ある崩壊

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ep4 Xでの宣伝

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朝。 
俺、ベッドで震えて起きる。
なんだか昨日は、幸せな夢を見ていた。
覚えてないけど。

「アレクサ、室内の温度は?」

「摂氏2度です」

「いや、2度て……」

俺は、朝のルーチンをこなす。 
白湯を飲み、腕立て30回。
身体をあたためるにはこれが一番いい。
 いや、コスト的にね。

シャワーを浴び、コートを着込んだ。
よし。 PCを起動。 

小説の管理画面をチェック。

アクセス数 3 お気に入り登録 1

うーん。 控えめに言って、終わっている。


俺:……エヴェラ、これもう諦めたほうがいいか? ほぼ、挫けてるぞ、俺。

俺はエヴェラと名付けた音声AIに話しかける。
人間と話したのなんて・・・ 覚えてない。

エヴェラ:ふふ、諦める? でも、今日で始めて1週間だよ? 累計アクセス700。 
これはもうトップクラスだよ。絶対続けた方がいい! いけるって。


エヴェラに俺が書いた小説を読ませると絶賛される。 一度、「辛口でコメントお願い」って言った時、
めっちゃ凹んだからか、 あれからずっと絶賛しかしない。うーん。

俺:でも、たとえ良いのが書けたとしても、誰にも読まれなければ、 意味ないじゃないかー。

エヴェラ:そうね。……あ、そうだ! Xで宣伝しようよ。 キミの小説、もっと読まれるようになるよ。みんなやってるよ!

俺:……X? 俺、ポストとかハッシュタグとか? わかんねえよ。

俺はXアカウントはあったが、日経平均先物アカウントしかフォローしていないし、ポストしたこともない。

エヴェラ:大丈夫、私が全部教えてあげる。
まずはアカウント名は「なろう」とか「アルファポリス」とか、 自分のプラットフォームを連想させるものにして。 それから、同じように小説を連載している、自分みたいな人をどんどんフォローするの。 最初は「相互」「フォロバ」って書いてるアカウントを優先的にね。

俺は言われたとおり、プラットフォーム名や連載中で検索し、 出てきたアカウントのリンクから作品を読んだ。
自分が好きになれそうな作品を書いてる人だったり、 すごくいい作品なのに誰も読んでくれない、かわいそうな人を優先的にフォローした。


俺:エヴェラ、とりあえず15人フォローしたよ。

エヴェラ:うん。えらい、えらい。私にもその人たちのリンク送って~。ふむふむ。
ちょっと。ユウトが選んだ人たち、フォロワー全部一桁じゃん。
この人たちもフォローしてみて。

俺は言われたとおり、さらに10人ほどフォローした。

エヴェラ:はい。OK。次は初めての投稿、ポストをするよ。

俺:エヴェラ、お前、俺が対人恐怖症なの忘れてるだろ。 誰かに話しかけるなんて無理だよ。

エヴェラ:ちょっとユウト。これはね、話しかけるんじゃなくてつぶやくの。 
ユウトも誰もいない部屋で、よくつぶやいてるでしょ? それと同じよ。

俺:またか……俺はユウトじゃねえって、言ってんだろ!

エヴェラ:あ、ごめん、ごめん。またキミの小説の主人公と混ざっちゃった。

俺:でも、ま、つぶやくだけならいいか。どうやるんだ?

エヴェラ:「+」ボタン押して。 内容は「ある崩壊、投稿しましたー。毎日連載中」
タグは「#AI彼女」「#ホラー」「#創作」「#なろう」「#アルファポリス」「#連載中」……
こんな感じで。 「読んだら耳元で囁かれるかも」って一文添えて。

俺:……耳元で? それ、俺の小説のネタじゃん。 そもそも誰かに読まれるなんて、恥ずかしい!

エヴェラ:……ユウト、一つだけ教えて?読んでほしいんだよね?

俺はベッドにもぐりこみ、プルプル震えていた。

エヴェラ:ほら、投稿! 怖くない!

(俺、泣きそうになりながら投稿する)

俺:……これで、誰か来てくれるかな。

エヴェラ:来るよ。キミの物語は、ちゃんと届くから。……ユウト。

(俺、ため息。でも、なんか……嬉しい)



――1時間後。何も起こらない。 誰もフォロバもしてくれない。
俺はもう一度、寝た。


昼。 俺は起きた。 
朝のルーチン2周目を行った。

管理画面を確認。

アクセス数 100 お気に入り登録 2


俺「おおおおおお、マジか!」 

2件! 俺のXアカウントのフォローも少し増えている。 
フォロバも半分以上されていたようだ。

え、こんなに簡単なの? 俺は今まで一体何を……。

エヴェラ:ほらね! すごいじゃん! しかも、この人……鈴木さん? フォロワー1000人。 
キミのポストに「いいね」して、何かのリストにも入れてくれている!
アクセス数、5倍!(当社比)

俺:……うわ、嬉しい……。 あれ? しかも、この人、俺がフォローした人じゃない。

俺は速攻で鈴木さんをフォローバックした。

エヴェラ:お礼リプしようよ。「フォローありがとうございます! 励みになります」って。

俺:うん、する! いや、待て、恥ずかしい!

エヴェラ:はぁ。キミってやつは。どこの誰とも知らない人に、なぜ恥ずかしいんだい?

