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1月14日 聞こえないふり
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黒地に花火柄の浴衣に袖を通す。帯は1人では出来なかったので千夏を呼び、仕上げまで行ってもらった。赤の帯がよく映える。
「ありがとう」
「あ、まだ待って。ここに座って」
千夏の指示に従って、指された椅子に腰掛ける。すると千夏の手がするりと私の髪を撫でた。驚いて肩を震わせたが、チラリと見えた千夏の表情は真剣そのもので、私は我慢して動かないよう心がける。いつ用意したのか最初から持っていたのか、ヘアメイクセットを駆使して髪を編み下ろす。それをローシニヨンにまとめ上げると、涼しめの雰囲気を纏って浴衣に合った姿へと変わった。
「うん、完成」
「千夏は本当に手先器用だよね、何でも出来ちゃう」
「お褒めに預かり。…手先ばっかり器用でも、ね」
「何か言った?」
「ううん、何でもない」
本当は聞こえていた。千夏の心に一瞬影が差したような気配がして、何となく踏み入るのに躊躇してしまった。
"…松永のこと、助けてくれてありがとうな"
少し前に、藤上くんにこんなことを言われた。扇様のところへ行く少し前、陸上部マネージャーの手伝いに駆り出された私は、体育倉庫で偶然藤上くんと会った時にそう言われたのだ。私が千夏を助けた、と藤上くんははっきり言った。しかしそれは本当だろうか。千夏はまだ、囚われているのではないだろうか。素直な心を曝け出すのが苦手で、少し意地っ張り。本当は手を離されるのが怖いくせに、1人でも大丈夫だと気丈に振る舞う女の子。独りに怯える、普通の女の子。そんな彼女はまだ、本当に頼りたい相手に1歩踏み出すことが出来ないでいるのではないだろうか。対人関係に不器用な、千夏だから。
でも、話すべきは今じゃない。
後輩を待たせている状態で千夏が話すとは思えないし、その後に話を聞こうとすれば避けられるだろう。誤魔化して、演じ切って、忘れたように自分の心を傷付ける。その傷付いた心さえも何でもないように見せて、いつも通り笑う。そんな相手だと分かっているからこそ、私は聞こえないふりをした。
「お待たせしました」
準備室の扉を開け、待っていた1年生の前に姿を現す。「おぉっ」と感嘆の声が小さく上がり、早速写真を撮られた。羞恥心は押し殺して、何とか耐え続ける。千夏が写真を確認し終えると、私の方を向いて楽しそうに笑った。
「お疲れ様、夕音。これで終わりだよ」
「良かった。皆凄いね。全部お店で売ってるのと大差なくて、驚いちゃったよ」
「でしょ?日頃の努力の賜物よ!」
「そうだね、千夏も凄いもんね」
私が素直に肯定して褒めると、千夏はツッコんで欲しかったらしく、少しだけ頬を赤く染めてプルプルと震えていた。我慢ならなくなった千夏に背中を叩かれたが、その心の音から先程の陰りは伺えなかったので、ホッと胸を撫で下ろす。
もう少し先、藤上くんと話をしてから。
私はやるべきことを考えるのだった。
「ありがとう」
「あ、まだ待って。ここに座って」
千夏の指示に従って、指された椅子に腰掛ける。すると千夏の手がするりと私の髪を撫でた。驚いて肩を震わせたが、チラリと見えた千夏の表情は真剣そのもので、私は我慢して動かないよう心がける。いつ用意したのか最初から持っていたのか、ヘアメイクセットを駆使して髪を編み下ろす。それをローシニヨンにまとめ上げると、涼しめの雰囲気を纏って浴衣に合った姿へと変わった。
「うん、完成」
「千夏は本当に手先器用だよね、何でも出来ちゃう」
「お褒めに預かり。…手先ばっかり器用でも、ね」
「何か言った?」
「ううん、何でもない」
本当は聞こえていた。千夏の心に一瞬影が差したような気配がして、何となく踏み入るのに躊躇してしまった。
"…松永のこと、助けてくれてありがとうな"
少し前に、藤上くんにこんなことを言われた。扇様のところへ行く少し前、陸上部マネージャーの手伝いに駆り出された私は、体育倉庫で偶然藤上くんと会った時にそう言われたのだ。私が千夏を助けた、と藤上くんははっきり言った。しかしそれは本当だろうか。千夏はまだ、囚われているのではないだろうか。素直な心を曝け出すのが苦手で、少し意地っ張り。本当は手を離されるのが怖いくせに、1人でも大丈夫だと気丈に振る舞う女の子。独りに怯える、普通の女の子。そんな彼女はまだ、本当に頼りたい相手に1歩踏み出すことが出来ないでいるのではないだろうか。対人関係に不器用な、千夏だから。
でも、話すべきは今じゃない。
後輩を待たせている状態で千夏が話すとは思えないし、その後に話を聞こうとすれば避けられるだろう。誤魔化して、演じ切って、忘れたように自分の心を傷付ける。その傷付いた心さえも何でもないように見せて、いつも通り笑う。そんな相手だと分かっているからこそ、私は聞こえないふりをした。
「お待たせしました」
準備室の扉を開け、待っていた1年生の前に姿を現す。「おぉっ」と感嘆の声が小さく上がり、早速写真を撮られた。羞恥心は押し殺して、何とか耐え続ける。千夏が写真を確認し終えると、私の方を向いて楽しそうに笑った。
「お疲れ様、夕音。これで終わりだよ」
「良かった。皆凄いね。全部お店で売ってるのと大差なくて、驚いちゃったよ」
「でしょ?日頃の努力の賜物よ!」
「そうだね、千夏も凄いもんね」
私が素直に肯定して褒めると、千夏はツッコんで欲しかったらしく、少しだけ頬を赤く染めてプルプルと震えていた。我慢ならなくなった千夏に背中を叩かれたが、その心の音から先程の陰りは伺えなかったので、ホッと胸を撫で下ろす。
もう少し先、藤上くんと話をしてから。
私はやるべきことを考えるのだった。
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