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102号室 五条 渚
しおりを挟むハァー、今日も一日よく働いたなと自分で自分を褒めながら帰途につく。
ようやく自分の部屋があるアパート『時計荘』が見えてきた。
自分の部屋の前に立ち、鞄を探り鍵を出す。
「あっ、帰ってきた。
五条さん、お仕事お疲れ様です!」
部屋に入るタイミングを見計らったように、俺の真上の202号室に住む三木と知らない女性がひょっこりと階段の陰から顔を出した。
「あぁ三木さん、こんばんは。
…そちらの女性は?」
疲れを顔に出さずに問う。
「今日から203号室に住むことになった鍋島です。
よろしくお願いします!」
そう言って鍋島はお辞儀をした。
「これで、このアパートの住人さん達全員に挨拶は終わりましたね!」
「四宮さんと一ノ瀬さんにも挨拶できたんですか?」
キャバ嬢として働く斜め上の住人と、滅多に姿を現さない隣人への挨拶が済んだのか聞いた。
「はい四宮さんはお仕事上がりに伺って、一ノ瀬さんはその後に伺ったら運良くお会いできました。」
「それで俺が最後だった訳ですね。
…鍋島さん、これからよろしくお願いします。」
俺は営業スマイルで挨拶する。
そして、お互いに会釈をしながら各々の部屋に帰った。
ドアにしっかり鍵を掛けてから、クローゼットに一直線する。
中から俺一番のお気に入り、パステルピンクの半袖の女性物ワンピースを取り出した。
その場でスーツを上下脱ぎ捨てて、女性用の下着に着替えてからワンピースに袖を通す。
俺の身長は175cmあるので、探すのに苦労した一着だ。
ゆるふわパーマのセミロングのウィッグを被り、メイクをする。
全身完璧に女装ができてから、全身が映る姿見の前で出来栄えを確認した。
「ハァァ、俺ってばチョー可愛い!」
完璧な俺の可愛さに一日の仕事の疲れが取れていく。
俺は心は男だが女装癖がある。
日中は会社で普通のサラリーマンとして働き、家に帰ってから勝負服に着替える。
会社の人達は誰も俺の趣味を知らない。
今日は会社で嫌なものを見てしまったから、帰ってすぐに癒されたかったのだ。
俺が対応した訳じゃなかったが、同期の女性が取引先の営業からセクハラ紛いの言葉をたくさん投げつけられていたのだ。
相手が悪いことに立場は取引先の方が上なので、周りもハラハラしながら見守るしかなかった。
そこで俺はコッソリ同期の上司を呼んできて、その場は何とか波風立たてずに乗り切ったのだ。
取引先のアイツー粕田と言ったか。
若いクセに生意気だしセクハラ野郎だし最低な男だったな。
今日の出来事を思い出して、鏡の前で俺は溜め息を吐いた。
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