678 / 812
揺さぶりrespond 光
しおりを挟む
どくんどくんと、胸の奥がうるさく鳴り響く。こんな胸の痛み、知らなかった。夏川が、そんな顔で笑うなんて知らなかった。いつだって無愛想で、何かに苛立ってるように見えて、けれど本当は親友のことが大好きで、嫌われ者を演じて彼女の防波堤になっている女の子だった。桐竜に近寄ろうとする男が、自分が近くにいると側に行きにくいと理解していて離れないように努めている様子だった。桐竜がこれ以上無責任な好意に晒されて苦しまないよう、周りを見張っているようだった。自分だって桐竜に嫉妬していたのに、それ以上に大切だからと守って。相反する2つの感情を抱えながら他者を大切に出来る女の子だと、知っていたのに。
そんな彼女の"大切"の範囲に入っていることが、こんなにも嬉しいのか。
「…っ俺、は、ずっと桐竜が好きで、でも来に取られて、すぐに稲森を好きになった、大馬鹿者だぞ」
何か話さなければという焦燥感が、意味の分からない話題を切り出す。何を言いたいのか自分でも理解出来ない。それなのに夏川は、うん、と小さく頷いただけだった。その優しい微笑みが、余計に焦らせる。
「取られたって言うのもおかしいんだけどな。俺、行動した訳じゃないし。稲森の時だって、告白してすぐに態度を変えて、わざと噂を流して。わざと周囲を煽って、そんな、馬鹿なことして」
「うん」
「そんな、ところも、ずっと見て来たんだよな」
「うん」
「それなのに、俺のこと、見限らないでくれたんだな」
「だって、好きだもの」
何度言われたのか、もうわからない。その言葉に動きが止まる。夏川の真っ直ぐな思いが胸を打ち鳴らして苦しい。わからない。もう、わからない。答えたいのか、そんな真っ直ぐな思いを向けられる資格はないと見限って欲しいのか、もう何もわからない。
「…っ」
言葉が切れる。何を言うべきかと逡巡していると、夏川が急に距離を詰めて来た。覚悟を決めた瞳が、キラキラと陽光を反射して美しい。宝石のような気高い輝きが、俺を真っ直ぐに射止める。
「言い訳はそれだけ?」
「…え」
「さっきも言ったでしょ、光。アタシの告白に少しでも心は動いた?それなら、光は"はい"って言うだけでいいの」
至近距離で瞬く瞳に、体が熱を帯びる。こんなの、心が動かない方がおかしくて。揺さぶられて、感情を見透かされて、俺は無意識に呟いていた。
「は、い」
その言葉に、満足そうに笑った夏川は、その勢いのまま俺の襟を掴む。あの時と一緒だと思った瞬間には、もう既に唇に柔らかいものが触れていた。
「いつか、ちゃんと好きだって言わせるから。覚悟してなさいよ」
「…は、はい」
俺はもうそれ以上、何も言うことは出来なかった。
そんな彼女の"大切"の範囲に入っていることが、こんなにも嬉しいのか。
「…っ俺、は、ずっと桐竜が好きで、でも来に取られて、すぐに稲森を好きになった、大馬鹿者だぞ」
何か話さなければという焦燥感が、意味の分からない話題を切り出す。何を言いたいのか自分でも理解出来ない。それなのに夏川は、うん、と小さく頷いただけだった。その優しい微笑みが、余計に焦らせる。
「取られたって言うのもおかしいんだけどな。俺、行動した訳じゃないし。稲森の時だって、告白してすぐに態度を変えて、わざと噂を流して。わざと周囲を煽って、そんな、馬鹿なことして」
「うん」
「そんな、ところも、ずっと見て来たんだよな」
「うん」
「それなのに、俺のこと、見限らないでくれたんだな」
「だって、好きだもの」
何度言われたのか、もうわからない。その言葉に動きが止まる。夏川の真っ直ぐな思いが胸を打ち鳴らして苦しい。わからない。もう、わからない。答えたいのか、そんな真っ直ぐな思いを向けられる資格はないと見限って欲しいのか、もう何もわからない。
「…っ」
言葉が切れる。何を言うべきかと逡巡していると、夏川が急に距離を詰めて来た。覚悟を決めた瞳が、キラキラと陽光を反射して美しい。宝石のような気高い輝きが、俺を真っ直ぐに射止める。
「言い訳はそれだけ?」
「…え」
「さっきも言ったでしょ、光。アタシの告白に少しでも心は動いた?それなら、光は"はい"って言うだけでいいの」
至近距離で瞬く瞳に、体が熱を帯びる。こんなの、心が動かない方がおかしくて。揺さぶられて、感情を見透かされて、俺は無意識に呟いていた。
「は、い」
その言葉に、満足そうに笑った夏川は、その勢いのまま俺の襟を掴む。あの時と一緒だと思った瞬間には、もう既に唇に柔らかいものが触れていた。
「いつか、ちゃんと好きだって言わせるから。覚悟してなさいよ」
「…は、はい」
俺はもうそれ以上、何も言うことは出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる