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第二章 旅立ち編

第44話 あさひの実力

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【ルーシー視点】


 気付いたらステラお姉様がわたしの後ろにいた。

「これで皆様はルーシー様の護衛任務の失敗です。ただし、動きは非常に良かったかと思います。皆様がこれから訓練や実戦を重ねて、さらに成長していく姿が楽しみになりました」

 わたしは愕然として膝を付く。こ、これが伝説の剣士。じ、次元がまるで違う。
 ミケネ、カレン、フーカも真っ青な顔をしている。サーシャはボーッとあっけに取られている。


「す、凄すぎるわっ!ステラお姉様っ!な、なんて凄いのかしら!」



 ふと、あさひの方を見ると、ニコニコ顔でこちらを見ている。

 ぐぬぬぬっ、あさひめ!わたしをバカにしているわね!つ、次はあさひの番よ!ステラお姉様は仕方ない。伝説の剣士と呼ばれお父様やお母様達と共に戦った歴戦の戦士。英雄!

 気持ちを切り替えるのよルーシー。わたしならやれるわ。冷静に。スーハーッ

「次は俺の番ですね」
 あさひは余裕そうにそう言った。

「わたしがやるわっ!」

「あさひ様にも皆様全員で大丈夫です」
 ステラお姉様はそう言ったがわたしは否定する。

「いえ、わたし一人にやらせてください。皆は下がっていて」
 あさひは背中に大剣を背負っている。間違いなく剣士ね。距離を取って戦えばわたしの楽勝よ。接近戦はさすがにきついけど、わたしには詠唱短縮がある。近づけさせない。

 皆はわたしの命令に従い距離を取る。

「ルーシー様。ではよろしくお願いします」

「よっ、よろしく」
 むっ、あさひ余裕そうね。なんかムカつくわっ。見てなさい。

 わたしは始まりと共に、あさひから十分な距離を取る。あさひは追ってこない。

 ふふ、素人ね。魔法使いに距離を取らせるなんて。わたしは詠唱を開始する。

「○○○ ○○○○ ○○、、、」

 詠唱をしていると、あさひの右腕から球状の何かが出てくる。

 何あれっ?

 次の瞬間、、、

 その球状の何かは高速で飛んできて、わたしに直撃し吹き飛ばされた。

「えっ?何今の?何が起きたの?」

 当たった衝撃で吹き飛ばされたが、体はあまり痛くない。
 わたしは地面に仰向けになっていた。何が起きたのか全く分からなかった。
 今のは魔法?でも詠唱は?

「あさひ様が手加減をしていなければ、ルーシー様は死んでいました。勝負ありです」
 ステラお姉様がわたしに声をかける。

 わたしは起き上がる。

 どうやら皆もあっけに取られているようだ。

 くっ、あさひめ。剣士の振りをして、魔法使いだったなんて。卑怯ね。油断したわっ。

「次は皆様全員であさひ様とお手合わせお願いします」

「えっ、ステラさんさすがにそれは厳しいですよ」

 あさひはステラお姉様に口答えする。くっ、わたしを倒して良い気になってるわね。でも許さない。さっきの攻撃の正体を突き止めてやる!ここは皆でやるわよ。

「ステラお姉様の言うとおり、みんなでやるわよ」

「「はい!」」

 皆もあさひの実力を見たそうだ。

「はじめ!」

 ステラお姉様の声と同時にミケネが剣でかかる。
 あっ、ミケネが行ったらすぐに終わっちゃう!

 あれっ、終わらない………ステラお姉様同様、あさひもミケネの剣をヒョイヒョイと紙一重でかわし続ける。

 皆あっけに取られる。
 それもそのはず。ミケネの剣の腕は王宮女騎士の中でもかなり上の方。
 ハッとしたカレンが大盾をあさひにぶちかます。こちらからでは大盾があさひをすっぽり隠し、見ることができない。

 あの衝撃を食らえば、これであさひが吹っ飛ぶわね。

 あれ、カレンが止まる。なぜ?逆にカレンが吹き飛ばされた。なぜ?
 大盾に隠れて状況が見えなかったが、なぜ?カレンの力はそこらの男よりもずっと上よ。

 ミケネは再び剣で怒濤の攻撃を続ける。
 あさひは剣すら抜いていない。しかし、かわし続ける。

 次の瞬間、衝撃の事態が起こる。

 なんと、あさひがミケネの剣を素手で受け止めた。

「う、嘘!?」

 なに?一体何が起こってるの?
 剣を素手で受け止めるなんて?そんなことあり得るの?

 ミケネは額に汗を流して固まっている。
 あさひは反対の手でミケネの腹に拳を入れ、ミケネを気絶させた。

 今度はフーカが素早い動きで背後に回り、あさひに攻撃を仕掛けに行こうとする。

 その瞬間、あさひが消えた。

「えっ、消えた!?」

 と思ったら、逆にあさひがフーカの背後に回り込み後ろから首に手刀をあてる。フーカがガクッと崩れ落ちる。
 あさひがこちらに向かってこようと動き出した。

 させまいと準備していたサーシャのウインドカッターがあさひに向かう!

