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12月30日 知るはずのないこと
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紺様は驚いた顔をして、私を嗜めようと試みた。だがもう既に覚悟を決めた私を見て、諦めたように小さく息を吐いた。
「…扇は儀式用の離れに移動している。あの離れは関係者以外立ち入り禁止で、もしかしたら1月1日まで出て来られないかもしれない」
「はい。…きっと、花火はそれを見越して私を着飾ったんだと思います」
「花火が?」
「私に、扇様の側にいてほしいと頼んだのは花火です。表向きは儀式の装飾のため、扇様の相手をして欲しいとのことでした。でもきっと、花火は紺様と同様に悪しき伝統について考えていたのでしょう。そのために、私を呼んだ」
「…なるほど。だが君を呼ぶ利点は?その様子だと、藁にもすがる思いで君を呼んだ、というわけはないのだろう」
私は頷き、そっと目を閉じた。先程よりも鮮明に、炎の揺らめきがまぶたの裏に映る。泣き叫ぶ少女。燃え盛る畳に四肢を投げ出す女性。黒と赤の映し出す景色は、集中すればするほど鮮明に記憶が蘇る。
これは私の記録?それとも──。
ゆっくりと目を開けると、空気が揺らいだ。微かに張る緊張の糸が、波長のように私の奥に伝わっていく。紺様の、扇様を想う気持ちと私への心配。そして、伝統を打ち切れるかもしれない私への期待と不安。
「澪愛の女系が火を苦手とする理由は、先祖が火事で亡くなったからだと仰っていましたね」
「あぁ、そうだよ」
「炎の中、焼き朽ち果てる城。その前で泣き叫ぶ少女がいました」
「…?」
「彼女の名は舞茶」
「…!」
紺様が静かに目を見開いたのを見て、私は確信する。あの映像は過去にあった出来事なのだと、再認識する。私は目を伏せて、小さく微笑んだ。
「…紺様がこのことを知っているかどうかは賭けでしたが、どうやらご存知の様子ですね」
「昔、出会ったばかりの扇が呼んでいた名だ。"私には舞茶しかいないの"とうわ言のように呟いて、その後何度も懺悔していた。私も他の者も誰のことを呼んでいるのか分からなくて、皆首を傾げていた」
懐かしそうに目を細めながら、紺様は呟く。
「だがある時、父に連れられて澪愛の歴史を学んだ。古代の書物を読ませて貰った。その中に、本来残るはずのないその名前があったんだ。火事で亡くなったとされる女性の、後妻として」
「…彼女は付き人だったのでは?」
「本来はそうだ。身分も高くなかったようだが、火災で亡くなった女性はこの国でも類稀な能力を持ち必要とされる方だったらしい。彼女を失ったことを臣下に悟られぬよう、彼女の最も近くにいた女性を娶ることで事なきを得たのだとか」
「なるほど」
「そしてこの書物は、決して君が知る内容ではないだろう。扇に見せてもらうことも不可能なはず。私だって1度、この国の歴史を知るために見たきりだ。それを何故、君が知っている?」
「…記録は時に、永い年月を越えるからです」
私は1歩、紺様に近付いた。
「…扇は儀式用の離れに移動している。あの離れは関係者以外立ち入り禁止で、もしかしたら1月1日まで出て来られないかもしれない」
「はい。…きっと、花火はそれを見越して私を着飾ったんだと思います」
「花火が?」
「私に、扇様の側にいてほしいと頼んだのは花火です。表向きは儀式の装飾のため、扇様の相手をして欲しいとのことでした。でもきっと、花火は紺様と同様に悪しき伝統について考えていたのでしょう。そのために、私を呼んだ」
「…なるほど。だが君を呼ぶ利点は?その様子だと、藁にもすがる思いで君を呼んだ、というわけはないのだろう」
私は頷き、そっと目を閉じた。先程よりも鮮明に、炎の揺らめきがまぶたの裏に映る。泣き叫ぶ少女。燃え盛る畳に四肢を投げ出す女性。黒と赤の映し出す景色は、集中すればするほど鮮明に記憶が蘇る。
これは私の記録?それとも──。
ゆっくりと目を開けると、空気が揺らいだ。微かに張る緊張の糸が、波長のように私の奥に伝わっていく。紺様の、扇様を想う気持ちと私への心配。そして、伝統を打ち切れるかもしれない私への期待と不安。
「澪愛の女系が火を苦手とする理由は、先祖が火事で亡くなったからだと仰っていましたね」
「あぁ、そうだよ」
「炎の中、焼き朽ち果てる城。その前で泣き叫ぶ少女がいました」
「…?」
「彼女の名は舞茶」
「…!」
紺様が静かに目を見開いたのを見て、私は確信する。あの映像は過去にあった出来事なのだと、再認識する。私は目を伏せて、小さく微笑んだ。
「…紺様がこのことを知っているかどうかは賭けでしたが、どうやらご存知の様子ですね」
「昔、出会ったばかりの扇が呼んでいた名だ。"私には舞茶しかいないの"とうわ言のように呟いて、その後何度も懺悔していた。私も他の者も誰のことを呼んでいるのか分からなくて、皆首を傾げていた」
懐かしそうに目を細めながら、紺様は呟く。
「だがある時、父に連れられて澪愛の歴史を学んだ。古代の書物を読ませて貰った。その中に、本来残るはずのないその名前があったんだ。火事で亡くなったとされる女性の、後妻として」
「…彼女は付き人だったのでは?」
「本来はそうだ。身分も高くなかったようだが、火災で亡くなった女性はこの国でも類稀な能力を持ち必要とされる方だったらしい。彼女を失ったことを臣下に悟られぬよう、彼女の最も近くにいた女性を娶ることで事なきを得たのだとか」
「なるほど」
「そしてこの書物は、決して君が知る内容ではないだろう。扇に見せてもらうことも不可能なはず。私だって1度、この国の歴史を知るために見たきりだ。それを何故、君が知っている?」
「…記録は時に、永い年月を越えるからです」
私は1歩、紺様に近付いた。
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