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2巻
2-1
1
現代社会で社畜生活を送っていた私、七瀬千那は、ある日の仕事帰りにトラックに轢かれ、気づけば異世界に転生していた。
何故か幼女の姿となり、見知らぬ川辺へ放り出された私は、運良く三人の冒険者と出会う。ワイルド系のカイルさん、麗しのアルトさん、癒し系のライくん。
優しくも厳しい最強冒険者の三人に保護された私は、三人の拠点でもあるルテール町にて、晴れて冒険者デビューを果たしたのだ。
自分の居場所を見つけられたはいいものの、私の存在はとんでもチートものだった。
森の奥深くで出会った土の精霊王様に尋ねれば、私の転生には、この世界の神「アルテナ様」と、六人の精霊王様が関わっていることが判明する。
どうやら私のことが大好きらしい全ての精霊王様に会いに行くため、私はこれから世界を巡る旅をすることを決意した。
仲間となった土の神獣、九尾の狐のミカンを引き連れ、最初に向かったのは王都。
情報収集の末、王都近くの火山で火の精霊王様との出会いを果たすことに成功した。
その後、王城に呼ばれ一悶着あった私たちだが、無事にルテール町へと帰還し、疲れきった心と体を休めるため、ゆっくり過ごすことに決めたのだった。
◇◇◇
転移魔道具を使ってルテール町に帰ってきた夜。
私は、自室のベッドでぐっすりと眠っていた。
――ふわふわ、さわさわ、ぷにぷに。
ひっきりなしに、私の肌が刺激されているのを感じる。
優しく頬をなでるそれが少しくすぐったい。
深いところに沈んでいた意識が、ほんの少しだけ浮上した。
「……ナ。……チナ」
温かくて大好きな声に呼ばれているような気がした。
それでも私は、今の心地よさを手放したくなくて、その声を無視する。
――ふわふわ、さわさわ、ぷにぷに。
頬をムニッと押してくるのは、柔らかくてぷにぷにした何か。
ペタペタと顔中をつつかれ、少し鬱陶しい。
無意識にそれを手で払い、寝返りを打って無視を決め込む。
少しして、再び意識が深いところまで沈み始めた時、ぽすんと枕が沈んで意識を引き戻された。
「チナ。……起きてください、チナ」
諦める気のなさそうなその声に、私はようやくまぶたを開いた。
目を開いて初めに飛び込んできたのは、薄暗い世界に浮かぶ二つの光。
よく見ればそれはオレンジ色の瞳だと分かり、私は驚いて体をのけぞらせる。
「うわぁっ! びっくりした……」
そこには、ギリギリまで顔を近づけたミカンの姿があった。
「ミカン?」
いつもと何か違うミカンの様子に、私はじんわりと不安を感じる。
私の目が覚めたことを確認したミカンは、顔を引いてじっと窓の外を見つめた。
「チナ。何か来ますわ」
ミカンのその、真剣味を帯びた小さな呟きに、私はベッドから降りて窓に近づく。
しかし、そこから見えるのはいつもと変わらない裏庭で、その少し奥には静寂に包まれた森が見えるだけだ。
薄暗闇に浮かぶ静かな森。
深夜とも早朝とも言える時間帯にこの森を見ることはめったにないが、改めてよくよく見てみると、その静けさが不気味に感じる。
様子のおかしいミカンの姿も相まってなんだか怖くなってきた私は、ミカンを抱き上げてカイルさんの部屋の扉を叩いた。
「……どうした?」
少しして出てきてくれたカイルさんは、寝起きだとは分からないほどにいつもと変わらない様子で安心する。
「ミカンが、『なにかくる』って……」
私自身も訳の分からないままに、カイルさんにすがりついた。
黙って私を抱きとめたカイルさんは、私の腕からするりと抜け出したミカンに説明を求めたが、ミカンは説明する気はない様子だ。
とにかく外を気にしているミカンを横目に、カイルさんは私を抱き上げてアルトさんを起こしに向かった。
部屋の扉をノックしても出てこないアルトさんに、カイルさんはなんのためらいもなく扉を開いてズカズカと部屋に入っていく。
鍵は閉めていなかったらしい。
「アルト。起きろ」
軽く肩を叩いて呼びかければ、すぐに返事が返ってきた。
「んー。何、まだ暗いよ……」
まだ眠たそうなアルトさんの声。
目をこすりながら起き出してくるアルトさんに、カイルさんは軽く説明をする。
怪訝な顔をしながらも、話を聞いている間に完全に目が覚めたらしいアルトさんは、すぐに準備を整えて腰に剣を差した。
