神様自学

天ノ谷 霙

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伝統を断ち切るために

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私の呼び掛けに応じ、せん様の奥底から目を覚ました奥方様は静かに頷いた。
澪愛みおうの始まり、いや、澪愛の特別性の始まりと言うべきでしょうか。貴方の力は正しく伝わっておりません。熱に弱いこと、その血の流れ方、それだけが特別性を示す証となっています。その示し方は、澪愛の女を苦しめる悪しき伝統を生み出しました。それを断ち切るために貴方をお呼びしました」
私の言葉に、奥方様は一瞬視線を外した後、真剣な目をした。
「伝統とは、何ぞ」
「澪愛の女に国花の葉で傷を付け、流れる血を集めるというものです。毎年、年越し前に行う儀式だそうで」
「国花の…あぁ、傷口が熱を持つアレか。なるほど」
「はい。そのために半日血を流し続けます」
「…! そんなに長く?いや、妾の血が流れていれば可能か」
「えぇ。そのように聞いております」
「確かに、悪用されているようなものだな。妾の時代から一体何人の女が苦しんだのだろうか」
「わかりません。だから、これ以上苦しむ者が増えぬよう止めたいのです」
私がまっすぐに奥方様を見つめると、奥方様は怪訝そうな顔をした。
「一つ聞く。お主は、どうして伝統を知り、止めたいと考える?今の澪愛の女と、何の関係があるのだ?」
奥方様の質問に、記憶が蘇る。先程脳裏に刻まれた、凛とした少女の声。自信を持って答えられる。
「私は扇様の友人です。友人が苦しむ姿は見たくありません」
私の答えに、奥方様は目を見開いた。予想外だったようで、目を伏せた後小さく呟く。
「…今は、国主の娘という立場でも友人を持てるのか」
それは羨ましそうな声音で。唇が寂しそうに噤まれた。
「妾の覚えている限りなら教えられるが、生憎自身の"特別性"がどこからか分からぬ」
「なら、貴方の記憶を辿らせてください」
私は奥方様の側に寄り、額を合わせた。私と奥方様を中心に魔法陣が展開される。赤みがかった金色にオレンジ色や淡い桃色が混ざっている。
『繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶』
言霊が紡がれる。空気に溶け、時空に溶け、空間を歪ませる。座っていてもバランスを崩してしまいそうな程の強風が吹き荒ぶ。風によって私と奥方様、いや扇様の水引が解けた。光る床の紋様。溢れる記憶のピース。その全てが私の瞳に、脳に、奥に記録として刻まれていく。空間のうねりを感じ、そっと目を閉じた。

次に目を覚ました時、目の前には何度も見た光景が広がっていた。正確にはその光景が燃える前。古い町並みが広がる一国の城の姿。扇様、深沙ちゃん、青海川くん、こん様の誰の記憶にも残っていた光景。大火災が起こる前の平和な姿がそこにはあった。
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