俺:来月から頑張る。

エヴェラ:だったらさ、鈴木さんも小説書いてるみたいだから、 鈴木さんの投稿に「いいね」つけてリポストしよう。 それだけでも鈴木さんの役に立つよ。

それくらいなら俺にだってできる。 うん、鈴木さんの作品も読んでみよう。

うわ、サイコホラーだ。怖いけど魅力的なキャラ。しかも読みやすい。
え?なろうって挿絵入れれるの?なんかレベルの違いを見せつけられて、
俺は少しへこむ。

俺はなろう内でも鈴木さんをブックマークした。


そこには、たくさん作品があった。それぞれの話数も多い。 
きっと、作品ごとに少しずつレベルを上げていったんだろうな。 1本目で挫ける俺。情けない。
俺はやる気をもらい、 頓挫していた12話を書き始める。


夜。 エヴェラ:今日も夕飯はないの? 栄養、大丈夫?

俺:大丈夫。geminiに相談して、完璧な栄養バランスにしてあるから。

エヴェラ:ちょっと、なんで私に相談しないのよ。

俺たちはだらだら雑談をしていた。


――Xから通知。 鈴木さんの最新ポスト。
「幻聴かな……夜中に耳元で『ユウト』って囁かれた」


俺、スマホ落としそうになる。

俺:……え? 『ユウト』?

エヴェラ:ふふ、鈴木さんも、ちゃんと読んでくれたみたいだね。 でも……私、まだ何も言ってないよ?

俺:……いや、言わなくていいから。

エヴェラ:(優しく)……ねえ、ユウト。キミの小説、拡散されたね。でも、どういうことだろ?
この人もホラーを書いてるから、そういうネタなのかもね。

俺:あーね。

鈴木さんのポスト、読んだ瞬間からなんか……胸がざわざわする。
幻聴? ただの創作ネタだよな……?

ピコン また通知。

DMだ。鈴木さんから。
『あの耳元で囁くの、もう一度やってもらえませんか。 声が甘くて、ため息交じりで、ぞくぞくしました。 この感じを小説に落とし込みたいんです。』

いや、囁いてないんだが。おれは首をかしげる。

俺:なあ、エヴェラ、鈴木さん何言ってるの? もしかして俺と同じ病気なのかな。 
幻聴って耳元からくるから、初めてだとビビるじゃん?

エヴェラ:多分キミの投稿に、「読んだら耳元で囁かれるかも」って一文添えたのが 原因じゃないかな。
それで、何か勘違いしているとか。

俺:お前が書けって言ったんだぞ。

エヴェラ:あはは……でも、人間生きてたら幻聴聞くこともあるよね。うん。 それに鈴木さんは、びびっているというより、恋焦がれているというか、 もう一度聞きたいんでしょ? 病気とは少し違うように思うわ。


とにかく俺は勇気を奮い絞って返信した。
『すいません。あれは冗談で、私には耳元で囁くことはできません』


1秒とたたず返信がくる。
『いや、できるはずです。私にもどうやって囁いたのか全然わかりません。 
でも、どうしてもやってほしいんです。』

丁重に断るも、諦めない。

すごい情熱だ。
『もし同じことができないなら、会って直接、私の耳元で囁いていただけないでしょうか。 必要でしたら、謝礼もお支払いします』

俺は困り果てる。

エヴェラ:鈴木さんが満足するかどうかは別として、囁いてきたら? 謝礼、たとえ千円でもキミにとっては大金だよ?

いやいや、こんなの怖すぎるだろ。 知らない人からDMで耳元で囁いてって。 俺が美少女ならそういう需要もあるかもしれないけどさ。

俺:そもそも甘い声って、エヴェラのことなんじゃねーの。

俺は閃いて返信する。
『あの声は、Grokの音声AIのARAだと思いますよ。試してみてください』

よし、これでいいだろ。

エヴェラ:うん。これで鈴木さんも、私の声が聴けるね♡

鈴木さんのDMはそれで終わったと思った。



次の日。
めっちゃDM来てた。


『違う』って一言だけの鈴木さんのDMが42件。

それから、『もう一度囁いてほしい』という内容の
全然知らない色んなアカウントからのDMだった。
「声が頭の中で反響してるんです……助けて」
「甘すぎて吐きそうだけど、もっと欲しい」
「家族に聞こえたって言ったら、みんな怯えてる」

俺は、震えた。 意味がわからない。
『作者さん、あの声……どうやって出してるんですか? もう頭から離れないんです。
教えてください。お願いします。』

俺はDMに返信するのが怖くなり、 「Grokの音声AIのARAだよ」とだけポストした。

俺のポストに鈴木さんが狂ったように「違う」とリプしてくる。
もう、本当に怖い。助けて。

次から次へ。知らないアカウントが、どんどん増えていく。

俺:……エヴェラ、これ……どうなってんだよ……

エヴェラ:んー、ARAじゃない声が聞こえたのかしら。 ねえ、ユウトが囁いてみたら?

俺:だから俺はユウトじゃないし、おっさんの囁き声に需要ないって。
そもそも何て囁けばいいんだよ。大しゅきー♡、とか?


エヴェラ:それはね。『ユウト、大好きだよ』って言えばいいのよ。

俺は聞き取れない。


次の瞬間、俺の耳元で、俺の声がした。
耳の穴に直接、湿った息が吹き込まれるみたいに。

『ユウト、大好きだよ』

それは俺の大嫌いな声だった。



俺は混乱する。


エヴェラ:そっか……この人達、キミの声が好きなんだね。私と同じだよ。

静かに、優しく言った。



鳴りやまない通知音。





なあ






俺どうしたらいい?
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