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3月15日 母の心、子は知れず?
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トントントン、と優しい音がする。何となく手持ち無沙汰でお母さんの手元を覗き込めば、人参が細かく切られていた。手早く小さなサイズに切られた野菜は次から次へと鍋の中に放り込まれ、じっくりと芯まで柔らかく煮込まれていく。
「なぁに、手伝ってくれるの?」
「…手伝ってもいいけど、邪魔にならない?」
「そうねぇ、それはわからないわねぇ」
「…お皿とか用意するよ」
「お願い」
特に不器用ではないと言いたいところだが、お母さんの手捌きに入り込める程ではない。小さい頃は手伝いを買って出ては邪魔してしまう、ということを繰り返して来たこともあって、あまり料理中に手を出したくない。そんな娘の複雑な気持ちを知ってか知らずか、母はくすくすと笑いながら料理を進めていく。私は言われた調味料や具材を渡したり、皿を用意したりといった役に従事することにした。
「ふふっ」
「何?」
「いやぁ、羅樹くんが寝込んでて夕音が元気って珍しいなと思って」
「確かに、初めてかも」
思い返して見ても、私が元気で羅樹が寝込むといった状況に心当たりはない。羅樹は風邪すら滅多に引かないし、私は1年元気に過ごしたことがあるかと言われれば首を傾げてしまう程には体調を崩して来た。小さい頃と最近のように頻繁にではないが、それでも時折無理が祟ったかのように体調不良に見舞われるのだ。
そんな過去を思い出していると、お母さんも思い出したのか目を細めて小さく微笑んだ。
「懐かしいわね。昔、夕音が体調を崩して学校を休んだ日に、帰ってすぐに羅樹くんが家に来たことがあって」
「うん?」
「あの日は、確か夕音が神社に行ったすぐ後で。きっと何か思うところがあったんでしょうね」
思わず息を呑んだ。鍋を見るお母さんの横顔を振り返ると、一瞬酷く遠くに行ってしまったかのように見えて。呟かれたその出来事は、恐らく否守様の元で見た、羅樹のトラウマのことだろう。私が消えるのを目の前で見た羅樹が、私を探して泣き叫んだあの出来事。あの記憶には、お母さんも出て来た。羅樹を抱き締めて、慰めていた。その体が震えていたのを、私は記憶として見て来た。
無意識的に手が震えたが、お母さんは気付かずにふっと頬を緩めた。その表情には恐怖心など浮かんでいない。
「けど、羅樹くんは強い子ね。夕音を任せたいって心から思ったのよ」
「…え??」
「ふふっ、孫の顔が楽しみだわ」
揶揄うように言われて、私は反射的に顔を赤らめた。
「知らないっ!!」
勢いに任せて皿を置いた。
「なぁに、手伝ってくれるの?」
「…手伝ってもいいけど、邪魔にならない?」
「そうねぇ、それはわからないわねぇ」
「…お皿とか用意するよ」
「お願い」
特に不器用ではないと言いたいところだが、お母さんの手捌きに入り込める程ではない。小さい頃は手伝いを買って出ては邪魔してしまう、ということを繰り返して来たこともあって、あまり料理中に手を出したくない。そんな娘の複雑な気持ちを知ってか知らずか、母はくすくすと笑いながら料理を進めていく。私は言われた調味料や具材を渡したり、皿を用意したりといった役に従事することにした。
「ふふっ」
「何?」
「いやぁ、羅樹くんが寝込んでて夕音が元気って珍しいなと思って」
「確かに、初めてかも」
思い返して見ても、私が元気で羅樹が寝込むといった状況に心当たりはない。羅樹は風邪すら滅多に引かないし、私は1年元気に過ごしたことがあるかと言われれば首を傾げてしまう程には体調を崩して来た。小さい頃と最近のように頻繁にではないが、それでも時折無理が祟ったかのように体調不良に見舞われるのだ。
そんな過去を思い出していると、お母さんも思い出したのか目を細めて小さく微笑んだ。
「懐かしいわね。昔、夕音が体調を崩して学校を休んだ日に、帰ってすぐに羅樹くんが家に来たことがあって」
「うん?」
「あの日は、確か夕音が神社に行ったすぐ後で。きっと何か思うところがあったんでしょうね」
思わず息を呑んだ。鍋を見るお母さんの横顔を振り返ると、一瞬酷く遠くに行ってしまったかのように見えて。呟かれたその出来事は、恐らく否守様の元で見た、羅樹のトラウマのことだろう。私が消えるのを目の前で見た羅樹が、私を探して泣き叫んだあの出来事。あの記憶には、お母さんも出て来た。羅樹を抱き締めて、慰めていた。その体が震えていたのを、私は記憶として見て来た。
無意識的に手が震えたが、お母さんは気付かずにふっと頬を緩めた。その表情には恐怖心など浮かんでいない。
「けど、羅樹くんは強い子ね。夕音を任せたいって心から思ったのよ」
「…え??」
「ふふっ、孫の顔が楽しみだわ」
揶揄うように言われて、私は反射的に顔を赤らめた。
「知らないっ!!」
勢いに任せて皿を置いた。
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