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3月17日 何もしたくない
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長い、長い眠りだった。深く、重く、水底に揺蕩うかのように溶け落ちていた。
目を覚ますと、そこは私の部屋で。ぼんやりと覚醒した私の頭は、昨日の出来事を遡る。
昨日、唐突に私の中から全ての神力が抜かれ、同時に稲荷様との繋がりを断たれた。手を振り下ろしても"恋使"にはなれず、視界からヒトではない、この世のものではない何かは消え去っていた。
力の入らない手をもう1度振り下ろす。しかし変化は訪れる様子すらなく、ただ布団に勢いよく手を置いただけになった。
やはりか、と嘆息し続きを思い出す。
あの後母に縋って泣き腫らした私は、風邪や体調不良の時と同じ対応を受けた。ざっと汗を流し着替えると、すぐにベッドに横になる。枯れ果てたように涙も出て来なかったので、私は何も考えたくなくてすぐに眠りについたのだ。
枕元に置いてある携帯を手に取る。時刻は13時過ぎ。1週間の睡眠を体験した私は特に長いなとも思わなかったが、そういえば今日は平日ではなかったかと思い直す。
「あら、起きたの?」
ノック音が響いて、お母さんが入って来る。視線を上げれば、穏やかな笑みが私に向けられていた。
その瞬間、また涙腺が決壊しそうになる。
そんな私の背を撫でて、お母さんが語りかけるように優しく話し出した。
「最近、夕音は羅樹くんの為に頑張っていたし、その前々から体調を崩しがちだったでしょう?ずっと頑張って来たから、疲れが出たのかもしれないね」
そのトーンが酷く優しくて、涙が出て来た。歯を食いしばって涙声を堪えれば、俯いた私の頭を温かい手が撫でる。
「それに、羅樹くんがこんなに体調を崩したのは珍しいかったし、不安になったのかもしれないね」
利羽にも似たようなことを言われた。いつも体調が悪いのは自分だから、親しい人が苦しんでるのを見ると怖くならないかと。確かに怖かったし不安になったが、今回の体調不良は違う。今まであったものを失ったことによる、精神的なものだ。
そう思いながらも口にすることは出来ない。私がヒトならざるモノを見ていたことは、羅樹と蓮乃くんしか知らないからだ。
「…羅樹、は?」
昨日まで大事を取って休んでいた想い人の名前を出す。お母さんは困ったように微笑んで、私の頭をまた撫でた。
「もう元気になって、今日から学校に行くって。夕音を凄く心配してたから、今日はすぐ帰って来るかもね」
「…」
頷く度に、ぽたぽたと布団に染みが落ちる。それが私の涙だと気付いているのに、それを拭うことも止めることも出来ず、ただ黙って眺めていた。
「もう少し寝る?それとも何か食べる?」
聞かれて、何もしたくなくて首を横に振る。それでもただ傍にいて欲しくて、引き留めるように掌に頭を擦り付けた。
お母さんは困ったように笑いながらも、何も言わずに黙って頭を撫で続けてくれた。
目を覚ますと、そこは私の部屋で。ぼんやりと覚醒した私の頭は、昨日の出来事を遡る。
昨日、唐突に私の中から全ての神力が抜かれ、同時に稲荷様との繋がりを断たれた。手を振り下ろしても"恋使"にはなれず、視界からヒトではない、この世のものではない何かは消え去っていた。
力の入らない手をもう1度振り下ろす。しかし変化は訪れる様子すらなく、ただ布団に勢いよく手を置いただけになった。
やはりか、と嘆息し続きを思い出す。
あの後母に縋って泣き腫らした私は、風邪や体調不良の時と同じ対応を受けた。ざっと汗を流し着替えると、すぐにベッドに横になる。枯れ果てたように涙も出て来なかったので、私は何も考えたくなくてすぐに眠りについたのだ。
枕元に置いてある携帯を手に取る。時刻は13時過ぎ。1週間の睡眠を体験した私は特に長いなとも思わなかったが、そういえば今日は平日ではなかったかと思い直す。
「あら、起きたの?」
ノック音が響いて、お母さんが入って来る。視線を上げれば、穏やかな笑みが私に向けられていた。
その瞬間、また涙腺が決壊しそうになる。
そんな私の背を撫でて、お母さんが語りかけるように優しく話し出した。
「最近、夕音は羅樹くんの為に頑張っていたし、その前々から体調を崩しがちだったでしょう?ずっと頑張って来たから、疲れが出たのかもしれないね」
そのトーンが酷く優しくて、涙が出て来た。歯を食いしばって涙声を堪えれば、俯いた私の頭を温かい手が撫でる。
「それに、羅樹くんがこんなに体調を崩したのは珍しいかったし、不安になったのかもしれないね」
利羽にも似たようなことを言われた。いつも体調が悪いのは自分だから、親しい人が苦しんでるのを見ると怖くならないかと。確かに怖かったし不安になったが、今回の体調不良は違う。今まであったものを失ったことによる、精神的なものだ。
そう思いながらも口にすることは出来ない。私がヒトならざるモノを見ていたことは、羅樹と蓮乃くんしか知らないからだ。
「…羅樹、は?」
昨日まで大事を取って休んでいた想い人の名前を出す。お母さんは困ったように微笑んで、私の頭をまた撫でた。
「もう元気になって、今日から学校に行くって。夕音を凄く心配してたから、今日はすぐ帰って来るかもね」
「…」
頷く度に、ぽたぽたと布団に染みが落ちる。それが私の涙だと気付いているのに、それを拭うことも止めることも出来ず、ただ黙って眺めていた。
「もう少し寝る?それとも何か食べる?」
聞かれて、何もしたくなくて首を横に振る。それでもただ傍にいて欲しくて、引き留めるように掌に頭を擦り付けた。
お母さんは困ったように笑いながらも、何も言わずに黙って頭を撫で続けてくれた。
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