そのままライくんのところにも向かう。
カイルさんはライくんの部屋の扉をノックすることなく乱暴に開く。
「ライ、起きろ」
容赦なく布団を剥いで、できるだけ顔を近づけて叫ぶ。
端から見れば少しかわいそうに思うが、しょうがない。
ライくんはこのくらいしないと本当に起きないのだ。
現に今も、スピスピと鼻息を鳴らしながらライくんは未だに夢の中だ。
最近は夜でも暖かくなってきているからか、布団を剥いでも全く気づかない。
耳元で手を打ち鳴らしてみたり、体を大きく揺すってみたりしても効果はない。
やっぱり起きないかと困っていたところに、私たちの隣を何か大きなものが通り過ぎていった。
びっくりして一瞬固まったが、その正体はすぐに分かる。
「仕方がありませんわね」
呆れたように呟いたその大きなものは、元の姿に戻ったミカンだった。
久しぶりに見るその神々しい姿に、私は目が釘付けになる。
九本の尻尾をフサッと揺らしたミカンは、うつ伏せになっているライくんの首根っこを咥えて、ズルッとベッドから引きずり下ろした。
「えぇ……」
そう呟いたのは誰だったか。
誰もがその光景にあっけに取られているうちに、ミカンはライくんをズルズルと引っ張って出ていってしまった。
雲一つない夜空には、爛々と輝く星が一面に広がっている。
ミカンを追って外に出た私たちは、庭の真ん中で呆然と佇んでいた。
大きな姿のままのミカンの隣には、半分目が覚めてフラフラしながらも自分の足で立っているライくん。
真っ白だった寝間着のシャツは、茶色く薄汚れている。
シンと静まり返ったこの周囲に、他の生き物の気配は感じられない。
索敵にもなんの反応もない。
……いったい、何が来るというのだろう?
ミカンはじっと空を見つめていた。
四人と一匹でじっとその場に佇んでいると、しばらくして夜が明けてきた。
ゆっくりと昇り始める太陽。
消えていく星。
依然として変わらない、静まり返る周囲に眠気を誘われる。
「……なんだ、あの星」
ふわぁっとあくびをしたところで聞こえてきたのは、呆然としたカイルさんの声だった。
「近づいてきてる……?」
続いたアルトさんの声に、私は二人の視線を追う。
そこには、薄く見えなくなっていく他の星たちとは対照的に、徐々に大きく、強く輝く一つの星があった。
あまりの異質さに、私はたじろぐ。
一歩後ずさりしたところで、背中がモフッとしたものに包まれた。
後ろを振り向けば、私はミカンの尻尾に包まれており、ミカンの視線はその異質な星へまっすぐに注がれている。
ミカンが言っていたのは、あの星のこと……?
じっとその星を見てみると、それはやはり、こちらに近づいてきていると感じられた。
距離が近づくほどに、その姿もはっきりしてくる。
それからさほど時間もかからないうちに、それは目の前までやってきた。
ブワッと風を巻き起こしながら目の前に降り立ったそれは、轟々と燃え盛る真っ赤な炎をまとった、見上げるほどに大きな鳥の姿だった。
太く、鋭い大きなくちばし。
頭上できらめく、とさかのような炎。
優雅で美しい、長く伸びた尾羽。
体に沿うように折りたたまれた翼は、轟々と立ち昇る炎に包まれ、パチパチと跳ねる火の粉がその大きな鳥の姿をより一層輝かせていた。
ぐるっと私たちを見回したその鳥は、バサッと翼を大きく広げる。
「……俺様が、来たぞーーー!!」
天に向かって吠えるようにそう叫んだ鳥に、私たちはあっけに取られて、ただただその姿を呆然と見つめていた。
――なんか、思ってたのとチガウ。
この時、私たちが感じたことは、そう変わらなかったに違いない。
威厳たっぷりな堂々とした姿に見惚れていた私たちは、その、どこか子供じみた言動にどう反応していいのやら、困惑を隠せずにいた。
「はぁ。暑苦しいですわ」
静寂を切り裂いたのは、呆れたようなミカンの声。
頭上を見上げると、いかにも面倒くさそうにその火の鳥を見やり、不機嫌そうに九本の尻尾をユラユラと揺らすミカンがいた。
あまり好意的とは思えない視線を向けられている火の鳥は、それでも嬉しそうにその声に反応する。
「お! お前が今代の土のやつか! 俺様は火の神獣のフェニックス様だ! よろしく頼む!」
やはり、この鳥は火の神獣、フェニックスだったか。
炎をまとった鳥なんてフェニックス以外にはいないだろうと思ってはいたが、直接聞かされるとやはり驚きが隠せない。
