神様自学

天ノ谷 霙

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夢色

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恋音こいねさんの記憶が次々と私の中に流れ込んでくる。稲荷様の元を飛び出して、ヒトに怯えながらヒトの中で暮らし、少しずつ変わっていく価値観。知らず知らずのうちにヒトを認め、ヒトのことを受け入れられるようになっていた。だからこそ私に会いに来て直接言葉を交わし、私が生死の境を彷徨った時は手助けしてくれた。何度も何度も私の中に燻る毒を解呪し、私が行動する為の一歩をくれた。
だったら今度は、私の番。
そう思った最後に、また暗闇が辺りを包んだ。恐らくごく最近の恋音さんの記憶。
垂らされた雫によってその場に招かれたのは、見間違うはずもない、榊原 羅樹だった。

羅樹?

思わず声を出しそうになるが、空気すら漏れることなく開閉を繰り返すだけだった。きょろきょろと辺りを見回しながら歩いて来る羅樹の正面には、錫杖を持ち千早を羽織った恋音さんの姿。ぼんやりとした様子の羅樹は、風が吹くと共に恋音さんの姿を認識したのか、はっと目を見開いて何かを呟こうとして止めた。不思議そうな顔をして首を傾げる羅樹。その向かいで恋音さんは何の説明もなく、唐突に呟いた。
「ねぇ、もしに貴方の他に好きな人が出来たらどうするの?」
"この子"という台詞と共に、恋音さんの姿が変化する。長い金の髪。朱色に近い赤の瞳。服装はいつもの制服姿。鏡でもそこにあるのかと勘違いする程精巧に、私の姿がそのまま存在していた。
羅樹は困惑したように首を傾げるが、すぐに答えを返した。まるでこう聞かれたから必ずこう答えると予め決めていたかのように、機械的に返事をする。

が幸せになれるなら、それでいいよ」

その言葉に、私は息を呑んだ。かつて鹿宮くんが明に対して抱いていた気持ちと、同じようなことを言っている。

"きっと羅樹も同じだと思うんすよ"

唐突に鹿宮くんの言葉が過ぎる。言われた時は理解出来なかったが、今なら分かる気がする。鹿宮くんは明のことを想うが故に告白を諦めようとした。好きな人の幸せの為に身を引こうとした。そんな鹿宮くんの気持ちと羅樹の気持ちが同じなら、羅樹のこの答えは。
そんな私の驚きには全く干渉せず、くすくすと笑う恋音さん。その瞳は意地悪そうに歪み、妖艶な笑みを溢す。
「臆病者」
口角は上がっているのに、瞳は全く笑っていない。それどころか苛立ちに近い感情を灯して、行き所のないそれを言葉に乗せている。
「結局傷付くことが怖いだけじゃない。貴方は最も他人のことを考えてるふりをして、最も保身に走ってるのね」

嗚呼、そうか。

"同じ"なんだ。

ストンと腑に落ちた。稲荷様と恋音さんのすれ違いも、私と羅樹の関係への向き合い方も、似たような理由で違えてしまっているんだ。

「私、やっぱり人間が嫌いだわ」

最後の恋音さんの言葉ではっきりとした。そうして何か一つの考えを頑なに守り続けなければ何かを失ってしまう。その怯えが関係を停滞させ、何処にも行けないよう縛り付けてしまっていることに。
なら私がすることはひとつ。
"恋使"がやることは、ひとつ。
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