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日常編
118 アルトさんと過ごす秋
カイルさんに誘われて訪れた東国から無事に帰ってきた私たち。たくさん買ってきたお土産を広げながら、思い出話に花を咲かせ、旅の余韻に浸る日々を過ごし、しばらくが経った。
季節はすっかり秋へと移り変わり、青々と茂っていた木々の葉も、茶色く色づきはじめる。鋭い日差しは柔らかくなり、熱気を伴っていた風は涼やかな秋の香りを運んできた。
もうプール遊びはできなくだろうことに寂しさを感じながらも、秋らしい遊びはどんなものがあるだろうかと胸を踊らせた。
秋といえば、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋、などと様々な言葉が浮かんでくる。今の過ごしやすい気候は、何をするにしても快適に楽しむことができるだろう。
落ち葉の焚き火で焼き芋をするのはどうだろうか?山へ紅葉狩りに行くのもいいかもしれない。たまには外で読書というのも、良さそうだ。
次々と浮かぶ秋の楽しみ方に、まずは何から始めてみようかと思いを巡らせる。
そんな時、外から私を呼ぶ声が聞こえた。
「チナちゃーん!庭に出ておいでー!」
室内のソファでくつろいでいた私は、なんだろうと立ち上がりウッドデッキから外に出る。
庭の中心には、身軽な格好をしたアルトさんが佇んでいた。私に気づいたアルトさんの手招きに従って、そちらへと向かう。
「アルトさん、どうかした?」
「そろそろ、鍛錬を再開しようと思ってね」
そういえば、東国から帰ってきてから今日まで、ちゃんと運動していなかったなと思い返す。
旅の疲れを取るという名目で、随分ぐぅたらと過ごしてしまった。きっと体は鈍ってしまっているだろう。
私はアルトさんの言葉に頷いて、一度服を着替えるために部屋へと戻った。
運動に適した服に着替えて戻ってきた私は、アルトさんの下へと駆け寄る。
アルトさんとの鍛錬は久しぶりだ。指導中はなぜかスパルタモードになってしまうアルトさんに、正直恐怖心を抱くが……久しぶりの鍛錬ということで、多少は甘くしてくれるだろう。きっと……。私はそう信じている……。
久しぶりといえど、いつものルーティーンは変わらない。まずは準備運動からだ。
しっかりと体を伸ばし、怪我をしないように備える。今日はいつもより念入りに。アルトさんの動きを真似しながら、充分に体をほぐす。
ちなみに、準備運動には私の教えたラジオ体操もどきも含まれている。一部、曖昧だった部分は私のオリジナル体操を当てはめ【ラジオ体操・改】として、みんなに布教したのだ。
これは、現役冒険者であるアルトさんたちも「こんなに効率的な全身運動は無い!」と絶賛してくれた自信作である。
入念に準備運動を終えた私たちは、早速鍛錬を始めることにした。
「よし、じゃあまずは基礎トレーニングからはじめようか」
「はい……!」
私は、意気揚々と返事をしたはいいものの、その内容を聞いて絶望に打ちひしがれた。久しぶりの鍛錬だからと、甘くしてくれるような人はここにはいなかったようだ……。
アルトさんの提示した基礎トレーニングの内容はこうだ。
ルテール町の外周を10周、腕立て50回、腹筋50回、スクワット50回、庭をうさぎ跳びで10周。なんとこれを10セット行うという。
はっきり言って、バカだと思う。いつの間にか、アルトさんはバカになってしまっていたようだ。こんな、控えめに言っても地獄なメニューを、あんなに爽やかな笑顔で宣うなんて……。
アルトさんはいったい、私をどうしたいのだろう。私が筋肉ダルマになってもいいというのか!
