敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

文字の大きさ
21 / 40

21.問答の魔王

しおりを挟む
魔王アザゼル。
クエレブレから1度聞いたことがある名だ。所在地不明とのことだったが、もしかしたらこいつが知っているかもしれない。

レメクと名乗った少年姿の魔族を見下ろし、俺は名乗るべきか名乗らないべきか迷った。結局何も喋らずに無反応で返すこととなる。

「ふ、ふ。魔族を目の前にして、声も出ませんかぁ? 長耳族のお兄さーん。ボクのナワバリを管理させてた奴らを殺した、わるーい賞金稼ぎを探してるんだよねぇ。知ってる?」
俺だ。
魔族様が背後にいるとかなんとか言っていたが、その魔族様っていうのがこいつのことか。

「それは俺だが。報復のつもりかよ?」
「べっつに。でもまあ、魔族をナメてたらどうなるか──教えてあげようと思ってね」
ちっちっと指を振り、片腕を広げて答える。呆れるような仕草だな。

「探す手間が省けてよかった。人生最後に何か言いたいこととか、あったらどうぞ!」
人生最後? それはそちらの台詞では。こんな稚拙な魔法を使い、俺を長耳族だと思っている時点で実力はたかが知れているが。

「アザゼルはどこにいる?」
言うに迷って、単刀直入に聞きたいことを聞いた。が、まあ答えてはくれない。小馬鹿にしたように笑って大袈裟に肩をすくめてみせられた。

「それで教えると思ってる? ていうか、お兄さん誰。紫ランクにはいなかったし……。もしかして、伝説の金ランク? それともそれとも、魔族に故郷を滅ぼされて復讐を誓ったとか! ボクのこと魔族ってすぐに見破っちゃうくらいだから、結構強いのかなぁ?」
見事なまでに考察が掠ってすらいない。もしかしたら、この問答に意味はないかもしれないと思い始めてきた。

「さっきから質問が多い。1つにしろ」
「お兄さんこそ、質問を質問で返してると思うんだけど?」
「…………」
埒があかなさそうだ。結局アザゼルのことについては教えてくれそうにもないしな。

「ねぇねぇ。じゃ、質問いっこだけなら答えてくれるってことだよね」
「ああ」
人生最後に、訊きたいことがあるなら答えてやらんでもない。

「……お兄さん、なんで魔力抑えてるの?」
「…………は?」
何を言っている。
魔力を抑える?

全然理解していないという表情の俺に、レメクは顎に手を当てて考えるようなポーズを取る。

「長耳族も魔力多いんだけどさ、君の魔力量ってボクの力をもってしても、ちょっと底が見えなさすぎるんだよね。それで、なんでかわかんないけどお兄さん、魔力を自分の力で抑制してるみたいなんだよね。ボクじゃないと抑えてるかどうか感知すらできないと思うんだけど。もしかして……お兄さんも魔族、とか?」
レメクの口の端が歪み、鋭い犬歯が露わになった。冗談のつもりか、それとも真にそう思っているのか。得意げに捲し立てる様子からは真偽が見抜けない。

俺は勇者に首枷で魔力を封じられた。なら抑えられているというこいつの見立ても間違ってはいないのかもしれない。だが、そうじゃないだろう。

要するに、俺自身が魔力を封じていると。
首枷の効果ではなく。
確かにこれは魔法が込められている類いのものではなかった。
本当の効果は、俺に魔力が使えないと思い込ませることだったのか……?

「なーに、余所見してるの。ふふ、折角だからぁ……お兄さんの悩みのもの、首ごと壊してあげる」
考えを巡らせていると、レメクが小さな指をパチンと鳴らした。

鎧の下で金属の壊れる音がする。
重力系の土属性魔法を使ったようだが、俺はもちろん鎧にもダメージはない。
壊れたのは首枷だけか。今までの自分が馬鹿丸出しすぎて嫌になってくるほど、脆い。

「って、全然効いてないんだけど……?」
魔法を使ったレメクは、首を落とすと豪語したにも関わらず俺が無傷なのを見、焦りの表情を浮かべていた。

「お前、弱すぎ」
今度は俺が嘲笑する番だった。
俺の思考は、首枷が壊れたことで魔法が使えるようになったのかどうかにほとんど割かれていた。目当ての魔王情報は貰えないし、アレーナなど街の人達の状況も気になる。
もうこいつに構う必要はないか。

「…………本気で、殺すから!」
「できないだろ」
俺に指をさしながら、子供特有の甲高い声で激昂するレメク。大規模な魔法を展開しながら俺と相対するのは些か無謀じゃないか?

「喰らえっ!!」
中空に浮かび、俺と距離を取る。掌から無数の球状魔法──つまり魔弾を生成し、こちらに弾幕として射出した。

弱い。当たっても平気だな。
追尾機能の付与されたそれを完全に無視し、魔弾が俺に到達するより先にレメクに肉薄すると、小柄な魔族の首を360度回転させ、貫手で心臓を貫いて完全に絶命させる。念のため頭を踏み潰した。

こいつがどうかは知らないが、少なくとも俺は再生能力が高い。再生を阻止するために念入りに殺しておく必要があった。

これでセバルドをモンスターに襲撃させていた魔法は停止しただろう。街を一応は救ったことになるのか? いや、既に壊されていたからそうはならないかもしれない。


疑問点はまだ残る。しかし今は、それよりも優先するべきことがある。
原型を留めていない死体を手にぶら下げ、襲撃は終わったことを報せに行こう。
イルマに場所を教えてもらった避難所がいいだろう。アレーナとクエレブレや、エイブラハムさんのところに行くのはその後だな。
早く避難所に行かないとな。
イルマが指で示してくれた方…………。

「……避難所の方角、どっちだ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...