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9月19日 30分前の準備
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『ただいまより、一般公開を開始致します』
そんなアナウンスが聞こえて、クラスが盛り上がる。
「最初の公演はいつだっけー?」
「11時からだよー!10時半には来といてねー!」
「じゃあ30分しかないのか!」
「遊ぶならサクサクっと行ってこーい」
ざわざわと話し声で教室中が包まれる。教室のドアに「立入禁止」と書かれたポスターを貼った後、私は小物類を出している亜美を手伝う。
「ありがとう夕音。でも遊びに行ってきて良いんだよ?」
「いいよ。どうせ30分しかないし」
「そっか、ありがとう」
クラスメイトはほとんどが遊びに行って、数人が残っている形となった。
「…私は、貴方に…」
ふと声が聞こえたので顔を上げると、窓際で利羽が台本を読んでいた。ぼろぼろになった台本。何度も何度も練習したのが分かる、努力の滲んだ台本だった。
「利羽ちゃんの声さ」
亜美が利羽の練習を邪魔しないように小さな声で言う。亜美の切り出し方に、少しドキッとした。
「凄く綺麗だよね。凛々しいところと優しいところと、切り替えがはっきりしてるし」
「…うん、そうだね」
良かった。主役の利羽を認めてくれる人がいる。悪意以外のものが利羽に向けられている。
風に揺れる髪を押さえながら、利羽が振り向く。私と亜美に気付いて、こちらの方へ来た。
「何してるの?」
「小物とかの準備だよ。後だと多分ごちゃごちゃするだろうから」
「私も手伝うわ」
「いいの?練習は?」
「多分大丈夫。手伝わせて」
「じゃあお願いしようかな、ありがとう」
3人でやったおかげで、あっという間に終わった。途中で亜美が自販機に行って、ジュースを買って来てくれたので、それを飲みながらおしゃべりをする。
「手芸部凄いよね。利羽の衣装、きらきらしてる」
「ね。ドレスなのに動きやすくて、綺麗で…」
「夕音のは動きやすさ重視なのに、かっこいいよね」
「亜美の衣装は可愛いね」
手芸部の話をしていると、ちょうど本人、千夏が教室に入ってきた。
「あれ、3人ともお揃いで。何してるの?」
「手芸部凄いねって話してたんだ!」
「え?どういうこと?」
「準備が大体終わったから、衣装の話してたの」
「動きやすさの中に、綺麗とか可愛いとかがちゃんと込められてて、凄いなぁって」
「あー、ありがとう。今度部員に言っておく。ちなみに利羽ちゃんのは私の作品だよ」
「そうなの?このドレス、細かいところまで刺繍が施されていて、縫い目は分かりづらくて…この作者さんは繊細で丁寧で、優しい人なんだろうなって思ってたのよね」
「あってるよね」
「あってるね」
「やめて!ドレスを通して私を褒めないで!ドレスを褒めて!」
恥ずかしそうに千夏は顔を隠す。それに対して利羽や亜美がまだまだからかおうとしてるのが見えた。
何気ない会話の1つなんだけど、すごく楽しくて、微笑ましい。
そんなことを思っていると、ドアが開いて数人が入ってきた。時計を確認すると、10時半だった。
そんなアナウンスが聞こえて、クラスが盛り上がる。
「最初の公演はいつだっけー?」
「11時からだよー!10時半には来といてねー!」
「じゃあ30分しかないのか!」
「遊ぶならサクサクっと行ってこーい」
ざわざわと話し声で教室中が包まれる。教室のドアに「立入禁止」と書かれたポスターを貼った後、私は小物類を出している亜美を手伝う。
「ありがとう夕音。でも遊びに行ってきて良いんだよ?」
「いいよ。どうせ30分しかないし」
「そっか、ありがとう」
クラスメイトはほとんどが遊びに行って、数人が残っている形となった。
「…私は、貴方に…」
ふと声が聞こえたので顔を上げると、窓際で利羽が台本を読んでいた。ぼろぼろになった台本。何度も何度も練習したのが分かる、努力の滲んだ台本だった。
「利羽ちゃんの声さ」
亜美が利羽の練習を邪魔しないように小さな声で言う。亜美の切り出し方に、少しドキッとした。
「凄く綺麗だよね。凛々しいところと優しいところと、切り替えがはっきりしてるし」
「…うん、そうだね」
良かった。主役の利羽を認めてくれる人がいる。悪意以外のものが利羽に向けられている。
風に揺れる髪を押さえながら、利羽が振り向く。私と亜美に気付いて、こちらの方へ来た。
「何してるの?」
「小物とかの準備だよ。後だと多分ごちゃごちゃするだろうから」
「私も手伝うわ」
「いいの?練習は?」
「多分大丈夫。手伝わせて」
「じゃあお願いしようかな、ありがとう」
3人でやったおかげで、あっという間に終わった。途中で亜美が自販機に行って、ジュースを買って来てくれたので、それを飲みながらおしゃべりをする。
「手芸部凄いよね。利羽の衣装、きらきらしてる」
「ね。ドレスなのに動きやすくて、綺麗で…」
「夕音のは動きやすさ重視なのに、かっこいいよね」
「亜美の衣装は可愛いね」
手芸部の話をしていると、ちょうど本人、千夏が教室に入ってきた。
「あれ、3人ともお揃いで。何してるの?」
「手芸部凄いねって話してたんだ!」
「え?どういうこと?」
「準備が大体終わったから、衣装の話してたの」
「動きやすさの中に、綺麗とか可愛いとかがちゃんと込められてて、凄いなぁって」
「あー、ありがとう。今度部員に言っておく。ちなみに利羽ちゃんのは私の作品だよ」
「そうなの?このドレス、細かいところまで刺繍が施されていて、縫い目は分かりづらくて…この作者さんは繊細で丁寧で、優しい人なんだろうなって思ってたのよね」
「あってるよね」
「あってるね」
「やめて!ドレスを通して私を褒めないで!ドレスを褒めて!」
恥ずかしそうに千夏は顔を隠す。それに対して利羽や亜美がまだまだからかおうとしてるのが見えた。
何気ない会話の1つなんだけど、すごく楽しくて、微笑ましい。
そんなことを思っていると、ドアが開いて数人が入ってきた。時計を確認すると、10時半だった。
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