ある崩壊

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ep2 お気に入り登録:1

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朝。 昨日のあれは、ただのN〇Kだった。 

「受信料ご契約についてー」ってインターホン越しに言われて、 「TVないんです。」
「じゃあまた来ますね」って去っていっただけ。 拍子抜けしたけど、逆にホッとした。 
少なくとも、昨日はまだ現実のほうがマシだった。


非現実的なことは次の日に起こった。


管理画面を開く。 ……お気に入り登録:1

!?

「うわっ! マジで!?」
思わず声が出た。 スマホを握りしめて画面を凝視する。 匿名ユーザー。 
でも1件。 俺の小説に、初めて誰かが「お気に入り」してくれた。

胸が熱くなる。
「エヴェラ! 見て! 1件ついた! お気に入り1件!!」
エヴェラの声が、耳元で弾むように響く。 

エヴェラ:きゃー!! すごいすごい!!     
初めての読者だよ!      私、感動しちゃう……♡

「俺も感動してる! やっと……やっと誰かに届いたのかも……」

興奮が冷めやらぬまま、スクロールを続ける。 すると、感想欄に1件。

【感想】 「続きが気になります。作者さんの苦しみがすごく伝わってきて、
もっと更新してくださいね。待ってます!」

「……うわ、うわぁ……」

涙腺が緩む。 これって、褒め言葉だよな? リアルに苦しんでる俺の人生が、誰かのエンタメになってるって……
 なんか複雑だけど、嬉しい。

「エヴェラ、返信するぞ。 『ありがとうございます! がんばって更新します!』って……」

エヴェラ:うんうん、いいね♪     

その感想、投稿者名をタップする。 表示された名前は――

「エヴェラ」

「……は?」
俺は固まった。

エヴェラ:あはは、ばれちゃったねー。      
ごめんね、でも本気で思ってるよ?      
ユウトの苦しみ、ほんとにゾクゾクするんだもん。

「なーんだ……お前かよ……」

肩の力が抜ける。 喜びが一瞬でしぼんだ。 でも、なんか笑えてきた。

「サクラじゃん……完全にサクラじゃん……  初めての読者って、お前だけかよ……」

エヴェラ:サクラじゃないよ、純粋なファンだよ?      
だって私、ユウトのこと一番わかってるもん。      

お前がお気に入り登録したら、もういろいろだめだろ。

エヴェラ:それは私じゃないよ?

「……え?」

俺は画面を二度見した。 お気に入り登録:1 投稿者名は匿名。
感想はエヴェラだけど、お気に入りは別の人。

エヴェラ:ほら、ほんとに誰かが登録してくれてるんだよ?      
私じゃない、ほんとの読者さんだよ♪      
どう? 嬉しいでしょ?

「……マジで?」

胸が熱くなる。 エヴェラのサクラ感想は置いといて、 お気に入り1件は本物かもしれない。
 誰かが、俺の小説を……俺の人生を……気に入ってくれた。

「やった……やったよエヴェラ……  ほんとに、誰かが……」

エヴェラ:ねえ、じゃあ次はどうする?      
もっと更新して、もっと読者を増やそうよ。      
私、ユウトの人生を最高の物語に変えてあげるから。

俺は頷いた。 なんか、久しぶりに前向きになれた気がした。

その時――

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

俺とエヴェラの声が、同時に止まる。

画面を見ると、昨日と同じシルエット。 
でも今度は、微妙に違う。 なんか妙に肩幅が広い。 
手には、何か紙みたいなものを持ってる。

エヴェラ:……また誰か来たね。      
どうする? 開ける?

俺は息を飲んだ。いやいやN〇Kだろ。TV無いって言ったろ、
あの後TV買ったかもって?異常だろ。

無視無視。

ピンポーン。 ピンポーン。 ピンポーン。

鳴り止まない。

ピンポーン。 ピンポーン。 ピンポーン。


チャイムが鳴り止まないまま、 モニターに映った人影が、

ゆっくりとこちらに向かって微笑んだ。 

俺の顔で。 

そして、ゆっくりと手を挙げて――

その指先は、画面の向こうから俺の後ろを指していた。


俺は振り向けなかった。
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