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無茶振り上司とマイペース元気っ娘
しおりを挟む――――王国陸軍・アルテマ駐屯地
王都へ来たばかりなのに早速任務へ駆り出されたわたしは、新しい、しかしよく知った上官の執務室へ来ていた。
「着任してすぐに闇ギルドの拠点を撃滅するとは、さすがレンジャー資格保有の精鋭と言われることはあるようじゃの。新たな部下の活躍にわしも感極まっておるぞ」
独特の口調で椅子に座りながら迎えてくれたのは、ブラウンの髪を揺らした華奢な女性左官だった。
この人こそ直属の上司にして、わたしを王国軍へ導いた張本人。
「アルマ・フォルティシア中佐、お久しぶりです。その妙な喋り方は相変わらずですね」
「おや、気になるかえ? おぬしが魔王でも討伐すれば教えてやらんでもないぞ」
「魔王は30年前の大戦で勇者に討伐されてますよ? 教える気ないじゃないですか......」
変わらない人だ。
「鋭いのー」とおどける仕草も、本音なんだか全然掴めない。
けど、わたしはこの人のおかげで軍へ入れた。
「しかしまあ、闇ギルドとはしぶといものよ。今度陸軍の誇る122ミリ砲でも撃ち込んでみるかえ? こないだはゴーレムを10体破壊したらしいぞ」
「まっ、街ごと吹っ飛ばすおつもりですか!?」
「冗談じゃよ冗談、そんなことしたらわしの首も吹っ飛ぶわい」
さりげなく恐ろしいことを言う中佐。なんかこの人本気でやりそうで怖い。
「とにかく、件の闇ギルドが壊滅したのは朗報じゃ。あとは難を免れた残党を狩らぬとな」
こちらを見ながら、上官は背もたれにその流麗な体を預ける。
「そういえば、闇ギルドとは関係ないが最近どこぞと知れぬ外国人が多い気もするのう」
思い出したかのような一言。でも、それはわたしの耳にも届いている話だった。
「黒髪黒目が特徴でしたっけ、確か極東の島国から来てるらしいですよ」
「ふうむ、じゃが東には海ばかりで国なんぞ無かったと思うが。はてさて一体どこから来とる人間かな?」
中佐も分からないんだ。見た目はこの大陸の人間じゃなさそうだし、どこの民族なんだろう。
っていうか言葉とかお金どうしてるのかな。
「ひょっとすると、この世界の人間じゃないかもしれんの~」
万年筆で空を描くフォルティシア中佐。
「またまたご冗談を、別世界からの転移や転生なんて空想上の産物です。それができるのは神くらいでしょう」
「......それもそうじゃな、ああティナ・クロムウェル騎士長、おぬしが王都へ派遣された理由なんじゃが――――」
少し机から身を乗り出す上官。
だが通路を走ってきた騒がしい足音は、そんなフォルティシア中佐の言葉を、扉が勢いよく開かれた騒音となって消し飛ばした。
「第1大隊、クロエ・フィアレス! ただいま演習より戻りましたッ!! いやー対魔法演習は疲れるけど楽しかったよー」
サラサラの黒髪と、吸い込まれるような黒目。笑顔と一緒に出された八重歯が眩しい少女は、わたしと同じ王国軍騎士の制服を着ていた。
って、ここ中佐の執務室なんだからノックくらいした方が......。
「おっ、おお......クロエ・フィアレス1等騎士か、その割にはまだ結構元気そうじゃの」
ヒクヒクと顔を歪ませる中佐、どこかくじかれた感が半端じゃない。
「えっへへー、王国軍騎士は体力が命ですから! ――――ってこの人誰!?」
「それはこっちの台詞よ! 王国軍騎士なら礼節くらいわきまえなさい」
なんなのこの子、見た目は同じ13歳くらいだけど、圧倒的マイペースさを感じる。
「ああ、言い忘れておったわい。その元気っ娘は今日からおぬしとペアを組むクロエ・フィアレスじゃ」
「ペアッ!? 聞いてないですよ中佐! ――――ってちょ!?」
いきなり抱きついてくるクロエ、この娘の羞恥心とかその辺の感覚はどうなってんのよ!
「よろしくティナ。それにしてもティナって良い匂いだね~、ここんとこ野戦ばっかだったから落ち着くよ~」
「ッッッ――――――――!!?? ちょっとクロエさん!?」
バカ! この変態! そんなこと言ったら絶対誤解されるじゃない!
「もしや2人はそういう関係かえ......? まあ別にどうこう言うつもりは無いんじゃが」
「違います! 断じてそんな関係じゃないです!!」
「えー、そんな寂しいこと言わないでほらー」
「なぁーッ! もぉーーー!」
一層くっついてくるクロエを引き剥がすと、たぶん紅潮してるであろう顔をフォルティシア中佐へ向ける。
「もう良いかの?」
「お構いなく!」
残念そうに「そんなー」とぼやくクロエを放置し、中佐へ伺った。
「クロエ・フィアレス1等騎士の飛び込み色々は混乱したが......まあちょうどよい、今日はお主らに頼みたいことがあるんじゃよ」
改まったような言い方、まさかこの5秒後に人生史上最大の胃痛祭りが訪れることを、わたしは知らない――。
「昨今闇ギルドの横行に加え、魔王軍残党による襲撃事件が多発しておる。そこでじゃ! 我々はより柔軟な対応を行うべく即応部隊を編成することとなった! その第一線におぬしらを任命したい」
「......ふえ?」
「ふえ......じゃないわい! おぬしらの実力なら十分いけるであろう。王国を守護する剣となること、期待しておるぞ」
弾けるような笑顔を見せるフォルティシア中佐。
クロエは横で「やったじゃん!」と飛び跳ねているけど、わたしにとっては「今日から毎日残業」と言われたに等しいものなのです。
しかも遊撃隊ってかなり酷使される気がする......。
「まあしばらくは王都で待機じゃて、クロエ・フィアレス1等騎士。せっかくだから街の案内でもしてやったらどうじゃ?」
「了解デース! じゃあティナ、さっそく街巡りに行くよ!」
無茶振り上司とマイペース元気っ娘。わたしの王国軍ライフは......はたしてどうなってしまうのでしょうか。
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