「できない……なんて、言わないよね?」
綺麗すぎる笑顔の圧が恐ろしい……。
もちろん私はアルトさんに逆らうなんてできるはずもない。特に、このスパルタモードのアルトさんには……。
とにかく、やるしかない。今のアルトさんは、限界を超えるくらいまでやらないと満足してくれないことは、これまでの経験から理解している。
もう、なるようになれ!という気持ちで、私は先導するアルトさんについて走り出した。
ルテール町は、中に魔物や犯罪者が侵入しないようにぐるりと壁に囲まれている。そのため、まずは門から出なければいけない。
町中でスピードを出しすぎては住民の迷惑になるため、今はまだ軽い駆け足だ。アルトさんにいたっては、ほぼ歩いているようなものである。
「あらチナちゃん、お兄さんとお出かけ?気をつけるのよ」
「今日はアルトの坊主と一緒か。帰りに寄ってってくれよ!」
「アルト兄ちゃん!今度、オレにも稽古つけてくれよ!」
町中では、この一年半で仲良くなった主婦のおばさんや、肉屋のおじさん、アルトさんを慕う駆け出し冒険者の少年が声を掛けてくれる。
駆け足程度では息切れすることも無いくらいには鍛えている私は、笑顔でみんなの声に応えながら、門へと向かった。
無事に門を出れば、ここからが本番だ。
これから、この壁に沿って町の外周を10周……。考えるだけで気が滅入る。
なるべく思考を無にして、ひたすら走ろうと心に決めた。
私にとっては全速力の一歩手前、アルトさんにとっては軽い駆け足のスピードで壁のまわりをぐーるぐる。どこまで行っても変わらない景色に、だんだん嫌気が差してくる。
門の前を通るたびに声をかけてくれる門番さんたちの優しさが、心に染みた……。
走り始めてからどれくらいの時間が経っただろう。せっかく涼しくなってきたというのに、今の私は真夏のように汗だくだ。
今ほど水魔法を使えてよかったと思えた日はない。飲水にもなるし、水球に顔をつっこめば一気にさっぱりする。……さすがにこれは、アルトさんにドン引きの眼差しを送られたので自重することにした。
そんなこんなで、なんとか10周走り終えた私は、疲労困憊の体を引きずって家まで無事に帰り着いたのだった。
ちなみにアルトさんは、疲れなんて一切見せずに今も爽やかな姿のままである……。
季節はすっかり秋へと移り変わり、青々と茂っていた木々の葉も、茶色く色づきはじめる。鋭い日差しは柔らかくなり、熱気を伴っていた風は涼やかな秋の香りを運んできた。
もうプール遊びはできなくだろうことに寂しさを感じながらも、秋らしい遊びはどんなものがあるだろうかと胸を踊らせた。
秋といえば、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋、などと様々な言葉が浮かんでくる。今の過ごしやすい気候は、何をするにしても快適に楽しむことができるだろう。
落ち葉の焚き火で焼き芋をするのはどうだろうか?山へ紅葉狩りに行くのもいいかもしれない。たまには外で読書というのも、良さそうだ。
次々と浮かぶ秋の楽しみ方に、まずは何から始めてみようかと思いを巡らせる。
そんな時、外から私を呼ぶ声が聞こえた。
「チナちゃーん!庭に出ておいでー!」
室内のソファでくつろいでいた私は、なんだろうと立ち上がりウッドデッキから外に出る。
庭の中心には、身軽な格好をしたアルトさんが佇んでいた。私に気づいたアルトさんの手招きに従って、そちらへと向かう。
「アルトさん、どうかした?」
「そろそろ、鍛錬を再開しようと思ってね」
そういえば、東国から帰ってきてから今日まで、ちゃんと運動していなかったなと思い返す。
旅の疲れを取るという名目で、随分ぐぅたらと過ごしてしまった。きっと体は鈍ってしまっているだろう。
私はアルトさんの言葉に頷いて、一度服を着替えるために部屋へと戻った。
運動に適した服に着替えて戻ってきた私は、アルトさんの下へと駆け寄る。
