神様自学

天ノ谷 霙

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10月19日 質問の意味

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菜古ちゃんの、亜美への愛は止まらなかった。悔しさ、自分の性別への恨み、苦しみ、辛さ、痛み、その中でも同性同士だからこその幸せ、嬉しかったことがあったという。それらが混ざり合って、溶けて、菜古ちゃんを複雑な感情にしたまま、諦めて飲み込ませてくれない。
私は立ち上がって、一番近くにある窓を開けた。そこから風とともに入り込んでくる白と黄色の小さな花に触れる。その花は一瞬にして花びらとなり、空中を舞い踊る。顔を上げた菜古ちゃんは、季節外れにも程があるその花を見て、驚いて目を見開いた。
「リナリア。花言葉は、この恋に気付いて」

気付いて欲しい。苦しい。でも、気付かないで欲しい。私は、まだ、亜美先輩と仲良くしていたい。

心の声が、鮮明に聞こえた。
菜古ちゃんは自分の手元に落ちた花を手で包み込むようにして持つ。小さい花の連なった可愛らしい花。小柄で可愛い菜古ちゃんにぴったりだった。菜古ちゃんは花を見つめ、ふっと微笑む。その様子は絵画を見ているように美しくて、綺麗だった。
「…私、亜美先輩に想いを伝えることはしないけど…もう少しだけ、諦めがつくまで…側にいたい」
「…うん、そうね」
私はそっとしゃがんだままの菜古ちゃんの頭をぽんぽんする。菜古ちゃんは驚いた様子で顔を上げ、またふわっと微笑んだ。私もつられて微笑み、菜古ちゃんを引っ張って立ち上がらせる。菜古ちゃんが持っていた花は、いつの間にか花びらとなって舞いながら窓の外へ飛んで行ってしまった。
「…菜古、ここにいたの?」
声が聞こえて、私と菜古ちゃんは一斉にそちらを向く。そこには、先程クラスに来た時に一緒にいた、眼帯をした女の子がいた。
降琉ふる!ごめんね…っえ?」
降琉と呼ばれたその子は、菜古ちゃんの頭にスポーツ飲料水をコツン、とついた。菜古ちゃんは驚いたように目を瞑った。
「目、赤いよ。どうせ泣いてたんでしょ。冷やすついでに水分補給しなよ。あげるから」
「!…ありがとう」
菜古ちゃんは嬉しそうにペットボトルを受け取った。それを見た降琉ちゃんは、私の方にまっすぐ体を向けた。さっきの教室のドアの前で菜古ちゃんの後ろに隠れた時とは違う、堂々とした態度だった。
「菜古の友達の月宮つきみや 降琉です。菜古を慰めて頂いてありがとうございました」
「あ、いえいえ…いきなり連れ出して、置いて行っちゃってごめんね」
丁寧にお辞儀をされ、戸惑う。するとそれを感じ取ったのか、にこっと笑って言葉を繋いだ。
「…梶栗先輩は、彼女さんと仲良さそうですか?」
「えっ」
突然の質問に驚く。竜夜くんと紗奈の様子を思い出し、私は笑顔で答えた。
「うん、すごく仲良いよ」
「…そうですか、ありがとうございます。…そろそろ教室に戻りますね」
お辞儀されたので、私もお辞儀を返す。姿が見えなくなって不思議に思う。
降琉ちゃんは、どうして竜夜くんと紗奈の仲を聞いてきたのだろうか、と。
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