神様自学

天ノ谷 霙

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3月15日 約束

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羅樹の柔らかな眼差しが、私に注がれる。昼過ぎの温かく静かな日差しが心地良い。羅樹と合わせた目が動かせなくて、私は呼吸が上手く出来なかった。
「それが、夕音だよ」
「…え?」
「泣いてる子が放っておけなくて、自分のことなんて二の次にして、目の前の子を助けようと頑張る女の子。それが、夕音。僕のヒーロー」
小さい頃に言われたのと同じように、羅樹は同じ言葉を繰り返す。私のことをヒーローだと称する。そう言われる度に、私は羅樹のヒーローでありたいと心から願うようになり、行動に移す。私と羅樹の間を巡る、思考と行動の循環。
「だから、先に謝っておく。ごめんね」
「?」
「僕、夕音が"誰かを助けたい"って飛び込んで行ったら、きっと止められない。そうやって頑張る夕音が好きだから、僕はきっと見惚れて動けない」
「…あ」
羅樹の謝罪は、私がさっき願ったことを叶えられないという意味だった。また羅樹を苦しめた時と同じように動いてしまったなら、あちらの世に飛び込んでしまいそうになったら、止めてほしいという願い。自分勝手だけれど、1番守れそうな約束だと思った。そして、羅樹に断られるなら訝しがられた後かもしれないと考えていた。けれど羅樹は、私の言葉を受け入れて理解した上で、信じた上で「出来ない」と言った。それが私だから、動いてしまうのが私だから。そんな私を好きになったから。
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。

苦しい?痛い?──違う。

この気持ちは、"嬉しい"だ。

「だから夕音、約束して。必ず帰って来るって。僕の隣に戻って来るって」
「う、うん。する。羅樹のところに帰って来る。大好きな羅樹のところに」
自然と言葉が零れた。笑みも零れた。羅樹が笑うのが嬉しくて、私もくすぐったい気持ちになった。
「…じゃあ約束、ちゃんと交わそう」
「え?あ、うんっ。えっと」
羅樹の言葉に、私は小指を差し出す。子供みたいなやり方だけど、きっと触れた温もりは私の中に残るから。そう言って上げた右手は羅樹の左手に包まれて、指切りなんて出来そうになかった。
「…羅樹?」
「約束、だよ」
「ら、っ!」
小指を絡める代わりに触れたのは、熱い熱い唇同士だった。頭の形に合わせて這わされた手が、しゃらしゃらと髪を揺らして音を立てる。驚く暇もなく掬い取られた唇は熱すぎる羅樹の体温を溶かして、私へと伝えて来る。苦しくなって合わせた手を動かせば、一瞬だけ離れてまた閉じ込められる。繰り返された口付けは、どんな約束よりも忘れられない、熱い記憶となった。
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