 これは当たる!と思ったら、あさひが無詠唱でウインドカッターを繰り出し相殺。

 いや、威力が全然違う。サーシャのウインドカッターを飲込み、そのままサーシャに向かい直撃。
 吹き飛ばされたサーシャをステラお姉様がキャッチし抱きかかえる。

 やっぱり!無詠唱!そ、そんな。あ、あさひって……一体何者なの…………

 そして、わたしは見た!その時あさひの両眼がうっすらと金色に光っているのを。本当にうっすらと良く見ないと分からない。あ、あの眼はっ!やっぱり、わたしを助けてくれたのはあさひ!

 あ、あの神々しい眼はやはり見間違いなんかじゃなかった。

「ま、参った!」

 わたしは咄嗟に答えた。

 あさひは即座に戦闘態勢をやめた。そしてあり得ないことに………

「全体回復魔法(エリアハイヒール)」

 あさひはエリアハイヒールを唱えた。エリアハイヒールは聖女様が得意とする上級回復魔法。しかも詠唱も無しに使うなんて………本当に一体何者なの。

 みんなが目を覚ます。

 手合わせはわたし達の完敗で終わった。


「あさひ様、手も足もでませんでした。お手合わせありがとうございました。王宮で多少実力が上の方だからとうぬぼれていた自分が恥ずかしいです。これからはさらに訓練を頑張りたいと思います。ぜひまたご指導よろしくお願いします」

「いえいえ、ギリギリの戦いでした。ミケネさんの剣術も凄かったし、カレンさんの大盾の技術も驚きました。フーカさんの動きもたまたま気づけただけです」

 素直に負けを認めたミケネ、カレン、フーカ。あさひのことを凄い方と認めているようだ。


「あさひ様~、凄いです。凄すぎます。かっこいいです~。今度無詠唱魔法のやり方、二人きりでサーシャに教えて下さい~」

 あっ、サーシャが完全に乙女の目になってる!あの上目遣い。あさひの腕を組んで自分の大きな胸に当てているわね。あれはサーシャのお得意のやり方。小柄なのにあの暴力的な胸は反則よ!あさひめっ!デレデレしてるわね。わたしだってあと何年か経てばあのぐらいにはなるんだからねっ。あっ、違う。なんでわたしはそんなことを考えてるの!そう、わたしも無詠唱を教えてもらいたい。サーシャを引き離して、お願いしよう。

「サーシャ離れなさい。あ、あの、!あさひ。わ、わたしにも無詠唱教えなさいよ、フンッ」

 ち、ちがーーう!なんでわたしはこんな態度を!教えてもらうのにこんな態度はダメよ!なんで素直に言えないの!

「はい、では上手く教えられるかわかりませんが、ルーシー様とサーシャさん、無詠唱を今度一緒に練習しましょう」

「やった~、あさひ様、ありがとうございます~」

 また、あさひにベタベタくっつくサーシャ。サーシャ、完全にロックオンしてるわね。あっ、また胸をくっつけて!ずるいわっ。い、いやいや、わたしは何を考えているの!全然ずるくない。わたしには関係ないわっ。それにしても、あのデレデレしたあさひの顔がなんかムカつくわね。

「フンッ」

 ち、ちがーーう!なんで教えてくれるって言ってるのにわたしはこんな態度を!これじゃわたし嫌な女じゃない。身分が高くて傲慢な女。最低よ、一番最低な女よ。ダメよ、お礼よ。お礼を言わなきゃ。
 わたしがお礼を言おうとした時


「あさひ様、随分楽しそうで何よりです」

 氷のような冷たい目のステラ姉様があさひに声をかけて、家に帰って行った。

「あっ、違うんです!ステラさん!」

 あさひは引きつった顔で慌ててステラお姉様の後を追いかけて行った。



 シーーンとするこの場



「あの、姫様。どうやら私達はお二方をお守りすることを考えるよりも、自分達のことを考えて、お二方の足を引っ張らないようにすることの方が大事かと思いますわ………」

 ミケネは落ち込みながらわたしに提案してきた。

「そ、そうね。わたし達も負けずに強くなりましょう」

 わたしの護衛の彼女達は、この日ステラ姉様とあさひの圧倒的な強さ。人柄に惚れ込み、完全に二人の信者となるのであった。

 わたしはと言うと、ステラお姉様の信者ではあるが、断じてあさひの信者ではない。

 でも、あの眼の秘密。強さの秘密。今まで出会ったことが無い不思議な雰囲気。

 顔はまあまあだし、性格もまあ、良さそうね。あの不思議な雰囲気も、まあ合格よ。


 気になって、気になって、気になって仕方なくて、その日からあさひのことばかり見てしまうのであった。



 も、もしかして………これがわたしの初恋………?

 ち、違うわっ!断じて違うわっ!
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