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年の変わり目に秘める覚悟
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扇様と向かい合うような姿勢で、月明かりが差し込む部屋で目を覚ました。あれだけ眠ったのにも関わらず、まだ疲れは取れ切ってなかったらしい。しかし1度目が覚めたら、扇様と共にいるという緊張感からか、目が冴えてしまった。寝返りを打って、揺れるカーテンに視線を移す。暗闇に慣れた目が、淡い光を探し求める。窓の奥にぽっかり浮かぶ月が感傷的な気分を引き起こす。
「眠れないの?」
ふと囁くような小さな声が聞こえて、私は顔だけを動かした。いつの間にか起きていた扇様と、ぱっちりと目が合う。
「うん。少し目が冴えて」
ホッとしたのか、何なのか。少しだけ砕けた口調になっても扇様が咎めることはなく。それどころか嬉しそうに笑っていた。
「なら少しお話ししましょう」
「え?疲れてるんじゃ…」
「そうね、ちょっぴり疲れてたみたい。でもやっぱり少し不安なの。紺様と結ばれることはずっと夢見ていたけど、いざ本当にそうなるって言われると怖くなっちゃって。緊張して、眠れないの」
「そっか…扇様も、なるんだね」
「当たり前じゃない。同じ人間よ?」
くすくすと笑う扇様に、私もつられて笑う。月明かりに照らされた頬が、薄らと色付いている。それがとても綺麗で、儚くて、思わず見惚れてしまった。その時ふと扇様が目を細めて、優しい声音で呟いた。
「夕音は、好きな人いないの?」
「えっ?」
「私のことはいっぱい知ってるのに、夕音の話はあまり聞いてないわ。今まで、恋話とでも言うのかしら、そういうのしたことがなくて」
「…うん、いる。ずっと好きな人が」
「まぁ、どんな人?」
「そうだなぁ…優しくて、温かい人かな」
「温かい?」
「うん、幼馴染なの。私、あの人の前だとあんまり素直になれなくて。強く当たっちゃうこともあるのに、いつも笑って受け入れてくれた」
扇様は黙って頷いてくれる。
「そんな笑顔が好きで、大好きで、向けられる度にドキドキした」
「いつ、好きになったの?」
「いつだったっけなぁ…あんまり覚えてないや。気付いたら好きだった。でも、恋ってそんなものじゃない?」
寝返りを打って、扇様と向かい合う。優しく微笑んだ扇様が「確かにその通りね」と返してくれた。
「私も、紺様をいつ好きになったのか聞かれたら答えられないわ」
淡い光の下で、ぼんやりと記憶がまぶたの裏に浮かぶ。
「苦しいことも、辛いこともあったけど。それでも一緒にいたくて誤魔化してたの、ずっと。でももう終わり」
「終わり?」
「うん。紺様の告白、凄く響いて来た。あれだけ想われて、想って、いいなぁって思った。勇気を貰えたの」
「夕音」
「私、告う。伝える。応援、してくれる?」
「勿論。夕音が選んだ人だもの、きっと良い人だわ」
「ありがとう」
それからまた少しだけ言葉を交わして、手を繋いで眠った。いつの間にか新年が明けていたことには、気付かないくらいに落ち着いて、ゆっくり眠っていた。
「眠れないの?」
ふと囁くような小さな声が聞こえて、私は顔だけを動かした。いつの間にか起きていた扇様と、ぱっちりと目が合う。
「うん。少し目が冴えて」
ホッとしたのか、何なのか。少しだけ砕けた口調になっても扇様が咎めることはなく。それどころか嬉しそうに笑っていた。
「なら少しお話ししましょう」
「え?疲れてるんじゃ…」
「そうね、ちょっぴり疲れてたみたい。でもやっぱり少し不安なの。紺様と結ばれることはずっと夢見ていたけど、いざ本当にそうなるって言われると怖くなっちゃって。緊張して、眠れないの」
「そっか…扇様も、なるんだね」
「当たり前じゃない。同じ人間よ?」
くすくすと笑う扇様に、私もつられて笑う。月明かりに照らされた頬が、薄らと色付いている。それがとても綺麗で、儚くて、思わず見惚れてしまった。その時ふと扇様が目を細めて、優しい声音で呟いた。
「夕音は、好きな人いないの?」
「えっ?」
「私のことはいっぱい知ってるのに、夕音の話はあまり聞いてないわ。今まで、恋話とでも言うのかしら、そういうのしたことがなくて」
「…うん、いる。ずっと好きな人が」
「まぁ、どんな人?」
「そうだなぁ…優しくて、温かい人かな」
「温かい?」
「うん、幼馴染なの。私、あの人の前だとあんまり素直になれなくて。強く当たっちゃうこともあるのに、いつも笑って受け入れてくれた」
扇様は黙って頷いてくれる。
「そんな笑顔が好きで、大好きで、向けられる度にドキドキした」
「いつ、好きになったの?」
「いつだったっけなぁ…あんまり覚えてないや。気付いたら好きだった。でも、恋ってそんなものじゃない?」
寝返りを打って、扇様と向かい合う。優しく微笑んだ扇様が「確かにその通りね」と返してくれた。
「私も、紺様をいつ好きになったのか聞かれたら答えられないわ」
淡い光の下で、ぼんやりと記憶がまぶたの裏に浮かぶ。
「苦しいことも、辛いこともあったけど。それでも一緒にいたくて誤魔化してたの、ずっと。でももう終わり」
「終わり?」
「うん。紺様の告白、凄く響いて来た。あれだけ想われて、想って、いいなぁって思った。勇気を貰えたの」
「夕音」
「私、告う。伝える。応援、してくれる?」
「勿論。夕音が選んだ人だもの、きっと良い人だわ」
「ありがとう」
それからまた少しだけ言葉を交わして、手を繋いで眠った。いつの間にか新年が明けていたことには、気付かないくらいに落ち着いて、ゆっくり眠っていた。
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