疲れきって、逃げるように王都から帰ってきたため、うっかり神獣のことを忘れていたのだ。
どうせなら、彼が生まれて火山が噴火する瞬間を見たかったけど……。残念だ。
挨拶を受けたミカンはフンッと鼻を鳴らし、今までとは打って変わって得意げな様子で答える。
「知ってますわよ。毎度、律儀なことですわね。……私は三十二代目、土の神獣。ミカンという、チナにつけてもらった唯一の名で呼んでくださいませ」
鼻先をツンと上げ、上から目線で火の鳥を見つめるミカンは、高飛車なお嬢様のような雰囲気をまとっていた。
「知っている」とか「毎度」というのはおそらく、先代たちの記憶のことだろう。
火の神獣は、フェニックス――別名、不死鳥――の名の通り、代替わりというものが存在せず、一つの魂が何度も生まれ変わって誕生する。
彼は、生まれ変わる度に他の神獣たちに挨拶回りのようなものをしているのだろうか?
それは確かに、律儀である。
最初の子供じみた行動からは想像もつかない。
「チナ、って言うと……」
突然名を呼ばれ、私は驚きと緊張で体を強張らせる。
ミカンの尻尾に包まれているため、ある程度の平静は保っていられるが、何を言われるのか正直ドキドキしている。
ミカンから少し視線を下げたそこにいた私を見て、彼は驚いたように目を見開いた。
「姫様、ちっせぇ!!」
第一声がそれとは、少し失礼ではないだろうか?
私は一気に脱力した。
そして、姫様とはなんだろうか……?
私が姫と呼ばれる要因といえば、精霊姫であることくらいだが、それで姫様?
少々失礼な叫びを残したまま固まってしまった神獣に、私は一つ深呼吸をして、口を開いた。
「あの、チナです。はじめまして……」
そう言った途端、大きなくちばしがヌッと目の前に近づいてきた。
後ろにはミカンがいるため、下がることができない。
私は驚きと恐怖で身を固まらせる。
……が、その次に襲ってきたのは痛みではなく、何かすべっとしたものだった。
「ふぇ?」
頬を軽くなでるそのすべすべに、私は無意識に両手を上げていた。
目の前に迫り、今私の頬をなでたその大きなすべすべを両手で鷲掴みし、ひたすらになでる。
すべすべツルツルのそれに私は魅了され、無心になで続けた。
「お、おぅ……?」
完全に困惑した様子の神獣にも気づかず、私はただひたすらに両手の中のそれを観察する。
心を奪われていた私は、背中から離れるミカンにすら気づいていなかった。
突然後ろに引っ張られた感覚がしたかと思えば、私は再びミカンのふわふわ尻尾の中に閉じ込められる。
見上げればそこには、呆れた顔をしたミカンと、放心状態の火の神獣がいた。
「あれぇ?」
私はまた、やらかしてしまったらしい。
このミカンの顔には見覚えがある。
そう、我を忘れてミカンをモフり続けた時の顔だ。
若干迷惑そうな、それ以上に呆れ返った様子のミカンの表情。
この顔をさせてしまった後は、しばらくミカンモフり禁止令が出てしまう、私にとっては絶望的なものだった。
それを私は、この火の神獣にもやらかしてしまったらしい。
「チナは本当に、手触りのいいものが好きですわね……」
しょうがない子を見るような視線を私に向けた後、ミカンの視線は火の神獣に向かい、同情的なまなざしを送った。
困惑から立ち直った様子の彼は、首を傾げて私に問いかける。
「なんだ? 姫様はこの俺様のくちばしが気に入ったのか?」
純粋な疑問を投げかけるようなその声に、私は少し視線を外しながら軽く頷く。
実はその炎をまとった羽毛にも興味があります、とはさすがに言えない。
いつもはミカンのもふもふに夢中であるというのに、なんだか浮気をしている気分である。
「そうか。姫様だったら、いつでも触らせてやってもいいぞ」
嫌がる様子のない彼の姿に、私はホッと胸をなでおろした。
しかし、私を包むミカンの九本の尻尾が、ユラユラと不快そうに揺れ始める。
火の神獣に同情的だったまなざしも、いつの間にか、横目で軽く睨みつけるようなものに変わっていた。
構われすぎるのは嫌だが、だからといって私がミカン以外の誰かに夢中になるのも思うところがあるらしい。
そういえば、私がスライムに夢中になっていた時も、なんだかジェラシー的なものを感じたもんな……。
複雑な乙女心というやつだろうか。なんて可愛いんだ……!!
