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3月10日 好きの呪縛
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毛先の近くで結ばれた、紫から白へのグラデーションを描いた髪が緩く揺れる。
「…だから、だからアタシ、告白しようと思って光の所に行ったの」
「…うん」
きっとあの日の出来事。皆がお菓子戦争で盛り上がっていた騒がしい日のこと。放課後に、北原くんと2人でいたあの時のこと。私は頷いて、爽の言葉を待った。
「受け入れてもらえないって分かってた。言うだけ言いたかった、ただそれだけ」
爽が俯く。指先が緊張を紛らすようにおしぼりを弄っている。息を吸う音が、震えを伴って聞こえてきた。
「それなのに光はさ、アタシを見るなり『大丈夫か?』って聞いて来て。驚いて『何が?』って聞いたら、アタシの様子が変だって言って来て。また何か悩んでるのかって。話して楽になるなら聞くぞって、また優しくして…」
爽の瞳から涙が零れ落ちる。何度諦めようとしても好きになってしまう、そんな厄介な感情に囚われてしまったお姫様。助けてくれる勇者もいなければ、自身で出る手掛かりも見つからない。魔王に惚れたお姫様は、いつだって自滅の道を歩むしかないのだ。そのまま囚われ続けるか、待ち続けて他の誰かに意識が向くのを待つか。けれど現実はそう簡単じゃない。わかりやすい檻もなければ、魔王と勇者も幻でしかない。何度逃げようと身動いでも、手足は沼に浸かったかのように動かなくて。絡め取られた身体に振り向けば、きっとまた好きな人が残酷に笑いかけてくるんだ。
北原くんへの想いが、呪縛のように絡みついている爽。
「…もう、いい加減にしてって叫んじゃった。腹が立って、どうしてアタシはこの人以外好きになれないんだろうってムカついて。どうしていつでもアタシの心を攫うくせに、こっちを向いてくれないのって苛立って、気付いたら胸ぐらを掴んでいた」
それは、あの重なったように見えたあの時の。
私が驚いて目を見開くと、爽はこくりと頷いた。瞳を涙に濡らしながら、何かを嘲笑するかのように微笑む。涙で掠れた声で、はっきりと言った。
「アタシ、キスしたんだ。光に」
「…っ」
見間違いではなかった。推測通りだった。驚いて目を瞬くと、爽は照れたように頬を染めて下を向いた。
「だって、もう何でもいいから何かを奪いたかった。視線も、心も、何も奪えないなら、唇くらい奪ったってバチは当たらないかもしれないじゃない」
「…そう、だね」
「そう。でも、やっちゃったって不安になって、罪悪感に苛まれて、すぐに逃げた。そこを見られたんだね」
「…うん。爽が教室を走って出て行くところは見たよ。北原くんの方は見られなかったから、どんな顔していたかは分からないけど」
「アタシも見られなかった。怒られたら、嫌われたらって考えて怖くなって。アタシ、自分が前を向くことしか考えてなかった。光に嫌われるかもなんて、思ってなかった。当たり前だよね、キスなんてするつもりなかったんだから」
そこで話は途切れる。爽が口を閉じて、遠くを見つめた。振り返ると店員さんがこちらに向かって来ていて、私達が頼んだメニューが運ばれて来ているのが見えた。
話は一旦、ここでストップだ。
「…だから、だからアタシ、告白しようと思って光の所に行ったの」
「…うん」
きっとあの日の出来事。皆がお菓子戦争で盛り上がっていた騒がしい日のこと。放課後に、北原くんと2人でいたあの時のこと。私は頷いて、爽の言葉を待った。
「受け入れてもらえないって分かってた。言うだけ言いたかった、ただそれだけ」
爽が俯く。指先が緊張を紛らすようにおしぼりを弄っている。息を吸う音が、震えを伴って聞こえてきた。
「それなのに光はさ、アタシを見るなり『大丈夫か?』って聞いて来て。驚いて『何が?』って聞いたら、アタシの様子が変だって言って来て。また何か悩んでるのかって。話して楽になるなら聞くぞって、また優しくして…」
爽の瞳から涙が零れ落ちる。何度諦めようとしても好きになってしまう、そんな厄介な感情に囚われてしまったお姫様。助けてくれる勇者もいなければ、自身で出る手掛かりも見つからない。魔王に惚れたお姫様は、いつだって自滅の道を歩むしかないのだ。そのまま囚われ続けるか、待ち続けて他の誰かに意識が向くのを待つか。けれど現実はそう簡単じゃない。わかりやすい檻もなければ、魔王と勇者も幻でしかない。何度逃げようと身動いでも、手足は沼に浸かったかのように動かなくて。絡め取られた身体に振り向けば、きっとまた好きな人が残酷に笑いかけてくるんだ。
北原くんへの想いが、呪縛のように絡みついている爽。
「…もう、いい加減にしてって叫んじゃった。腹が立って、どうしてアタシはこの人以外好きになれないんだろうってムカついて。どうしていつでもアタシの心を攫うくせに、こっちを向いてくれないのって苛立って、気付いたら胸ぐらを掴んでいた」
それは、あの重なったように見えたあの時の。
私が驚いて目を見開くと、爽はこくりと頷いた。瞳を涙に濡らしながら、何かを嘲笑するかのように微笑む。涙で掠れた声で、はっきりと言った。
「アタシ、キスしたんだ。光に」
「…っ」
見間違いではなかった。推測通りだった。驚いて目を瞬くと、爽は照れたように頬を染めて下を向いた。
「だって、もう何でもいいから何かを奪いたかった。視線も、心も、何も奪えないなら、唇くらい奪ったってバチは当たらないかもしれないじゃない」
「…そう、だね」
「そう。でも、やっちゃったって不安になって、罪悪感に苛まれて、すぐに逃げた。そこを見られたんだね」
「…うん。爽が教室を走って出て行くところは見たよ。北原くんの方は見られなかったから、どんな顔していたかは分からないけど」
「アタシも見られなかった。怒られたら、嫌われたらって考えて怖くなって。アタシ、自分が前を向くことしか考えてなかった。光に嫌われるかもなんて、思ってなかった。当たり前だよね、キスなんてするつもりなかったんだから」
そこで話は途切れる。爽が口を閉じて、遠くを見つめた。振り返ると店員さんがこちらに向かって来ていて、私達が頼んだメニューが運ばれて来ているのが見えた。
話は一旦、ここでストップだ。
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