アルトさんとの鍛錬は久しぶりだ。指導中はなぜかスパルタモードになってしまうアルトさんに、正直恐怖心を抱くが……久しぶりの鍛錬ということで、多少は甘くしてくれるだろう。きっと……。私はそう信じている……。
久しぶりといえど、いつものルーティーンは変わらない。まずは準備運動からだ。
しっかりと体を伸ばし、怪我をしないように備える。今日はいつもより念入りに。アルトさんの動きを真似しながら、充分に体をほぐす。
ちなみに、準備運動には私の教えたラジオ体操もどきも含まれている。一部、曖昧だった部分は私のオリジナル体操を当てはめ【ラジオ体操・改】として、みんなに布教したのだ。
これは、現役冒険者であるアルトさんたちも「こんなに効率的な全身運動は無い!」と絶賛してくれた自信作である。
入念に準備運動を終えた私たちは、早速鍛錬を始めることにした。
「よし、じゃあまずは基礎トレーニングからはじめようか」
「はい……!」
私は、意気揚々と返事をしたはいいものの、その内容を聞いて絶望に打ちひしがれた。久しぶりの鍛錬だからと、甘くしてくれるような人はここにはいなかったようだ……。
アルトさんの提示した基礎トレーニングの内容はこうだ。
ルテール町の外周を10周、腕立て50回、腹筋50回、スクワット50回、庭をうさぎ跳びで10周。なんとこれを10セット行うという。
はっきり言って、バカだと思う。いつの間にか、アルトさんはバカになってしまっていたようだ。こんな、控えめに言っても地獄なメニューを、あんなに爽やかな笑顔で宣うなんて……。
アルトさんはいったい、私をどうしたいのだろう。私が筋肉ダルマになってもいいというのか!
「できない……なんて、言わないよね?」
綺麗すぎる笑顔の圧が恐ろしい……。
もちろん私はアルトさんに逆らうなんてできるはずもない。特に、このスパルタモードのアルトさんには……。
とにかく、やるしかない。今のアルトさんは、限界を超えるくらいまでやらないと満足してくれないことは、これまでの経験から理解している。
もう、なるようになれ!という気持ちで、私は先導するアルトさんについて走り出した。
ルテール町は、中に魔物や犯罪者が侵入しないようにぐるりと壁に囲まれている。そのため、まずは門から出なければいけない。
町中でスピードを出しすぎては住民の迷惑になるため、今はまだ軽い駆け足だ。アルトさんにいたっては、ほぼ歩いているようなものである。
「あらチナちゃん、お兄さんとお出かけ?気をつけるのよ」
「今日はアルトの坊主と一緒か。帰りに寄ってってくれよ!」
「アルト兄ちゃん!今度、オレにも稽古つけてくれよ!」
町中では、この一年半で仲良くなった主婦のおばさんや、肉屋のおじさん、アルトさんを慕う駆け出し冒険者の少年が声を掛けてくれる。
駆け足程度では息切れすることも無いくらいには鍛えている私は、笑顔でみんなの声に応えながら、門へと向かった。
無事に門を出れば、ここからが本番だ。
これから、この壁に沿って町の外周を10周……。考えるだけで気が滅入る。
なるべく思考を無にして、ひたすら走ろうと心に決めた。
私にとっては全速力の一歩手前、アルトさんにとっては軽い駆け足のスピードで壁のまわりをぐーるぐる。どこまで行っても変わらない景色に、だんだん嫌気が差してくる。
門の前を通るたびに声をかけてくれる門番さんたちの優しさが、心に染みた……。
走り始めてからどれくらいの時間が経っただろう。せっかく涼しくなってきたというのに、今の私は真夏のように汗だくだ。
今ほど水魔法を使えてよかったと思えた日はない。飲水にもなるし、水球に顔をつっこめば一気にさっぱりする。……さすがにこれは、アルトさんにドン引きの眼差しを送られたので自重することにした。
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