「ミカンが一番だよっ!」という思いを込めて、ふわっふわの尻尾をこっそりとなで回す。
ミカンのなんとも言えない視線と尻尾のユラユラが少し落ち着いたところで、火の神獣が口を開いた。
「それで、お前たちが姫様の保護者ってやつか」
火の神獣は、今まで空気のように存在感を消していたカイルさんたちに目を向けていた。
唐突に自分たちが話題に上がり、神獣の視線がまっすぐ彼らを射抜いていることに、三人は硬直する。
初めてミカンに会った時ほどの戸惑いや緊張はなさそうだが、空気に徹していたところに突然声をかけられて驚いているらしい。
三対一の睨み合いは、ほんの数秒の出来事だった。
値踏みするように三人をじっとりと睨みつけていた神獣は、ふっと息をついてその場に漂っていた緊張感を霧散させる。
「なかなか見どころがありそうなやつらだ。王たちが認めたのも納得だな」
その一言が呼び水となって、三人は火の神獣に跪く。ミカンや精霊王たちに初めて会った時のように。
突然の神獣の登場や、その神獣の諸々の発言に、現実味がなかったのだろう。
自分たちが神獣に認識されたことで、ようやくそこに敬うべき存在がいることを実感したようだった。
「うむうむ。敬われるのも悪くない。だが、もういいぞ。堅苦しいのは好きじゃないからな」
ほんの少しの間、優越感に浸っていた神獣だが、次の瞬間にはあっけらかんとしてそう言った。
火の神獣には、親しみやすさを感じる。
ミカンは常に敬語というのもあってか、高貴な存在のように感じることがあるのだが、火の神獣はそれとは真逆の、なんというか、近所のガキ大将のような、親戚のお兄ちゃんのような、そんな親しみやすさを感じるのだ。
口調も態度も、私たちに近いように感じられる。堅苦しいのが好きじゃないというのは、本当のことなのだろう。
現に今も、私たちのことなんて何も気にせず、くちばしで背中の羽をつついていた。
私たちに気を遣わせないようにするためというよりも、素で周りなんて気にせず自由に振る舞っているような様子だ。
ちなみに彼の背中の羽は炎に包まれているので、端から見れば、炎の中に自ら顔を突っ込む奇妙な鳥にしか見えない。
そんな様子に、カイルさんたちも緊張感を削がれたのか、三人とも立ち上がっていつもと変わらない様子に戻っていた。
「ところで……そこの二人が王の加護を得ているのは分かるんだが、茶髪のお前とミカンの間にある妙な繋がりはなんだ?」
そこの二人というのは、カイルさんとライくん。
カイルさんは火の精霊王、ライくんは土の精霊王の加護を得ている。
神獣には、それがひと目で分かるらしい。……何が見えているのだろう?
そして、ライくんとミカンの間にある妙な繋がりというのは……?
