3 / 47
王都名物海軍カレー!
しおりを挟む「まずはここ! 王国海軍アルテマ泊地! 王都に来たならここの海軍カレーを食べなきゃ!!」
黒髪を振ったクロエが基地を指差した。
そこは巨大な三日月形の湾。街に面した南側は民間の貿易港だが、残りの北側は全て王国海軍の艦隊基地として運用されている。
その入り口前、城のように大きな艦艇群が停泊する基地の前にわたしとクロエはいた。
「軍艦ってこんなに大きいんだ、いざ近場で見ると圧倒されるわね」
「でしょ? わたしたちは陸軍だからあんまし馴染みがないけど、普段から王国周辺で制海権の維持を担当してるらしいよ。ほら、あの一際大きいのがダイヤモンド級巡洋戦艦!」
クロエが指差した艦は、2連装主砲が特徴的な戦艦と呼ばれるもの。
他にも巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、掃海艇とズラズラ並んでいるが、正直そういうのにあまり詳しくないので半分スルー。
それよりも、空いたお腹が気になった。
「で、その海軍カレーっていうのは?」
「基地の食堂、じゃあ入ろっか」
ズンズン正門へ進むクロエだけど、そんな気軽に入れるのかな。
そう考えているうちに警備の水兵が来る。
「陸軍第1大隊、クロエ・フィアレスです。海軍カレー食堂は空いてますか?」
「あっ、お疲れ様です。以前の対魔法戦、並びに近接戦闘訓練ではお世話になりました、食堂の方は金曜日なので開いてますよ」
お互いに敬礼を交わし、簡単な受け付けを終えてアッサリ基地内へ。
迷うことなく進むクロエにわたしは思わず尋ねる。
「今の水兵さんって知り合い?」
「面識がある程度かな、前に基地警備隊から対魔導士訓練を依頼された時、格闘術の講師で派遣されたんだ」
最近は魔導士によるテロ行為も散見される、やはり王国軍も警戒してるようだ。
しかも彼女のテンションに振り回されっぱなしでよく見てなかったが、軍服の上にはわたしと種類の違う、けれど一瞬で強さの分かる徽章《きしょう》が輝いていた。
「格闘徽章!? CQC(近接戦闘)の猛者じゃない!」
それは、名の通りあらゆる近接戦闘で優秀な成績を持つ者だけが保持する、軍格闘習熟者の証だ。
「えへへ、わたしって騎士なのに剣とか苦手でさ、自然と素手での格闘スキルが上がっちゃったんだよね。でもティナだってレンジャー徽章持ってるじゃん、わたしよりずっとすごいよ」
レンジャー徽章は30年前に魔王が倒された頃、王国軍の近代化に伴って外国士官によって伝えられた。地獄の訓練過程を修了した騎士だけに着用が認められるバッチのようなものを言う。
勝利の象徴たる月桂冠(げっけいかん)に囲まれた、堅固な意志の象徴であるダイヤモンドで形づくられていて、これを取れれば精鋭騎士と認められる。
わたしが騎士を目指したキッカケだ。
けれど――――
「クロエだってここまで努力して来たんでしょ、そんな卑下するような言い方ダメ」
普段言い慣れてないからか少々噛みかけたが、努力は尊重されるべきだ。
他人によってないがしろにされるものではない。
「ッ......! ありがとッ! やっぱティナって優しいんだね~」
「ちょっと抱きつかないで! そんなんだから中佐に誤解されるのよ!!」
やっぱり付いていけない、わたしはマイペースっ娘に連れられるがまま、海まで見渡せる展望食堂へとやって来た。
停泊する艦艇群や、出港していく巡洋艦、帰港する駆逐艦が一望できる見晴らしの良い食堂だ。
そして、わたしはしばらくして出された海軍カレーなるものにスプーンを入れた。
「あっ......美味しいっ!」
食べてみれば、サラサラ系のカレーでいくらでも食べられるクオリティ。
しかも、心なしか一般のものより具が大きい。
「絶品でしょー? なんとお値段500円! 海軍さんは毎週金曜日がカレーの日らしくて、味も凝ってるんだって」
「へー、なんで金曜日はカレーなの?」
「毎日海の上にいるとさ、今日が何曜日だったかわからなくなっちゃうんだって。だから、魔王討伐後の海軍創設時に、アドバイザーとして雇った外国人士官に導入を勧められたとか」
知らなかった......、このカレーにそんな経緯があったなんて。
見れば、蒼空の下に連なる軍艦。
穏やかな湾内に停泊する巡洋戦艦が、もやいを解いて出港準備を進めていた。
「そうそう、今食べてるカレーライスは、あのダイヤモンド級巡洋戦艦のレシピなんだって」
口元にご飯粒をくっつけたクロエがスプーンで指す。
「ご飯付いてるわよ」
「ホント!? ティナ取ってくれる?」
くっ、言わなければ良かったかな。
抵抗するのもあれだし、使い忘れていたおしぼりでクロエの口元を軽く拭う。
「ティナは釣れないね」
「指ですくって食べるなんてフィクションだと存じなさい」
