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きんいろ
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真っ暗で何も見えない。そんな中で、すんすんと小さな音が聞こえてくる。何かと思って耳をすませば、少しずつその音の正体がはっきりして来た。すんすん、すんすん。鼻を啜る音。潜めた息の音。たまに混じるのはしゃくり上げた声。誰かがないているようだ。
「…っく…ひっく……うぅ、何なの…」
目の前に現れたのは、太陽の光を写し取ったかのような見事な金髪に、燃え盛る炎のような朱色の瞳。異国情緒を感じさせるその容姿は、薄らと見えて来た古き良き背景にとても似つかわしくなかった。
泣いている彼女が身に付けているのは、古ぼけたボロボロの着物。いや着物というより、庶民が動きやすいよう工夫が施された小袖という方が正しいだろう。河川敷に腰掛け、両手でまぶたを擦っている。それでも止めどなく涙は溢れて来て、拭っても拭っても泣き止むことはない。
思わず慰めるために声を掛けようとしたところで、私の輪郭が黒い靄となっていることに気付いた。手のように形作られたそれは波打つように曖昧で、肌の色なんてわからない。煤が固まって動いているかのような、そんな気味の悪い光景だった。
な、に…?
口をついて出た筈の言葉は、喉など通らず音にもならない。感覚的に動かしている口も、どこも開いた様子がない。そして目の前の少女も、私に気付いたような様子はなかった。
「っきゃ!」
よくわからず混乱していると、少女が頭を抱えて悲鳴を上げた。何事かと顔を上げれば、遠くの方で数人の子供たちがケラケラと笑っているのが見えた。
「やーい、化け物!」
「嘘吐き!」
「魔物は山に帰れ!」
加虐心と揶揄い、僅かに恐怖の混ざったその声と、少女の足元に転がっていく小石たち。どうやら石を投げられたらしい。何て卑劣なことを、と憤った瞬間、その気持ちが何処からもたらされたものかわからずに萎んでいく。
「…っ」
先程まで泣いていた少女は、またじわりと涙をその朱色の瞳に滲ませて、顔を苦痛に歪ませた。何かを我慢するように下唇を噛み、罵詈雑言と投げられる小石に必死に耐えている。まるでそうすることが当たり前かのように。
「気持ち悪い化け物め!」
「お前のせいで悪いことが起こるんだ!」
子供たちの悪意は留まることを知らず、少女はひたすらに体を縮こまらせて耐えるだけ。どうにかしてやめさせる手段はないかと考えたところで、子供たちの髪と瞳の色が少女と全く異なり、黒に近い色で統一されていることに気付いた。
「ひどいよ……」
少女が小さく呟くが、遠くにいる子供たちには届かない。やがて満足したのか、辺りが暗くなり始めたところで子供たちは帰って行った。少女は傷だらけの体をゆっくりと起き上がらせ、ふらふらと歩き出す。向かった先は、燻んだ大きな鳥居が聳え立つ、神社であった。
「…っく…ひっく……うぅ、何なの…」
目の前に現れたのは、太陽の光を写し取ったかのような見事な金髪に、燃え盛る炎のような朱色の瞳。異国情緒を感じさせるその容姿は、薄らと見えて来た古き良き背景にとても似つかわしくなかった。
泣いている彼女が身に付けているのは、古ぼけたボロボロの着物。いや着物というより、庶民が動きやすいよう工夫が施された小袖という方が正しいだろう。河川敷に腰掛け、両手でまぶたを擦っている。それでも止めどなく涙は溢れて来て、拭っても拭っても泣き止むことはない。
思わず慰めるために声を掛けようとしたところで、私の輪郭が黒い靄となっていることに気付いた。手のように形作られたそれは波打つように曖昧で、肌の色なんてわからない。煤が固まって動いているかのような、そんな気味の悪い光景だった。
な、に…?
口をついて出た筈の言葉は、喉など通らず音にもならない。感覚的に動かしている口も、どこも開いた様子がない。そして目の前の少女も、私に気付いたような様子はなかった。
「っきゃ!」
よくわからず混乱していると、少女が頭を抱えて悲鳴を上げた。何事かと顔を上げれば、遠くの方で数人の子供たちがケラケラと笑っているのが見えた。
「やーい、化け物!」
「嘘吐き!」
「魔物は山に帰れ!」
加虐心と揶揄い、僅かに恐怖の混ざったその声と、少女の足元に転がっていく小石たち。どうやら石を投げられたらしい。何て卑劣なことを、と憤った瞬間、その気持ちが何処からもたらされたものかわからずに萎んでいく。
「…っ」
先程まで泣いていた少女は、またじわりと涙をその朱色の瞳に滲ませて、顔を苦痛に歪ませた。何かを我慢するように下唇を噛み、罵詈雑言と投げられる小石に必死に耐えている。まるでそうすることが当たり前かのように。
「気持ち悪い化け物め!」
「お前のせいで悪いことが起こるんだ!」
子供たちの悪意は留まることを知らず、少女はひたすらに体を縮こまらせて耐えるだけ。どうにかしてやめさせる手段はないかと考えたところで、子供たちの髪と瞳の色が少女と全く異なり、黒に近い色で統一されていることに気付いた。
「ひどいよ……」
少女が小さく呟くが、遠くにいる子供たちには届かない。やがて満足したのか、辺りが暗くなり始めたところで子供たちは帰って行った。少女は傷だらけの体をゆっくりと起き上がらせ、ふらふらと歩き出す。向かった先は、燻んだ大きな鳥居が聳え立つ、神社であった。
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