神様自学

灰被りのmagic 爽

冷たいくらいの静寂が、辺りを支配する。アタシの胸はドキドキとうるさくて、けれど手足は冷え切っている。頭の何処かが冷静で、心臓ばかりが熱くなる。

"全部伝えて大丈夫なの？"
"大丈夫"
"予防線を張りなよ"
"嫌だ"
"友達にすら戻れなくなるよ"
"構わない"

そんな問答が、ずっと頭の中で繰り返されている。臆病で今にも逃げ出したいと叫ぶ弱い心と、全てをかなぐり捨ててでも伝えたいと決めた覚悟がせめぎ合う。

"今にも目を逸らしたい"
"逸らしちゃだめ"
"怖い"
"知ってる、当たり前"

それでもアタシは、前に進みたい。いつまでも依存して縋っていては駄目だって分かったから。亜美のことを諦めたら、アタシのことを見てくれるなんて絵空事、ずっと信じていたアタシが馬鹿だった。ただひたすら待ち続けて幸せが訪れるのはおとぎ話の中だけの話だ。毎日一生懸命生きているだけで王子様が見つけ出してくれるなんて、そんなこと現実にはあり得ない。だって、ガラスの靴を落としたあの少女も、最初に見つけ出してくれたのは王子様なんかじゃない。助けてくれたのは、手を差し伸べてくれたのは、魔法使いだった。
アタシにとっての魔法使いは2人。
ずっとそばにいて、いつだってアタシのことを大切にしてくれた亜美。
ぐちゃぐちゃになった恋心に気付いて背中を押してくれた、夕音。
そして少女は、待ち続けるなんてしなかった。綺麗な姿に変わった彼女は、魔法使いの助けを借りながらも自ら足を踏み出したのだ。動いたのは王子様じゃない、シンデレラの方。それならアタシだって、側にいることに甘えてないで動き出さなくちゃ。光のいる場所に、光の心の中に飛び込んで、アタシを見てって叫ばなきゃ。
アタシは今、2人の魔法を借りてここに居るんだから。
「え、っと」
震えた光の声が耳に届く。反射的に体が震えて、それらを振り払うように真っ直ぐ見つめた。

「ごめん」

その言葉は温度を失って、アタシの脳裏に落ちてくる。息が詰まって、必死に押さえつけていた臆病な心が「ほら見ろ」と嘲笑う。冷え切った全身から凍るように血の気が引いていき、上手く息が吸えない。覚悟していても、突き付けられる言葉は痛い。けれど泣かないように気を付けて何か言葉を返そうとしたら、光は焦ったように手を振って必死に言い募った。
「あ、違っ。待って、違う、そうじゃない！そうじゃ、ない。上手く言葉に出来ないから、ごめんって意味で。なんて言えばいいのか、ちょっとわからなくて。待って、くれ」
早口で捲し立てられる言葉に驚いて、ぱちぱちと目を瞬く。クリアになった視界で見れば、光は耳まで顔を赤くして、ぐるぐると視線を彷徨わせていた。
そんな顔、見たことない。
少しだけ優越感に浸ったアタシは、自然と口から言葉が零れていた。
「うん。待ってる」
こくりと頷いた後、無意識に口角が上がった気がした。