プッと2人して笑ったところで、大洋へ向かう巡洋戦艦が、響くように力強い汽笛を鳴らして出港した。
◇◇
「プハーッ! 食べた食べたー」
川に面した道の上、満足そうにお腹をさすったクロエがわたしの横を歩いている。
「っていうか、よく3杯も食べれたわね。その小さい体のどこに入ったのよ」
「ティナだってわたしと身長対して変わんないじゃん、あと、大好物っていくらでも食べられない?」
吸い込まれるような黒目でわたしを見つめると、クロエは八重歯を見せた。
「あっ! あの路上販売店の髪飾り可愛い。ごめんティナ、ちょっと見てきていいかな?」
両手を合わせるクロエ、特に急ぎもないので「ここで待ってるわね」とだけ言い、その後ろ姿を見送る。
「髪飾りか......,」
自身の金色の髪を彩るものは特に付いていない、せっかくだしわたしも買ってみようかな。
そして数歩踏み出したとき、わたしは背に嫌な悪寒を覚えた。
「見つけたわよ、ギルドの仇」
「ッ!?」
振り向けば、フードで顔を隠したローブ姿の集団。
格好からしておそらく魔導士、身構えるわたしに先頭の女が腕を組んだ。
「ここじゃなんだろう? 騎士さん。こっちで話そうじゃないか」
指差された先は路地裏、大体察しはつくけど、とりあえず誘導に從う。髪飾りを選びに言ったクロエが一瞬頭をよぎったけど、民間人への被害は避けたい。
着いた先は路地裏ながらそこそこ大きな噴水広場、そこで、女はフードを下ろした。
「っ......! あなたはッ!」
胸をえぐるような記憶が蘇る、眼前の女冒険者は笑みを浮かべた。
「久しぶりだね雑魚剣士、アイテム広いしか取り柄のないお子ちゃまが、随分とやってくれたじゃないか」
忘れるはずもない、この人は――――
「ヴィザード職のシルカ! なんであんたが!」
1年前にわたしを裏切った元パーティーメンバー、特にその中でも性格は最悪だ。
「お前のせいでこっちは金づるが消えちまったんだよ、今朝のってもしかしてあんたの復讐?」
「わたしは職務に従っただけ、恨むなら闇ギルドにしか身を置けなかった自分を恨んで」
シルカは嫌な笑みを浮かべると、仲間に合図らしきものを出す。
ローブ姿の魔導士数人が、杖を手に魔法陣を展開した。
「生意気な口聞くようになったじゃないか、去年あんたはわたしに手も足も出なかったわよね? 雷魔法でいたぶられたの忘れちゃった? 無様に喘ぎながらよだれを垂らす可愛い姿、もう一度見たくなっちゃった」
当時のわたしは本当に人を見る目がなかったのね、こんなやつとパーティーを組んでたと思うと憤慨で死にそう。
今は非番だから剣を持ってない、だけど十分だ。
「ゴチャゴチャうるさいのよ、あんたみたいな目立たない仕事に敬意を払えないような人間が一番嫌いなの」
「ッ......!! 雑魚女が!! 上位職の力を見せてやるわ」
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
NagiKurou
ファンタジー
「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」
国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。
しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。
「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」
管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。
一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく!
一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。
スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。
夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。
しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた!
ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。
噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。
一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。
これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる