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ひ孫達のおしゃべり
カフェの個室
しおりを挟む私の退院から1ヶ月が経った。
既に学校にも行っているし通常運転だ。
ただし事故前と違っている事はーー
「今日も皐月さんから連絡着たのか?」
小春が私に聞いてくる。
『皐月さん』とは私が事故で助けた男の子のお兄さんで、私と小春が大ファンの野球選手でもある。
彼は何も悪くないのに罪悪感からなのか、私と連絡交換をしてから毎日メールか電話で連絡してくれる。
小春はそれに対して
「罪悪感じゃなくて恋愛感情だろ。」
などと、明後日の見解だ。
そして昨日、皐月さんから電話で
「あのっ、明日はオフなんです!
楓さんと小春さんさえ良ければ、カフェでお茶しませんか?」
「お誘いは嬉しいですけど絶対に注目の的ですよね!?」
「あぁ、それなら大丈夫です!
個室があるいいカフェを知ってるんで。
座敷に上がるタイプなんですけど、二人が良ければ予約入れときます!」
ーそうして今、私と小春はそのカフェで皐月さんを待っていた。
「…今日の皐月さんの連絡?
さっき『もうすぐ着きます。』ってメールきたよ。」
…本当は朝に『おはようございます』メールが着ていた事を、何となく内緒にしてしまった。
その時、店の入口で可愛らしくチリリンと客の訪問を告げるベルが鳴る。
そして、その客が誰なのか気付いた数人のカフェの客がざわつくのも個室にいながらも分かった。
私達の部屋の障子が店員さんの『失礼します』の言葉と共に開けられる。
果たしてそこには今をときめく野球選手が、はにかんだ笑顔で立っていた。
私が入院中に謝罪を受けて以来の再会だ。
「お待たせしてすいません!」
障子が閉まるなり皐月さんは90度のお辞儀をする。
私は驚いて
「そ、そんなに待ってませんから大丈夫ですよ!
す、座ってください!」
…思わず吃ってしまった。
「す、すみません、失礼します!」
彼も吃りながら座布団に腰掛ける。
…誰も何も話し出さず沈黙が続いてしまった。
「…弟さんはお元気ですか?」
仕方がないので私が話題を振る。
隣の小春は我関せずのようで、メニュー表とにらめっこ中だ。
「はいっ、おかげ様で元気にサッカー小僧してます!」
「フフッ、弟さんはサッカーの方が好きなんですね。」
「そうなんですよ、弟は
『兄ちゃんが野球を極めてるから、オレはサッカーを極める!』
だそうで。」
皐月さんは苦笑いしながらも、自分を認めてくれている弟に嬉しそうだ。
「よし、決めた!
私『季節のスペシャルパフェセット』にする!」
小春がメニュー表から顔を上げて、突然宣言した。
確かにそのメニューはお店イチオシで私も食べてみたいけれど、値段も学生の私達にとってはスペシャルなのだ。
…まさか小春のやつ、いや絶対そうだ!
皐月さんに奢ってもらうつもり満々だろう。
「…私はアイスのカフェラテで。」
「楓さん、どこか具合が悪いんですかっ?
甘い物は確か好きでしたよね?」
私と小春の注文の差に驚いたのか、皐月さんが心配している。
「…い、いえ、そういう訳じゃなくて…」
何と上手く言ったらいいのか分からずモゴモゴしてしまう。
「それなら小春さんと同じの頼んだら、どうですか?
今日は俺の奢りなんで好きなのどんどん食べて下さい!」
手持ちのお金を心配していると誤解されてしまった。
「いや、そんなの悪いです!」
彼はキョトンとした顔をして
「俺が奢りたいだけだから全然悪くないです!」
そう言って少年のような笑顔を見せられたら、私も白旗を上げるしかなかった。
「…それなら、私もお言葉に甘えて同じのをお願いします…」
皐月さんは嬉しそうな顔をして
「俺も、それにしよう。」
店員さんに3人分のパフェセットを頼んで、私達のお茶の時間が始まった。
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