神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
496 / 812

Merry Christmas! 2020 菜古

しおりを挟む
昨日、終業式の後に憧れの先輩に告白した。前まで私とあの人はライバルだった。けれどどちらも行動することが出来なかった。あの人は友人という立場から、私は先輩後輩という立場から抜け出すことが出来なかった。関係を壊すことが怖くて。それに怯えるあの人が、全然進んでくれないから。いつの間にか変わっていた恋心を、受け入れることも拒絶することもしてくれない曖昧な態度を示されて、我慢ならなかった。つい平手打ちをしてしまったが、やっと私の言葉が響いたらしい。私と真っ直ぐ向き合ってくれた。そして今日は、私が先輩を振り向かせるための第1歩。話が終わった後でクリスマスデートの約束を取り付けた。赤を基調とした全力のお洒落で、五十嵐先輩をメロメロにするんだ。
「それなのにっ…!」
意気込んだは良いものの、今日はやられっぱなしである。おかしい。こんな筈じゃなかった。開口一番お洒落を褒めて「似合ってるよ」と言われた。先輩、と呼ぶと「春で良いよ、菜古ちゃん」と笑顔を向けられた。流石に呼び捨ては難しいので恥ずかしいのを我慢して「春さん」と呼ぶと、「何だか夫婦みたいだね」と返された。水族館でははぐれないようにと手を繋ぐことになった。水槽を見つめているその瞳が綺麗で見惚れていたら、ふいに目が合った。ご飯を食べる時も一口分けてあげる、と手ずから差し出してくれた。その後ショッピングモールに寄って、夜のイルミネーションが点灯するまでの時間を潰している。私は春さんから少し離れて、アクセサリーを見ながら今日のことを振り返っていた。
おかしい。どうにもおかしい。
ずっとドキドキさせられっぱなしなのだ。私が仕掛ける予定だったのに、春さんの一挙手一投足、言動全てに心臓は限界を訴えている。私は明日死ぬのだろうか、そう思っても仕方ないくらいの展開だった。
「菜古ちゃん」
「ひわぁっ!?あ、な、何ですか!?」
「そろそろイルミネーション観に行かない?」
「え、あっもうそんな時間…?い、行きます!」
気付いたら相当な時間が経っていたらしい。持っていただけできちんと見られていなかった商品を置き、私は春さんの隣に並ぶ。さりげなく手を取られて、私の心臓はばくばくと大きな音を立てていた。
外に出ると、大型ショッピングモールなだけあって飾られている、大きなクリスマスツリーが煌びやかな光を放っていた。ここだけ別世界であるかのように、美しく彩られている。
「凄い…綺麗…」
「そうだね」
私が携帯を取り出すと、写真を撮りにくいと考えたのか手を離してくれた。私の手は小さいので、写真を撮るためには両手を使わなければならない。名残惜しさを感じながらも、この綺麗な景色を思い出として納めておきたかった。
「せっかくだし、一緒に撮る?」
「ぅえっ!?い、いいんですか!?」
「いいよ、ボクで良いなら」
「お、お願いします…!」
綺麗なクリスマスツリーを背景に、写真を撮ろうと四苦八苦する。身長差のせいで上手く入らない。精一杯腕を伸ばしても見切れてしまう。焦って操作が上手くいかない。戸惑っていると、春さんが私から携帯を受け取って、屈んで身長を合わせてくれて、写真を撮ってくれた。私は驚いて硬直してしまったけれど、ちゃんと笑うのを待ってくれて。最高の1枚が保存された。
もう少し見て回ろう、と言われたので素直に従う。
「…あの、春さん」
「ん?」
「今日、どうしてそんなに…私を、ドキドキさせるんですか…?」
ポツリと、ずっと疑問に思っていたことを呟いてしまった。しかもストレートに言ってしまった。慌てて取り繕うと顔を上げると、少し赤く染まった顔が目に飛び込んできた。
「菜古ちゃんが昨日言ってたように、菜古ちゃんが離れないように努力しなきゃと思って…どうすれば良いのか分からなかったから、色々調べて…」
どうやら、今日の行動はネットで得た知識をもとに構築した最善策のつもりだったとのこと。
「それは、えぇっと…つまり」
顔に、一気に熱が集中する。春さんも赤く染まった顔を背けていた。
「それに、ドキドキしてるのは菜古ちゃんだけじゃないよ」
「え?」
ポツリと呟かれた言葉に驚いて顔を上げる。振り向いた春さんは微笑むだけで、真意は教えてくれない。
「それじゃあ行こうか」
「えっ、ちょっ、あのっ」
私の戸惑いはよそに、くすくすと笑う春さん。その笑顔にさえときめいてしまって、敗北感に項垂れる。それでも、隣に居られるだけで嬉しいのは、惚れた弱みだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...