494 / 812
1月14日 着せ替え人形
しおりを挟む
被服室に着くと、待ってましたと言わんばかりに千夏が満面の笑みを向けてくる。私は少々居た堪れない気分になりながらも荷物を下ろし、千夏へ指示を仰いだ。
「1年生が作った服を試着してみて欲しいんだ」
「そんなことだろうとは思ってたけど…」
わくわくキラキラと目を輝かせている1年生。その熱意は千夏と同じくらいのもので、私には少々眩しい。
「サイズ合うの?」
「基本的にはサイズ決めて作るんだけど、この時期のはフリーサイズで作るって決まりがあってね。実際に友達やら誰やらに着せて、自分のどこが不足しているとか、縫いが甘いかとかを知るんだ」
「そうなんだ?」
「それで今日、モデル役を頼んだ子が病欠で困ってたんだよね。そしたら夕音が通ったからさ。駄目元でお願いしてみて良かったよ!」
千夏は私が帰宅部であることを知っているし、荷物を持って校門に向かって歩いていたら帰宅だと気付いていただろう。帰った後に用事がある可能性も否めないが、駄目元で頼んだとは思えない。
指摘するにも言葉がまとまらないので、そんな負の感情は脳の片隅に追いやって了承する。隣の準備室に通され、服を渡される。最初は私服に近いシンプルなシャツとガウチョパンツであった。西陽が閉められたカーテンの隙間から零れ落ちる部屋で1人、着替えを済ませる。
「着れたよ」
ドアを開けて顔を出すと、ガタンっと全員が全員作業の手を止めて立ち上がり、こちらを向いた。一斉に向けられた視線に、一瞬立ちすくむ。
「夕音、髪解いてもらっても良い?」
「え?良いけど…」
私は低い位置でサイドテールにしていた髪を解いた。稲穂色の髪が締め付けを失って、パラリと肩に零れる。
「じゃあこれ被って」
「帽子?」
渡されたのは、カンカン帽と呼ばれる麦わら帽子であった。服が薄手であることや寒色を主に使用していることから、初夏の雰囲気が漂う。
「凄い!綺麗です!」
「向日葵畑とか似合いそうです!」
「そのまま帽子を押さえていてください!写真撮ります!」
「えっ!?」
写真なんて聞いてない、と言う前にシャッターを切られてしまった。360度余すことなく細かく撮影される。千夏が写真を確認して頷くと、先程服を渡してきた子とは別の子が、私に服を差し出してきた。
「次はこれ、お願いします」
手に取ると、ふわふわのレースやフリルの重量感をたっぷりと感じる。これを着るのか、と視線で千夏に訴えたが、親指をぐっと立てられて見送られた。準備室で着替えると、持った時から感じていた通りロリータ系のワンピースだった。白とピンクを主に使用した、可愛らしさ満点のロリータファッションである。滅多に選ばない服装に違和感を覚えながらも、さっさと終わらせたいと千夏達の元へ戻った。次は大きなリボンカチューシャを頭に付けられ、手を後ろ目に気を付けした姿勢で写真を撮られる。足は交差する等の細かい指示があったが、果たしてこれは本当に簡易的なモデルなのだろうか。
「次はこれです。お願いします~」
間延びした口調の女の子に服を渡され、驚く。それは今まで試着した西洋風の服ではなく、完全に浴衣であったから。
「わっ、凄い」
思わずそんなことを呟きながら、次の服へと着替え始めた。
「1年生が作った服を試着してみて欲しいんだ」
「そんなことだろうとは思ってたけど…」
わくわくキラキラと目を輝かせている1年生。その熱意は千夏と同じくらいのもので、私には少々眩しい。
「サイズ合うの?」
「基本的にはサイズ決めて作るんだけど、この時期のはフリーサイズで作るって決まりがあってね。実際に友達やら誰やらに着せて、自分のどこが不足しているとか、縫いが甘いかとかを知るんだ」
「そうなんだ?」
「それで今日、モデル役を頼んだ子が病欠で困ってたんだよね。そしたら夕音が通ったからさ。駄目元でお願いしてみて良かったよ!」
千夏は私が帰宅部であることを知っているし、荷物を持って校門に向かって歩いていたら帰宅だと気付いていただろう。帰った後に用事がある可能性も否めないが、駄目元で頼んだとは思えない。
指摘するにも言葉がまとまらないので、そんな負の感情は脳の片隅に追いやって了承する。隣の準備室に通され、服を渡される。最初は私服に近いシンプルなシャツとガウチョパンツであった。西陽が閉められたカーテンの隙間から零れ落ちる部屋で1人、着替えを済ませる。
「着れたよ」
ドアを開けて顔を出すと、ガタンっと全員が全員作業の手を止めて立ち上がり、こちらを向いた。一斉に向けられた視線に、一瞬立ちすくむ。
「夕音、髪解いてもらっても良い?」
「え?良いけど…」
私は低い位置でサイドテールにしていた髪を解いた。稲穂色の髪が締め付けを失って、パラリと肩に零れる。
「じゃあこれ被って」
「帽子?」
渡されたのは、カンカン帽と呼ばれる麦わら帽子であった。服が薄手であることや寒色を主に使用していることから、初夏の雰囲気が漂う。
「凄い!綺麗です!」
「向日葵畑とか似合いそうです!」
「そのまま帽子を押さえていてください!写真撮ります!」
「えっ!?」
写真なんて聞いてない、と言う前にシャッターを切られてしまった。360度余すことなく細かく撮影される。千夏が写真を確認して頷くと、先程服を渡してきた子とは別の子が、私に服を差し出してきた。
「次はこれ、お願いします」
手に取ると、ふわふわのレースやフリルの重量感をたっぷりと感じる。これを着るのか、と視線で千夏に訴えたが、親指をぐっと立てられて見送られた。準備室で着替えると、持った時から感じていた通りロリータ系のワンピースだった。白とピンクを主に使用した、可愛らしさ満点のロリータファッションである。滅多に選ばない服装に違和感を覚えながらも、さっさと終わらせたいと千夏達の元へ戻った。次は大きなリボンカチューシャを頭に付けられ、手を後ろ目に気を付けした姿勢で写真を撮られる。足は交差する等の細かい指示があったが、果たしてこれは本当に簡易的なモデルなのだろうか。
「次はこれです。お願いします~」
間延びした口調の女の子に服を渡され、驚く。それは今まで試着した西洋風の服ではなく、完全に浴衣であったから。
「わっ、凄い」
思わずそんなことを呟きながら、次の服へと着替え始めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる