敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

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32.練兵場

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見失わないようにタニアの後を追い掛ける。タニアは足が速く、アレーナなどほとんど小走りになりながら着いて行っていた。

市井の人々は外見に押されているのか、それとも力に圧倒されているのかは知らないが俺達に道を開けている。



他の本隊メンバーは、パワー系に見える冒険者と、反対に純魔法系であるらしいタイプに二分されていた。どちらかというと魔法師は少なめである。魔法師は絶対数が少ないからそれもそうか。エイブラハムさんもパワー系に近かったし。

俺も魔法系に見えているのかは怪しい。



「練兵場は、王立騎士団の訓練に使われている場所。休みの日は剣闘とかの大会もあるんだって」

そんな場所で戦えると。金ランクが何なのか、紫ランクの上であることしか俺は知らないが、凄いのだろうな。




そうこうしているうちに到着した。

楕円形の構造物。あれが練兵場だろうか。冒険者が入り口の扉から入っていくので、俺とアレーナもそれに続く。



「天井が高いな」

「第一声がそれ?」

アレーナは呆れたように言うが、天井は実際に高いのだから仕方ないだろう。中央には砂が敷かれ、一段高いところから段のようになっている客席がある。俺達は入り口のあたりで固まり、どこに移動するべきか迷ってその場で立ったままでいた。

タニアは1人で砂地の真ん中に立ち、両手を広げて仁王立ちしていた。



「さぁて、1番最初に僕と戦いたいのは誰かな?」

俺が行こうかな……と思って進み出ようとしたら抜かされた。俺が後ろの方に立っているのが悪いのだ。最初に戦うのは長耳族の双剣使いだった。

長耳族!? 俺が偽長耳族だということが発覚したら嫌だな。



見守る冒険者達は巻き込まれないように客席に散り、俺も上の方の客席から戦いを眺めることにした。



「僕は魔法師だけど、君は双剣使いだよね」

「……それが何か」

長耳族の男は静かに答え、腰から2本の短剣を抜き放って構えた。紫ランクともなれば、構えもクラウスや俺のそれより遥かに洗練されている。



「魔法と物理では相性が悪いから、僕も身体強化だけで戦おうか?」

「挑発のつもりか……?」

今のは明らかに煽りだった。いくら金ランクだといっても、紫ランクの双剣士に対して相手の土俵で戦うことを宣言するのは明らかに分が悪いし、挑発ととられても仕方がない行為だろう。

遠くからでも見てわかるほどに双剣士の殺意が高まる。



「いいよ。来なよ」

言い終わるのを待たず、双剣使いの男が動いた。タニアは徒手で無防備であるかのようにただ立っているだけである。

そこそこ速い男の刃は確実に首を狙っており、殺すつもりであることは明らかだった。タニアはまだ笑顔で立ち尽くしたままである。



「……ッ!?」

だが、刃は首に届く寸前で止まった。男の表情がどこか焦りを含んだものに変わる。

首筋に迫った双剣の刃先は、タニアの指先に掴まれていた。言うまでもなく身体強化の魔法である。



「これが金ランク冒険者……! 身体強化の魔法、アタシも使ってるけど……ここまで差があると競う気も起きなくなっちゃう」

「ん? 競うんじゃなく、勝つって意味か? あとはそんなに強い魔法じゃないぞ」

「そういう意味じゃなかったんだけど……希望見出してくるとやる気でるよ。強い魔法じゃないっていうのは、シェミハザ様基準でしょ?」

「いや、強化魔法の強さとタニアの実際の力がつり合っていない。タニアにかかっているのはアレーナの使っている身体強化よりも簡易的なものだ。つまり最初からあの身体能力だったということになるな」

「魔法師でもそうなんだ。シェミハザ様とちょっと近いかもね」

女の剣士や拳闘士とて珍しい存在ではない。が、それは身体強化魔法あってのことだ。素の筋力であそこまで素早い動きをするのは、人間とは言い難いような気がする。纏っている魔力は魔族ではなく、正真正銘人間のものなんだが……どこか違和感があるんだよな。



「次は僕のターンでいいよね?」

タニアは、受け止めた刃を指先で掴んだまま後方に投げ捨てた。衝撃で微妙にバランスを崩す双剣士に足を伸ばし、足首を蹴り飛ばして空中から自由落下させる。

1本となった剣を咄嗟に順手に持ち替え、空いた片手をついて地面に着地した剣士。タニアはそれを予想していたかのように、体勢を低くして右肘を思いっきり……ただし体に触れる直前で勢いを殺しつつ、打ち込んだ。

痛そうなうめき声を発しながら男の体が吹っ飛ぶ。

……身体能力云々もあるが、技巧も高いな。



吹っ飛ばされた男は起き上がれないようで、小さな声で呟いた。



「……降参……」

「おつかれ! 誰か運んであげて!」

前列にいた牛頭の男が、双剣士の男を客席に運ぶ。少数ながら討伐本隊にいる治癒魔法師が1人傍に駆け寄り、治癒魔法を唱えた。

タニアの圧勝である。しかも大幅なハンデ付きで。



「何があったのか全然わからん……」

「魔法師とか嘘だろ?」

口々に冒険者がタニアへの驚嘆と称賛を囁く。

いいのか? 今言って。後で俺に対して全く同じ台詞を吐くことになるぞ。
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