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13.我が輩は石である。一縷の望みも無い石である。
しおりを挟む オママゴトという遊びは偉大である。
我が輩は石である。名前など有るはずが無い。
諸姉諸兄諸君。
お察しの通りだ。
もはや何も言うまい。
危うく隣近所の石に名前を付けて、一人オママゴトに興じるところであった。
「おはよう、マイク!」「おはよう、エリー! 今日も良い天気だね!」「ハハッ!」
この遊びは危険だ。
いよいよ、頭がおかしくなる。
否、おかしくなる頭は、もうないのだった。
さて、ここまで来たら諦めることが上手くなってきた。
無理なものは無理。
この言葉を生前の自分に使えていたら、もう少し楽な地獄に逝けたのだろうか。
やれば出来る、は試さなかった。
やらなくても出来ることを探していたのだ。
その結果、ニートをやっていたわけだが。
魂の知覚の論説は概ね正しかったらしい。
魂を意識した世界への知覚は、少しずつ広がりを見せていた。
周囲の石、樹木、川。
鳥、動物、魔物、ドラゴン。
全て、魂が存在する。
この知覚が、我が輩の世界を外へと膨らませていった。
残念ながら、我が輩の魂の呼びかけに答える魂は無かったが、魂同士は繋がり、広がってくれたのだ。
知覚の共有とも言うべき現象である。
嗚呼、我が輩は唯の石であるが、決して世界に拒まれてはいなかった。
人間の身体なら、この感動に噎び泣いたことだろう。
やがて、我が輩は人間の集落を知覚する事に成功した。
一言でいうなら中世の文化水準であろうか。
端的に言えば、電気が無い。
ただ、それだけである。
家の作りは、木造に土壁、茅葺き屋根と見受けられる。
田畑が見える。
農村のようだ。
我が輩の推論ではここは地獄だというのに、随分と様になった村だ。
今は春先なのだろうか、田んぼに水を張っている。
我が輩が元日本人だから、日本風な異世界に来ているのだろうか。
それとも、我が輩の魂は現代日本の過去に遡ったのだろうか。
否、それは有るまい。
夜の月が証明している。
この世界の月は、常に複数浮かぶのだ。
同時に我が輩が唯の石であることを、改めて自覚させられた。
男がいた。
女がいた。
少年がいた。
少女がいた。
老人がいた。
老婆がいた。
牛がいた。馬がいた。犬がいた。猫がいた。
ネズミがいた。虫がいた。草花があった。
誰一人、何一つ、我が輩の存在に気付くことは無かった。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
我が輩は石である。名前など有るはずが無い。
諸姉諸兄諸君。
お察しの通りだ。
もはや何も言うまい。
危うく隣近所の石に名前を付けて、一人オママゴトに興じるところであった。
「おはよう、マイク!」「おはよう、エリー! 今日も良い天気だね!」「ハハッ!」
この遊びは危険だ。
いよいよ、頭がおかしくなる。
否、おかしくなる頭は、もうないのだった。
さて、ここまで来たら諦めることが上手くなってきた。
無理なものは無理。
この言葉を生前の自分に使えていたら、もう少し楽な地獄に逝けたのだろうか。
やれば出来る、は試さなかった。
やらなくても出来ることを探していたのだ。
その結果、ニートをやっていたわけだが。
魂の知覚の論説は概ね正しかったらしい。
魂を意識した世界への知覚は、少しずつ広がりを見せていた。
周囲の石、樹木、川。
鳥、動物、魔物、ドラゴン。
全て、魂が存在する。
この知覚が、我が輩の世界を外へと膨らませていった。
残念ながら、我が輩の魂の呼びかけに答える魂は無かったが、魂同士は繋がり、広がってくれたのだ。
知覚の共有とも言うべき現象である。
嗚呼、我が輩は唯の石であるが、決して世界に拒まれてはいなかった。
人間の身体なら、この感動に噎び泣いたことだろう。
やがて、我が輩は人間の集落を知覚する事に成功した。
一言でいうなら中世の文化水準であろうか。
端的に言えば、電気が無い。
ただ、それだけである。
家の作りは、木造に土壁、茅葺き屋根と見受けられる。
田畑が見える。
農村のようだ。
我が輩の推論ではここは地獄だというのに、随分と様になった村だ。
今は春先なのだろうか、田んぼに水を張っている。
我が輩が元日本人だから、日本風な異世界に来ているのだろうか。
それとも、我が輩の魂は現代日本の過去に遡ったのだろうか。
否、それは有るまい。
夜の月が証明している。
この世界の月は、常に複数浮かぶのだ。
同時に我が輩が唯の石であることを、改めて自覚させられた。
男がいた。
女がいた。
少年がいた。
少女がいた。
老人がいた。
老婆がいた。
牛がいた。馬がいた。犬がいた。猫がいた。
ネズミがいた。虫がいた。草花があった。
誰一人、何一つ、我が輩の存在に気付くことは無かった。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
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