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時の操作
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「単刀直入に言うわ」
虹様が、目の前にいる時の神に真剣な目を向ける。私と羅樹は少し後ろに下がって、虹様のことを見つめていた。
「少しヒトの時間を遅らせてほしい」
「…なるほど」
虹様の要望に、時の神は納得と共に困ったような表情を浮かべる。組んでいた指を解いて、今度は腕を組んだ。
「確かに同じ内容を少し前に稲荷、君の妹から聞いたよ。その時は、君の凶行を止めるためと聞いたが」
「えぇ、そうよ。アレは私が狂った故の悲劇。もう少しで堕ちるところだった私の責。だから私は今神格を落とされているけれど…天女神様の思し召しでヒトに付いて贖ってるのよ」
「あぁ、それで。神格は落ちたと言えど、流石古参だね。格はほぼ変わってないじゃないか」
「今は彼女を守るために保証されてるのよ」
「ふぅん?それで、その彼女は何をしたの?」
「何もしてないわ」
「…」
時の神の顔が面白そうに歪む。虹様は溜め息を吐いて、続きを口にした。
「彼女は稲荷の元使。昔と同じように関わって、ヒトとしての幸せを奪いたくないと怯えて、一方的に突き放したのよ」
「はぁ~、変わらないね、稲荷も」
「そうなの。けど一方的な断ち切りは公平じゃないから。彼女の願いの為に、こちらへ」
「願い?」
2柱の視線が私に向く。一瞬怯んだが、虹様の視線が穏やかであることに気付いて、すぐに緊張を解いた。
「私、稲荷様に怒りに来たんです。勝手に私の幸せを決めつけないでほしい、相談してほしかったって。あの時の恐怖を、不安を、一言文句でも言ってやらないと気が済まないんです」
きっと、正しく地位を認識するならば。
私のこの言葉は、不敬なんてもので済まない程に一瞬で首を斬り落とすものだっただろう。
けれどヒトはいつの世も傲慢なのだ。
他人と少し違う容姿という、たったそれだけの理由で排斥された世界から逃げたいと願った少女は、神の使となることを選んだ。
ある日出会った相手を永遠に愛し貫き通した少年は、その相手を誰が知らずとも死後の世界で愛し続けた。
神を相手取らなくとも、私達はいつだって自分の欲に正直だ。好きな相手に振り向いてほしいし、好きな人の好きな人は憎いし、ただただ好意を聞いてほしいし、何がなくとも好きな人には側にいてほしい。
全部全部、人の欲だ。ヒトが人である為の、傲慢で不遜な役の数々である。
だから私もそれに倣って笑う。神が私達を生み出したのなら、私達人間を管理するモノなのならば、その監督責任として私達の欲を律し昇華して見せよと。
一瞬で首を薙がれても、魂と成り果てても私は動き続けるだろう。
そう決意を込めて真っ直ぐに見れば、時の神ははぁと深い息を吐いた。
「君といい稲荷といい、本当にそっくりだな。同じようにヒトと相互的に関連する奴ら皆に連絡しなければならないというのに」
それは遠回しな了承で。案外神は自身に向けられた感情を気にしないようだ。それもそうだろう。家族を叩き殺された虫が復讐の為にその人間の首を狙おうとも、成せることなどほとんどないのだから。
こうして私と羅樹は此方にいる間、本当の世界の時間を気にしないで良くなったのだった。
虹様が、目の前にいる時の神に真剣な目を向ける。私と羅樹は少し後ろに下がって、虹様のことを見つめていた。
「少しヒトの時間を遅らせてほしい」
「…なるほど」
虹様の要望に、時の神は納得と共に困ったような表情を浮かべる。組んでいた指を解いて、今度は腕を組んだ。
「確かに同じ内容を少し前に稲荷、君の妹から聞いたよ。その時は、君の凶行を止めるためと聞いたが」
「えぇ、そうよ。アレは私が狂った故の悲劇。もう少しで堕ちるところだった私の責。だから私は今神格を落とされているけれど…天女神様の思し召しでヒトに付いて贖ってるのよ」
「あぁ、それで。神格は落ちたと言えど、流石古参だね。格はほぼ変わってないじゃないか」
「今は彼女を守るために保証されてるのよ」
「ふぅん?それで、その彼女は何をしたの?」
「何もしてないわ」
「…」
時の神の顔が面白そうに歪む。虹様は溜め息を吐いて、続きを口にした。
「彼女は稲荷の元使。昔と同じように関わって、ヒトとしての幸せを奪いたくないと怯えて、一方的に突き放したのよ」
「はぁ~、変わらないね、稲荷も」
「そうなの。けど一方的な断ち切りは公平じゃないから。彼女の願いの為に、こちらへ」
「願い?」
2柱の視線が私に向く。一瞬怯んだが、虹様の視線が穏やかであることに気付いて、すぐに緊張を解いた。
「私、稲荷様に怒りに来たんです。勝手に私の幸せを決めつけないでほしい、相談してほしかったって。あの時の恐怖を、不安を、一言文句でも言ってやらないと気が済まないんです」
きっと、正しく地位を認識するならば。
私のこの言葉は、不敬なんてもので済まない程に一瞬で首を斬り落とすものだっただろう。
けれどヒトはいつの世も傲慢なのだ。
他人と少し違う容姿という、たったそれだけの理由で排斥された世界から逃げたいと願った少女は、神の使となることを選んだ。
ある日出会った相手を永遠に愛し貫き通した少年は、その相手を誰が知らずとも死後の世界で愛し続けた。
神を相手取らなくとも、私達はいつだって自分の欲に正直だ。好きな相手に振り向いてほしいし、好きな人の好きな人は憎いし、ただただ好意を聞いてほしいし、何がなくとも好きな人には側にいてほしい。
全部全部、人の欲だ。ヒトが人である為の、傲慢で不遜な役の数々である。
だから私もそれに倣って笑う。神が私達を生み出したのなら、私達人間を管理するモノなのならば、その監督責任として私達の欲を律し昇華して見せよと。
一瞬で首を薙がれても、魂と成り果てても私は動き続けるだろう。
そう決意を込めて真っ直ぐに見れば、時の神ははぁと深い息を吐いた。
「君といい稲荷といい、本当にそっくりだな。同じようにヒトと相互的に関連する奴ら皆に連絡しなければならないというのに」
それは遠回しな了承で。案外神は自身に向けられた感情を気にしないようだ。それもそうだろう。家族を叩き殺された虫が復讐の為にその人間の首を狙おうとも、成せることなどほとんどないのだから。
こうして私と羅樹は此方にいる間、本当の世界の時間を気にしないで良くなったのだった。
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