み……
(誰にもミクさんを汚させるわけにはいかない)
ハンスはそう、固く決意したのでした。
「全校放送のスイッチは、これかしら?」
「そう……
教室一室だけでは、いけないの?」
「ええ。きっともう、あいつらと先生達の取引が終わるころよ。あいつらも先生達もバラバラになって、どこに散らばっているのか分からないわ」
「そっか……」
ハンスは、自分達が起こそうとしていることの大きさに、まだ躊躇を隠せません。
そんな彼を尻目に、ミクは笛を握りしめます。
(まだ一度もやったことはないけれど……私ならできる!
『喪失』の旋律)
『喪失』の旋律……
それは、その名の通り、聞いた者の一部の記憶を失わせる旋律です。
『追想』と対をなす旋律……
しかし、極めて認知度が低い旋律であるため、先生達でさえ、その音色を知っている者はほとんどいないと思われました。
そして、そのことは、先生達に伝えられたであろう『あの記憶』を消去しようとしているミクには都合のよいことなのです。
ミクは全校放送のスイッチを押しました。
そして、すっと目を瞑って笛に口を付け、『あの日』……
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