魔法王国軍の日常 〜上級冒険者に追放された少女は、レベル0から本気で生き抜いてやると決意したようです〜

たにどおり

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VS魔王軍残党

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「わーれーは海の子、し~らなーみーのー」

 照りつける太陽の下、雄大な大湿原を裂くように引かれた1本の道に沿って、魔導戦車は亜人保護区へ向かって進んでいた。
 その砲塔上部にわたしたちは直接乗ってるんだけど、足をブラブラさせながら、クロエがなにやら口ずさんでいた。

「クロエ、なにその歌?」

 戦車のエンジン音で少し聞こえにくかったけど、1番が終わったくらいのタイミングで彼女に尋ねてみる。

「ああこれ? わたしのお母さんが生まれた国の歌でね、よく歌い聴かせてくれてたんだ」
「情緒があって良い歌ですね~、どこの国の歌ッスか?」

 砲手席のハッチから顔を出したセリカが、物珍しそうにしている。
 周りに魔物もいないし、たぶん今は暇なんだろうな。

「東の東のこれまた東、極東にある海に囲まれた島国なんだって」
「ああ、それで歌詞に海の子が入ってるんですね、外国の民謡ってあまり聴かないんで新鮮でした」

 東の東......。
 ふと、以前フォルティシア中佐が話していた民族を思い出す。
 わたしは、おもむろにクロエの腰まで伸びたサラサラの黒髪を触り、振り向いた彼女の目を見た。

「ん? どうしたのティナ、髪になんか付いてた?」

 不思議がるその瞳は純黒に染まっていて、たまらず吸い込まれそうになる。
 今思えばストラトスフィア王国では滅多に見ない外見だ。

「クロエってさ、もしかしてハーフだったりする?」
「おぉ! ティナよく分かったね! さっすが~!」

 人によっては神経の使う質問だけど、とりあえずクロエはノリノリで返してくれた。
 それは良い、いいんだけど相変わらず距離が近い! いきなり後ろからハグしてきたクロエが、両腕をお腹に回して抱きしめてくる。

 セリカに至ってはなぜか顔を紅潮させている始末だ。

「やっ! ちょっ、人のお腹を触るなーッ!」
「いたっ!」

 引き剥がすと同時にチョップをクロエの脳天へおみまいし、わたしは自分のお腹をひた隠す。

「あなたやっぱり変態よ変態! これ以上やったら距離感を物理で教え込むからね!!」
「もうバッチリ教えられたよ~......、って、ねえティナ――――あれなに?」
「はぁ? ごまかそうたってそうは......」

 だが、視線を前に向ければ、すぐさまそれは視界に映り始めた。

「なにか昇ってる......、煙?」

 走行する戦車の上に立って、稜線《りょうせん》越しに見えるのは黒煙。
 地図を取り出したセリカが、取り乱しながら叫ぶ。

「この方向......、間違いありません! 亜人保護区の方です! ルクレール戦車長!!」
「チッ、魔物共に先を越されたか! 全速で走るぞ!!」

 巡航だった魔導戦車が猛々しく唸り、猛然と加速した。

◇◇

 ――――亜人保護区 キャットピープルエリア・アラル村

 キャットピープルは名の通り人間の体に、猫のような耳と尻尾を持つ種族で知られている。
 彼らは30年前魔王軍の侵略によって激的にその数を減らし、一部の人間からも迫害されていたことから、戦後はストラトスフィア王国に部族の庇護を求めた。

