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12月31日 共に
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食事を終えると、もう1度立てるか挑戦することになった。すんなり立てた上に普通に歩けたので拍子抜けしてしまった。多少不安感から足元に違和感はあったが、徐々に戻りすぐにいつも通りになった。先ほど立てなかったのは何だったのだろう、と思いながらもキースに案内されて廊下を歩く。実は食事後にキースからお願いされて扇様のもとに向かっているのだ。
「扇様は今朝から支度やら挨拶やらで引っ張り回されていてお疲れ様で御座います。せめてお気が休まるように、入浴の際は夕音様とお話が出来ればと」
そんなことを言われては行くしかない。私が起きる前にメイド達で話し合った結果、私が承諾すればすぐに動けるように元々準備されていたらしい。しかし私が歩けなくなっていたが為に多少心配を掛けてしまった。申し訳ない。
「夕音!また一緒に入れるなんて嬉しいわ!」
言葉の通り、嬉しそうな顔で私に抱き付いてくる扇様。私が寝ている間も明日のために準備を進めていたのだ。度重なる緊張感を私が解せたなら嬉しい。
「私もです扇様」
扇様と共に、昨日と同じように曇りガラス張りの浴室へ向かう。私はもう抵抗を諦め、テキパキと脱衣を手伝ってくれるメイドにされるがままだった。昨日のように甘い香りが包んでいるわけでもなく、普段と同様の入浴スタイルだ。どうやら花を浮かべたり香を焚くのは儀式前だけであって、普段は落ち着いた入浴らしい。しかし明日のためだと浴室まで入ってくるのは昨日と変わらなかった。婚約披露前日であるため、勿論丹念に洗われる。何故か私もだ。
「明朝もどうせ入るのでしょう?」
「お嬢様が睡眠欲に負けなければの話ですが」
「澪愛の女を舐めないで頂戴。元々2日は徹夜の予定だったのよ」
そうは言うもののやはり疲れは蓄積しているようで、髪を洗われている間のまぶたが重そうだった。それでも気丈に振る舞っているのは、やはり主人としての威厳だろうか。
入浴を終え、浴衣に着替える。入浴前に着ていたものとは違う柄の浴衣を着付けられた。されるがままは楽でありがたいが恥ずかしさと申し訳なさがある。
「夕音様はこちらに」
私は鏡台の前に腰掛け、髪を乾かしてもらう。櫛でといても引っかかりが無くなった頃、メイドがくすくすと笑った。視線を追うと、扇様がうつらうつらしている。余裕ぶって見せていたが、やはり元の予定とは大分変わった上行動も増えたので疲れたのだろう。
「扇様、もう寝台に入りましょうか」
「…うん」
扇様は自らの意思でベッドに横たわると、メイド達が毛布を掛けて礼をした。私も真似て自室に戻ろうとすると、くいっと服の裾を引かれた。
「夕音も…」
「はい?」
「一緒に…寝ましょ…?」
もう大分眠いらしい。とろけきった瞳で見上げて来た。私は戸惑ってメイド達を見るが、頷かれるだけで誰も止めてくれなかった。
「し、失礼します」
ドキドキしながら隣に寝ると、メイドが私の分ももう1枚毛布を持って来て掛けてくれた。何から何まで至れり尽くせりだ。一般の身分であるにも関わらず、メイド達は嫌な顔1つしない。同じ身分の癖に、と思っても仕方ない筈なのに。扇様の手前かと思いきや1人でいる時も良くして貰った。それどころか何だか嬉しそうにすら見える。
「おやすみなさいませ、扇様、夕音様」
その声が耳に届く時には、もう扇様は寝息を立てていた。
「扇様は今朝から支度やら挨拶やらで引っ張り回されていてお疲れ様で御座います。せめてお気が休まるように、入浴の際は夕音様とお話が出来ればと」
そんなことを言われては行くしかない。私が起きる前にメイド達で話し合った結果、私が承諾すればすぐに動けるように元々準備されていたらしい。しかし私が歩けなくなっていたが為に多少心配を掛けてしまった。申し訳ない。
「夕音!また一緒に入れるなんて嬉しいわ!」
言葉の通り、嬉しそうな顔で私に抱き付いてくる扇様。私が寝ている間も明日のために準備を進めていたのだ。度重なる緊張感を私が解せたなら嬉しい。
「私もです扇様」
扇様と共に、昨日と同じように曇りガラス張りの浴室へ向かう。私はもう抵抗を諦め、テキパキと脱衣を手伝ってくれるメイドにされるがままだった。昨日のように甘い香りが包んでいるわけでもなく、普段と同様の入浴スタイルだ。どうやら花を浮かべたり香を焚くのは儀式前だけであって、普段は落ち着いた入浴らしい。しかし明日のためだと浴室まで入ってくるのは昨日と変わらなかった。婚約披露前日であるため、勿論丹念に洗われる。何故か私もだ。
「明朝もどうせ入るのでしょう?」
「お嬢様が睡眠欲に負けなければの話ですが」
「澪愛の女を舐めないで頂戴。元々2日は徹夜の予定だったのよ」
そうは言うもののやはり疲れは蓄積しているようで、髪を洗われている間のまぶたが重そうだった。それでも気丈に振る舞っているのは、やはり主人としての威厳だろうか。
入浴を終え、浴衣に着替える。入浴前に着ていたものとは違う柄の浴衣を着付けられた。されるがままは楽でありがたいが恥ずかしさと申し訳なさがある。
「夕音様はこちらに」
私は鏡台の前に腰掛け、髪を乾かしてもらう。櫛でといても引っかかりが無くなった頃、メイドがくすくすと笑った。視線を追うと、扇様がうつらうつらしている。余裕ぶって見せていたが、やはり元の予定とは大分変わった上行動も増えたので疲れたのだろう。
「扇様、もう寝台に入りましょうか」
「…うん」
扇様は自らの意思でベッドに横たわると、メイド達が毛布を掛けて礼をした。私も真似て自室に戻ろうとすると、くいっと服の裾を引かれた。
「夕音も…」
「はい?」
「一緒に…寝ましょ…?」
もう大分眠いらしい。とろけきった瞳で見上げて来た。私は戸惑ってメイド達を見るが、頷かれるだけで誰も止めてくれなかった。
「し、失礼します」
ドキドキしながら隣に寝ると、メイドが私の分ももう1枚毛布を持って来て掛けてくれた。何から何まで至れり尽くせりだ。一般の身分であるにも関わらず、メイド達は嫌な顔1つしない。同じ身分の癖に、と思っても仕方ない筈なのに。扇様の手前かと思いきや1人でいる時も良くして貰った。それどころか何だか嬉しそうにすら見える。
「おやすみなさいませ、扇様、夕音様」
その声が耳に届く時には、もう扇様は寝息を立てていた。
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