「それは、私とライが従魔契約をしているからですわね」
なんでもない、世間話のように言ったミカンの言葉に、火の神獣は目を見開いて固まった。
「じゅ、従魔契約……だとっ!?」
ここまで分かりやすい驚愕の表情を浮かべる鳥を見たことはあっただろうか。
鳥って表情筋あったのか……と錯覚してしまいそうになるほど、その顔は驚きに満ちていた。
そんな神獣とは反対に「そうだよね、そうなるよね」と私は密かに安堵していた。
ミカンが従魔になると言い出した当時は、人間が主となることに忌避感はないと、なんでもないことのように言ったミカンのかっこよさや、私と契約できないと聞いて落ち込む可愛い姿に気を取られていたが、後から考えれば「神獣が簡単に従魔契約なんてして良かったのか!?」と密かに戸惑っていたのだ。
神獣としてのプライドはないのか! と叫びたくなったほどに。
神獣が、人間を主として本当にいいのだろうか、という疑問は持ち続けていた。
神獣の主は、本来、精霊王なのだ。
人間とは、比べ物にならないほどの存在なのだ。精霊王も、神獣自身も。
それが、人間の下につくなど……。
だからこそ、やはり、神獣が従魔契約など、普通は考えられないことなのだろう、と火の神獣の反応に安堵した。
良かった、私の考えていたことは間違っていなかった、と。
しかし、その考えは再び覆されることとなる。
彼の驚愕の表情は、私が思っていたものとはどうやら違ったらしいのだ。
「そんな面白そうなこと、俺様もやるに決まっている!!」
――なにをいっているんだろうこのしんじゅうさまは。
神獣が従魔契約を結ぶなんてありえない、という理由で驚いていたのかと思ったのに。
面白そうだと思っていただけだなんて……。
正直、理解不能である。
火の神獣のこの発言を聞いてからだと、ミカンの考えがかなりまともに感じる。
私についてくるために従魔になった。
実際それは必要なことだったし、ミカンからしたら何もためらうことはなかったのだろう。
プライドがどうとか考えていた私がバカらしくなってきた。
火の神獣はウキウキとした様子でミカンの話を聞いていた。
私の従魔にはなれない理由や、ミカンがライくんを選んだ理由についてだ。
それを聞けば、この神獣の主人となるのが誰か、考えなくても分かる。
その本人も自覚しているようで、若干顔が引きつっていたが、私は見ないふりをした。
ごめん! 私にはどうすることもできない……!!
したり顔の神獣が、いそいそとカイルさんの前に行く。
そして、胸を反らし、両方の翼を広げてこう言った。
「王の加護を得たお前は、俺様の主人にふさわしい。光栄に思うが良いぞ」
フンッと鼻を鳴らして得意げな様子だ。
契約上、従う側になるはずの存在がここまで尊大な態度を取るなんて前代未聞だ……。
思わず遠い目になってしまったのは、私だけではなかった。
大きく息をついたカイルさんは、覚悟を決めた目で手を差し出す。
「……分かった。よろしく頼む」
カイルさんが差し出した手に、翼を折りたたんだ神獣がちょこんとくちばしを乗せた。
握手をしているようなその様子に、思わずほっこりしてしまった。
「じゃあ姫様、俺様に名前をつけてくれ! かっこいいやつで頼むぞ!」
期待で目を爛々と輝かせた神獣がこちらをまっすぐに見つめる。
――そうか、そういえばあったな、そんなこと。
一番の難関、名づけイベントの再来だ。
私は内心、頭を抱える。
ほっこりしてる場合じゃなかったよ!
どうするんだよ! 考えてなかったよ!
ほんと、ネーミングセンスだけは努力でどうにかなるものじゃないと思う。
どうして私にこんな難題を課すのか。
いや、理由は分かってるんだけど。
神獣の主である精霊王が姫と定めた存在だもんね、私。
そりゃ、特別視するよね。
だからって名づけ親にするのは勘弁してほしいけどね!
まあ、言われてしまったものは仕方がない。
ない語彙力を必死に絞り出して、火の神獣らしく、そしてかっこいい名を考えなければ……。
火の鳥、フェニックス……。
燃え上がる炎、真っ赤な炎、情熱的……。
シンプルに「ホムラ」とかどうだろうか。
真っ赤に燃え上がる炎をまとった、火の鳥にピッタリだと思う。……多分。
ドキドキと緊張で高鳴る心臓を抑えて、口を開いた。
「ホムラ……って、どうかな?」
ミカンの時は、思わず口に出してしまった言葉がそのまま採用されたから、こんな緊張感はなかった。
気に入ってもらえるか不安で、少し怖い。
「ホムラ、ホムラ」と口の中で何度か呟いた火の神獣が顔を上げ、まっすぐにこちらを見つめる。
「良い名だ。ありがとう、姫様!」
火の神獣は、満面の笑みを浮かべていた。……鳥だけど。
なんでこんな分かりやすい表情を浮かべられるのだろう? 本当に不思議だ。
何はともあれ、ホムラという名は気に入ってもらえたようだ。良かった。
ホムラはカイルさんと向かい合って宣言する。
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