FREEDOM〜自由の世界へ〜

神師月一瑠

文字の大きさ
82 / 304
第十ニ章 陰謀

しおりを挟む
翌朝。
フルートの放送部員だったハンスは、朝のミーティングで部員達に出す紅茶に睡眠薬を混ぜました。

 混ぜる手は震えました。
 部員達を眠らせて放送室を占拠し、ミクの奏でる旋律を全校に流す……。

 小心者のハンスは、今までそれほど大きな事件を起こしたことはありませんでした。


でも……ミクの言ったとおり、ウィリアムとリクは早朝、早くも先生達に呼び出されたというのです。

このままだと、最愛の女性、ミクの裸体が汚い男達の慰みものになってしまう……。

それは、一途なハンスにとっては堪えられないことでした。



 「おぅ、ハンス。ありがとな!」

 部員達に、睡眠薬を混ぜた紅茶を配ります。
 何も知らない部員達は、その紅茶を飲み……皆、眠りに吸い込まれてゆきました。



 「ミクさん…みんな、眠ったよ」

ハンスは、放送室の隣の教室で息を潜めていたミクを呼びました。


 「ありがとう、ハンス」

 吸い込まれそうなほどの蒼い瞳をそっと細めた、ミクの微笑み……


(誰にもミクさんを汚させるわけにはいかない)


ハンスはそう、固く決意したのでした。



 「全校放送のスイッチは、これかしら?」

 「そう……
教室一室だけでは、いけないの?」

 「ええ。きっともう、あいつらと先生達の取引が終わるころよ。あいつらも先生達もバラバラになって、どこに散らばっているのか分からないわ」

 「そっか……」

ハンスは、自分達が起こそうとしていることの大きさに、まだ躊躇を隠せません。
そんな彼を尻目に、ミクは笛を握りしめます。


 (まだ一度もやったことはないけれど……私ならできる!
 『喪失』の旋律)


 『喪失』の旋律……
それは、その名の通り、聞いた者の一部の記憶を失わせる旋律です。

 『追想』と対をなす旋律……
しかし、極めて認知度が低い旋律であるため、先生達でさえ、その音色を知っている者はほとんどいないと思われました。

そして、そのことは、先生達に伝えられたであろう『あの記憶』を消去しようとしているミクには都合のよいことなのです。


ミクは全校放送のスイッチを押しました。

そして、すっと目を瞑って笛に口を付け、『あの日』……
ウィリアムが家に来た日に父と交わった、あの記憶を想起して、それを消去する音色を奏でたのでした。 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...