「ひどい......」

 駆けつけたわたしたちの視界へ入ったのは、傷つき道端に倒れ伏す住民たちだった。
 火を使った攻撃を受けたのか、石畳には残り火がくすぶっている。

「全周警戒! 負傷者を1箇所に集めるぞ!」

 思わず固まってしまっていたわたしを尻目に、ベテランのルクレール軍曹が的確な指示を飛ばしてくれた。
 戦車から飛び降り、近くに横たわる住民へ駆け寄った時だった。

「あのっ......、王国軍の人たちですか?」
「えっ?」

 路地裏からゆっくり出てきたのは、可愛らしいネコミミ獣人の少女。
 今まで隠れていたのか、ひどく怯えている。
 でもどこか様子がおかしい

「わたしたちは王国軍よ、あなたたちを助けに来たわ。この村は魔物に襲われたの?」
「うん......、それで、それ――――――――」

 いきなり倒れ掛かってくる女の子、けど、その理由は背中に突き刺さった数本の矢が証明していた。
 まさか――――――――

「クキャキャキャキャキャキャキャッ!!!」

 気配を消して屋上に潜んでいた【スケルトンナイト】が、わたし目掛けて剣を叩きつけてきた。
 反射で飛び退いた直後に抜剣、体ごと回転させ、一切の躊躇なくガイコツの首を斬り砕く。

 負傷者を使っての待ち伏せ、魔王軍残党にしてはかなり狡猾ね。
 でも、これならレンジャー教育の戦闘訓練で想定された範囲内。
 対処できないことは――――ッ!?

 視界の隅で輝いたそれを見て、訓練された体がほぼ無意識に回避運動を行う。
 数秒前にいた場所が火炎に包まれた。
 焼け焦げた地面で察するべきだった、ここを襲った敵は剣を振り回すだけのスケルトンナイトだけじゃない。

 集会所の屋根上に浮いていたのは、魔法の照準をこちらへ向けた5体の【スケルトンメイジ】。もう今から回避は間に合わない!
 廃れたローブの内側で光る目を見て、とっさに獣人族の少女を庇った時だった。

 黒髪を太陽に輝かせた少女が、わたしの前に飛び込んできた。

「っさせるかぁッ!!」

『マジックブレイカー』を発動したクロエが魔法に触れると、まるで蒸発するように『ファイアボール』が一瞬で消し飛ぶ。
 格闘徽章を持つ彼女は、高速で放たれた魔法全てを、洗練された体術で全て叩き落とした。

 元アンチマジック大隊を前に魔法は通じない。
 そう言わんばかりの動きに感嘆していると、後方にいた戦車が駆けつけ、ルクレール戦車長が車体上部の《魔導機関砲》という武器を操った。

「その娘を後ろに隠せ! 発射ッ!!」

 魔力を源にしたその武器は大型の魔法杖《まほうじょう》、引き金を引けば魔導士でなくとも魔法弾を撃つことができる。

 ――――ダンダンダンダンダンダンダンダンダンッッ!!――――

 魔法弾の直撃で、瞬く間に撃ち落とされるスケルトンメイジ部隊。
 魔王討伐後に発達した技術は、かつて猛威を振るっていた魔王軍残党を一方的に倒すまでになっているとは聞いてたけど......。

「ヒャア~さすが戦車、スケルトンメイジがあっと言う間に......」

 対魔法戦闘のプロフェッショナルであるクロエも、次世代の兵器の威力に驚嘆しているようだった。
 ちょうど最後の1体が撃ち抜かれた瞬間、魔導機関砲は焦げ臭い煙を出し始めた。

「クソッ、もうオーバーヒートか! やはり試作品だけあって実運用には難ありだな」

 まだ未完成なのか、かなりギリギリだったみたい。
 周辺の制圧を確認後、戦車内に置いてた衛生キットで女の子の応急処置を行う。

 幸い出血は大したことない、急いで王都に搬送すれば十分助かる傷だった。

「あなたたち!! 魔王軍でないなら所属と目的を言いなさい!!」

 突如飛んできたのは女性の声、村の入り口を見れば、弓矢を構えたキャットピープルの集団が、殺意に満ちた目でこちらを見ていた。
 でも、ルクレール戦車長は一切物怖じせず声を張る。

「我々は王国軍です! 救援要請を受けて派遣され、さきほど到着しました! 負傷者の手当てを手伝ってもらいたい!」

 ルクレール戦車長の返答と、散らばったスケルトンの残骸が裏付けされたのか、彼らは弓を下げた。

「失礼しました! 我々はここアラル村の自警団です、追っていたスケルトンメイジはそちらで倒してくれたのですね、救援に感謝します」

 隊長らしきネコミミの女性は、敬礼をして安堵の表情を見せた。
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