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"同じ過ちを繰り返すつもりですか"
静まり返った部屋に、凛とした声が響く。その声は聞き覚えがあって、そしてどうしても私の声に似ていた。りん、りん、と鈴のような鉄の擦れるもののような音が等間隔に響く。何かの影が過るけれど、私はそれを思考に捉えることは出来なかった。
金の糸が暗闇によく映える。
それは髪のようで、重力などないかのように黒の中に揺らめいている。
"私の管轄が何か、貴方もご存知の筈でしょう。彼女と感覚を共有しているのなら"
話し掛けている相手は誰なのだろうか。私からは視線が逸れているような気がして、無意識に顔を動かす。話し手の視線は愚か、顔も姿も曖昧にしか認識出来ないのに、どうしてそう思うのだろうか。
なんだか嫌な予感がする。
『存じ上げております。我らの地で、貴方様の存在とその力を知らぬ愚か者はおりません』
その声を、私は知っていた。いつもと口調は違うけれど、間違いなく知っている。
───稲荷、様。
私達の世で豊穣を司る、人を、恋を知りたいと私を使に命じた神様。人と恋に落ち狂ってしまった、姉と慕う虹様を少しでも理解したいと行動した優しい方。そんな方がこんなにも丁寧な口調を使う相手なんて限られている。ヒトな訳がない。同等な神様である筈もない。姉と慕う虹様にだって、稲荷様は敬語なんてほとんど使わなかった。考えられるのは、稲荷様より高位の存在。私はその存在に、一つだけ心当たりがあった。
私がその力が何に振るわれるかを知っていて、私と稲荷様の関係を知るもの。
否守様。
微かに動いた唇が私のものなのか、それとも他の何かなのかすら判別がつかない。ただ空気を伴って溢れたそれははっきりと否守様には届いたようで。
いつかと同じように、自分が何処にいるかも曖昧な私に向けて否守様が微笑む。その瞬間、金の糸はその地に根付くように形を固定し、白の輪郭は凪いだ水面のように揺らめきを止めた。
『来たのですね。そう。ヒトであるにはあまりにも強すぎる、貴方は』
さっきのように空間中に広がる声ではなく、私に向けて囁かれる言葉。けれどそれは私を見透かしたその奥に向いているかのようで、なんとも居心地が悪い。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、否守様は私から視線を外す。その先には先程まで何もなかった筈なのに、今は真っ直ぐに否守様を見つめる稲荷様が立っている。酷く険しい顔をして。
"姉と同じ末路も、過去と同じ1人への執着も。やがては身を滅ぼすぞ、稲荷"
聞いたこともない低い声で、否守様は稲荷様へ言葉を向けた。
静まり返った部屋に、凛とした声が響く。その声は聞き覚えがあって、そしてどうしても私の声に似ていた。りん、りん、と鈴のような鉄の擦れるもののような音が等間隔に響く。何かの影が過るけれど、私はそれを思考に捉えることは出来なかった。
金の糸が暗闇によく映える。
それは髪のようで、重力などないかのように黒の中に揺らめいている。
"私の管轄が何か、貴方もご存知の筈でしょう。彼女と感覚を共有しているのなら"
話し掛けている相手は誰なのだろうか。私からは視線が逸れているような気がして、無意識に顔を動かす。話し手の視線は愚か、顔も姿も曖昧にしか認識出来ないのに、どうしてそう思うのだろうか。
なんだか嫌な予感がする。
『存じ上げております。我らの地で、貴方様の存在とその力を知らぬ愚か者はおりません』
その声を、私は知っていた。いつもと口調は違うけれど、間違いなく知っている。
───稲荷、様。
私達の世で豊穣を司る、人を、恋を知りたいと私を使に命じた神様。人と恋に落ち狂ってしまった、姉と慕う虹様を少しでも理解したいと行動した優しい方。そんな方がこんなにも丁寧な口調を使う相手なんて限られている。ヒトな訳がない。同等な神様である筈もない。姉と慕う虹様にだって、稲荷様は敬語なんてほとんど使わなかった。考えられるのは、稲荷様より高位の存在。私はその存在に、一つだけ心当たりがあった。
私がその力が何に振るわれるかを知っていて、私と稲荷様の関係を知るもの。
否守様。
微かに動いた唇が私のものなのか、それとも他の何かなのかすら判別がつかない。ただ空気を伴って溢れたそれははっきりと否守様には届いたようで。
いつかと同じように、自分が何処にいるかも曖昧な私に向けて否守様が微笑む。その瞬間、金の糸はその地に根付くように形を固定し、白の輪郭は凪いだ水面のように揺らめきを止めた。
『来たのですね。そう。ヒトであるにはあまりにも強すぎる、貴方は』
さっきのように空間中に広がる声ではなく、私に向けて囁かれる言葉。けれどそれは私を見透かしたその奥に向いているかのようで、なんとも居心地が悪い。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、否守様は私から視線を外す。その先には先程まで何もなかった筈なのに、今は真っ直ぐに否守様を見つめる稲荷様が立っている。酷く険しい顔をして。
"姉と同じ末路も、過去と同じ1人への執着も。やがては身を滅ぼすぞ、稲荷"
聞いたこともない低い声で、否守様は稲荷様へ言葉を向けた。
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