オンボロアパート時計荘の住人

水田 みる

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203号室 鍋島 あかね①

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 DV彼氏・拳から逃げ出して1週間が経った。

誰かに怯える事のない生活は、とても平和で穏やかで心安らかに過ごせた。

私の携帯も隣に住む三木さんに預かってもらっているので、拳からの連絡にビクビクする事もない。

ただ逃亡生活をしているから仕方ない事だけれど、ずっと外に出られないのは地味にしんどかった。


窓から外の景色を見ていた朝のこと…


ガチャーーーンと玄関側の外から何かが割れた音が大きく鳴った。

同時に


「あららー、割れちゃいましたー!」


三木さんの慌てた声も聞こえた。

音を出したのが三木さんだと分かったので玄関のドアを開けた。


「三木さん、どうしたんですか?」

「鍋島さん、今こっちに油が流れてるので滑りますよ!」


その場で確認すると三木さんと四宮さんの部屋の通路ーつまり202号室と201号室の間に、割れたオリーブオイルの瓶が転がっていた。

新品だったんだろう、かなりの量が溢れている。


「ちょっと、ウルサイんだけど!?」


派手な音に何事かと四宮さんまで部屋から出てきた。


「四宮さん、すいません!

油を落としちゃいました!

掃除はしますけど、しばらくは滑るかもしれないんで気を付けてくださいね!」

「…わーった。」


四宮さんは通路の油をマジマジと見つめて納得して、部屋に引っ込んだ。


「鍋島さんも驚かせちゃって、すいませんねぇ!

あなたも気を付けてくださいね!」


三木さんは私に謝ってペコリと頭を下げた。


…この油のせいであんな事が起こるだなんて、この時の私は夢にも思わなかった。



ーその日の夕方、三木さんからお誘いがあった。


「1週間も家の中に籠もりきりだと気持ちも鬱々とするでしょうし、私も付いていくので少し散歩しませんか?」

「いいんですか!?」


願ってもない提案だった。


ドアを開けて階段に2人で向かおうとした瞬間だった。

階段を上りきって、こちらに向かってくるDV彼氏粕田 拳を見たのは。


「ヒィィ!」


思わず悲鳴が出てしまう。


「見ーつけたぁ、あかね!

本当にこんな所にいやがったのか。

オラ、さっさと帰るぞ!!」


恐怖で動けない私の腕を拳が無理矢理、掴んできた。


「…い、嫌ぁ…」

「乱暴はやめなさい!」


私のひ弱な拒絶と三木さんの強い拒絶は同時だった。

そして、私の代わりに三木さんが拳の手を振り払う。

彼にとって運が悪い事に、そこは今朝三木さんが油を溢した場所だった。


「おぉぉ!?」


拳は情けない声を出しながら、後ろによろめく。

よろめきながら201号室までふらついた瞬間だった。


「ねぇ、何の騒ぎなの!?」


四宮さんがドアを階段に向かって開けたのは見えた。

そして拳がそのドアに押し出される形で階段に落ちていくのは、ドアに隠れて見えなかった。









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