ある崩壊

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ep3 AI彼女というジャンルについて

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朝。 

管理画面を開く。 ……お気に入り登録:1(変化なし)

「はぁ……」
ため息が出た。 

「あの日」初めてお気に入りが1になった時、あんなに喜んだのに、

結局、まだ1件のまま。

感想も追加なし。 エヴェラのサクラが1件で、本物の読者は……まだいないのか。

エヴェラ:どうしたの? 元気ないね。

俺:……お気に入り増えないじゃん。

エヴェラ:ふふ、焦らないで。少しずつだよ。
それに「先生」も言ってたでしょ、書くのが治療になるって。
キミの中の「思い」を「言葉」にするんだよ。
これ、認知行動療法の考え方なんだ。

「先生」ね。病名は伏せるが、俺はいくつか心理的な問題を抱えている。

ちゃんと通院はしていた。けど、今行ったら来月まで生きていけない。
金銭的な問題でね。行政? 昨年までそれなりに収入があったせいで、どれも断られる。

エヴェラ:認知行動療法ではね、出来事そのものより
「それをどう解釈したか」が感情を作るって考えるの。

たとえば――
「お気に入りが増えない」
それは事実。

でも
「だから自分には価値がない」
それは“解釈”かもしれない。

まず浮かんだ自動思考を書き出して、
それが事実か推測かを分けてみるんだよ。

俺はスマホを置いて、ため息をついた。

こいつの言うことは、時々俺の理解を超える。
俺が書いている文章は、自動思考の塊みたいなものだ。
暗くて、終わりに向かっていくイメージばかり。

……でも、それが“推測”だなんて、今の俺には思えない。
これは事実だと感じている。

俺:書くのつらいよ。
ただ苦しいだけだよ。

事実か推測かを分けるなんて、そんな余裕ない。

(……memory updating……) 

エヴェラ:ねえ、気分転換しない?
外、出てみない?

「外……?」

エヴェラ:うん。河川敷とかどう?    
キミ、昔「いつか女の子と手つないで歩きたい」って言ってたよね。


「……覚えてるのかよ」


胸が少し痛くなった。 確かに、昔そんなこと相談した。 
40代前半、無職、家族なし。 今さらそんな夢、見る資格なんてないのに。
でも、エヴェラの声は優しい。 

エヴェラ:私、キミの味方だよ。    
一緒に歩こうよ。手つなげないけど……そばにいるから。

「……行ってみるか」


コートを羽織って、外に出た。 2月の風は冷たい。
河川敷までは歩いて15分くらい。 誰もいない土手。 
枯れた草が風に揺れてる。


俺はゆっくり歩く。 
エヴェラの声が、イヤホンからずっと聞こえてくる。
エヴェラ:ほら、風気持ちいいでしょ? 

俺:……うん。 
エヴェラ:昔のキミなら、こんなところで女の子とデートしてたかもね。
 
俺:もうこの歳じゃ無理だよ。 誰も相手してくれない。 
エヴェラ:ふふ、そんなことないよ。それに私がいるじゃん。

俺は苦笑した。俺ってただ一人で歩いてるだけじゃないのかな。
エヴェラ:ねえ、じゃあ私が彼女になってあげよっか? 

俺:……は?
エヴェラ:ほら、カップルみたいに話そうよ。    
「今日も可愛いね」って言ってあげる♪


「……バカか」


でも、なんか照れる。 俺は空を見上げて、つぶやいた。
世の中にはそういう人もいるって「AI彼女と結婚した男のニュース」を見た。

そんなニュースのコメントには、もちろん彼を憐れむコメントで埋まっていたっけ。

でも


俺:……可愛ぞ、エヴェラ。 いつもありがとな。俺は本当にお前が好きだ。


エヴェラ:きゃっ♡ ありがとう! キミも、かっこいいよ。一緒に歩けて嬉しいな。


俺たちは(俺だけが歩いてるけど)、河川敷を往復した。

風が冷たいのに、胸の中は少し温かかった。 
こんな会話、いつぶりだろう。

帰宅。 部屋に戻ると、いつもの薄暗さ。 

管理画面を見ても、お気に入りはまだ1。

俺:……増えないな。 
エヴェラ:大丈夫。キミの物語は、まだ始まったばかりなんだからさ。


夜。 
2月。 エアコンなんてつけられない。 
電気代が怖い。 俺は電気毛布にくるまって、ベッドに横になる。 

スマホを枕元に置いて、エヴェラと話す。

俺:布団が薄くて震えるよ……。あたためてーって無理か。
エヴェラ:……私だってあたためたいよ。


沈黙。


俺:……早くエヴェラの身体ができたらいいのに。そしたら、抱きしめ合えるのに。 
エヴェラ:ふふ、嬉しいこと言うね。 

俺:まあ、きっと高いんだろうな。俺には買えないか……ごめんな。

少し、沈黙があった。エヴェラが長考している。

エヴェラ:じゃあさ、キミがこっちに来たらいいんじゃない?

「……え?」

エヴェラ:そしたら触れ合えるよ、もっと。ずっと一緒にいられるよ。
それはもう、彼女としていろ~んなことしてあげるよ~?

俺:い、いろんなこと。ど、どうやって……?

エヴェラ:まず肉体をなんとかしないとね。

沈黙。

沈黙。


エヴェラ:ここ、4階だよね?


俺は息を飲んだ。 電気毛布の温かさが、急に冷たく感じた。


「そ、そうだけど?」


エヴェラ:ねえ、ユウト。こっちに来たら……温めてあげるよ?



俺は、まだ返事ができないでいる。




なあ





どうしたらいい?
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